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効果的なデザインフィードバックのもらい方・与え方

デザイナーであれエンジニアであれ、誰かのアウトプットに対してフィードバックしたり、逆にアドバイスをもらったりする機会は多いと思います。
それに比べて、効果的なフィードバックの与え方・もらい方について学ぶ機会は少ないように思います。

今回は、効果的なフィードバックの方法として「デザイン批評」について調べてみました。1人のデザイナーとして、できるだけすぐ実践できるようまとめてみます。

効果的なフィードバックは「批評」の姿をしている

デザイン批評とは何でしょうか?
デザイン批評について論じた書籍「みんなではじめるデザイン批評」には以下のようにあります。

批評は、デザインしたものに定められた目標や目的を実現する機能があるかどうかを問うための、批判的思考を用いた分析である。

ちなみに批判的思考を調べると、Wikipediaでは以下のように出てきます。

批判的思考(ひはんてきしこう)またはクリティカル・シンキング(英: critical thinking)とは、あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法である。


上記を合わせて考えると、デザイン批評のポイントは、
・目標や目的に対し、デザインが適切か?を見る
・具体的な箇所(問題)を特定して分析する
・最適解に辿り着くために行う

といえそうです。

図1

まだ少し抽象的かもしれませんね。では、反対に「批評のようで批評でないもの」を観察していきましょう。

批評のようで批評でないもの

(1)「かわいいね」「わたしコレ好き!」という主観的な感想
コミュニケーションの一環としてはあってもいいですが、感想を言うことに終始しないことが大切です。
特に、上司から部下に対する主観の表明は、時に圧力になりかねないため注意しましょう。

(2)「ここ、モーダルにしたら?」などの具体的な解決策の提案
詳しくは後述しますが、具体的な解決策を考える創造的思考は、目の前の対象を観察し、より良い方向性を考える分析的思考と同時に行うことはできません。
分析のステップを飛ばしていきなり解決策を創造すると「なぜ変えるのか?」という目的意識を取りこぼしてしまう恐れがあるため、デザイン批評においては、分析と解決策の提示は明確に分ける必要があります。

(3)「何かフィードバックありますか?」の”フィードバック”
「フィードバック」とは「反応」です。それが主観的な感想であれ、解決策の提示であれ、反応が起これば「フィードバック」になってしまいます。デザイナーは、様々あるフィードバックの中でも批評的フィードバックをする・してもらうようにすることが大切です。
「何かフィードバックありますか?」のような表現はつい使ってしまいがちですが、具体的にどんなフィードバックが欲しいのかを指定していないので、有益な批評がもらえない可能性を自ら高めているといえます。

(4)「この方向性で進めていいですか?」という”お伺い”
この言い方を使うとき、その人が求めているのは「これでいいですよ」という承認であり、批評的意見ではありません。
承認や意思決定を目的とした場なら、「最終案が決まること」「結論が出ること」を目指しますし、参加者もそのつもりで参加します。
一方で、批評の場では結論付けや最終決定がなされるとは限りません。あくまでより良い方向性を探るための場だからです。

デザイン批評のやり方

ここまで批評とは何か、何ではないのか、を見てきました。
ここからは、実際にデザインの現場においてどのように批評を実践するかをステップに沿ってまとめていきます。

図2

(1)批評のタイミングを決める

デザインについてフィードバックをもらうのはいつがいいのでしょうか?
結論から言うと「遅すぎても早すぎてもいけない」に尽きます。
批評は、目的に対して最適なデザインを行うために実施するものですから、言うなれば「デザイナー本人の中には、目的に照らして適切なデザインの案があり、それを人に説明することができる。かといって、デザインの最終形が決まっているわけではなく、もっと良いアイデアを得た場合には軌道修正する余地がある」という状態になったときが批評のタイミングです。
このため、明確に「いつ」というのを決めるのが難しいんですね。
キリが良いから、決めやすいからといって、プロジェクトのスケジュールを基準に批評のタイミングを決めることは避ける方がいいですせっかく良い示唆をもらっても「2営業日で対応可能な部分だけ反映しますね」といったように、時間的制約を基準にした優先順位付けになってしまいやすいためです。

(2)誰に参加してもらうかを決める

デザイン関係者はもちろん、マーケティングに詳しい人、営業活動に参加している人、普段カスタマーサポートを担当している人など、様々な視点を持つ人に批評してもらうことをおすすめします。デザイナーだけの議論では得られない示唆が期待できます。
このとき「Aさんは話が長いからやめとこう」といった判断や、「デザイナーじゃない人を呼ぶと議論が散らかりそう」といった判断は尚早です。誰を呼ぶべきかは、あくまで有益な批評につながる視点を持っている人物か?で判断すべきです。個々人の性格やコミュニケーションのクセに関しては、批評を実施する場で対処しましょう。

(3)批評の対象となるデザインを、事前に関係者に送付する

デザイナーとしては、少し気の重くなるステップです。
事前にシェアしたら、修正リクエストや質問を山のように送ってくる人がいるかもしれません。デザイナーの経験則上、かなり抵抗感があるアクションです。
しかし、せっかくフィードバックをもらうなら、「なんとなく」「薄味の」ものをたくさんもらうより、本当に芯を食った意見が欲しくありませんか?
クリティカルシンキングのプロ(?)でもない限り、初見のアウトプットに対して即座に的確に批評を行うことは難しいです。そこで、あらかじめ目を通してもらい、少なくとも「初見の状態」からは全員が脱した状態で批評を始め、時間を有効に使いましょう。
デザインを送付する際には、意図や見てほしいポイントを添えましょう。そうすることで、前述したような突拍子もない薄味のリアクションをある程度防ぐことができます。

(4)批評を実施する

参加者を集めて、批評を行います。メールやチャットではなく、場を設けて批評を行うメリットは、
・対話によって進められる(不明点や反対意見があった際にその場で解決できるし、意見交換による相乗効果が期待できる)
・関係者全員の目線合わせができる(後から修正指示が来たり、「実は納得してなかった」などの発生を防げる)

というのが大きいと思います。

もしかすると、(3)のステップで送付した内容を読んでいない人もいるかもしれませんので、今一度デザインの概要、意図、今日批評してもらいたいポイントを冒頭でおさらいしましょう。
批評してもらう側、する側それぞれが気をつけるべきことは、後述の「心構え」パートでご紹介しますが、全体として特に大切なのは「解決策のブレスト大会」にしないことです。
書籍「みんなではじめるデザイン批評」には次のようにあります。」には次のようにあります。

人間の脳は、分析的思考(情報を取り込んで比較する)と創造的思考(アイディアを組み合わせて有望なソリューションを生み出す。またの名を問題解決という)の両方を意識的に同時に行わないことを思い出す必要がある。

つまり、参加者のうちの1人でも「やっぱり、そこモーダルにしたらどうかな?」と問題解決思考になれば、「アコーディオンという選択肢もあるね」と他の参加者も引っ張られていき、まず目の前のデザインを分析するという目的が達成できなくなってしまうからです。普段から効率や時間の意識が強い人ほど気をつけるべきことかもしれません。

(5)内容を持ち帰り、検討する

前述したとおり、批評の場の中では具体的な解決策は提示されません。そのため、批評を受けた側が情報を整理し、アクションに変換し、優先順位をつけていく必要があります。
例えば、「メインの体験シナリオより、補足的なコンテンツの方が目立っているように感じる。新規ユーザーが迷う原因、ひいてはCV率の低下につながるリスクがあるのではないか」という批評を受けたのであれば「当該画面におけるコンテンツ優先度について、目標KPIに沿うよう情報設計を見直す」といった風に、デザイナーを主語としたアクションリストに置き換えていきます。
批評は、指示でも最終確認でもありませんので、もらったフィードバックを必ずしもすべて反映する必要はありません。あくまでそれらをヒントに、デザイナーの意思を注入し、最終化していくことができます。

批評してもらう側の心構え

ここからは、前述したステップのどこにいるかに関係なく、批評してもらう側に大切な心構えをまとめていきます。

図3

自分からフィードバックを求めよう
「よろしければ、あなたのデザインを批評してあげましょうか?」とデザイナー当人に声をかけてくる人はあまりいないかもしれません。
批評する側には、自分の意見がデザイナーを傷つけたらどうしよう、プレッシャーになったらどうしよう、という気持ちが少なからずあります。また「そろそろデザインが40%ぐらい固まった頃かな?」というのは、当人以外には判断しづらいものです(そしてそれを聞くのも気を使うものです)。
気を逃さずに批評の機会を作るためにも、デザイナー自ら動きましょう。

デザインの意図を説明する。ただし自己弁護に終始しない
批評する側に必要なのは、なぜこのデザインが採用され、それがどのように目的達成に貢献するか(とデザイナーが考えたか)という情報です。ここを簡潔に説明しましょう。
「〜というパターンも考えたんですけど、どうもスペース的に収まりが悪くて…」といった情報は、最初の説明では不要です。もし「他にはどんなパターンを試しましたか?」といった質問が出るようであれば、追加で回答しましょう。

フィードバックをもらいたいポイントをはっきりさせる
「ペルソナAは、CV直前にもう一度利用条件を念入りに確認したいだろうと考え、画面を遷移せずに必要な情報を見られるようにしました。この点についてどう思いますか?」
といったように、製品やサービスの目的と、それを実現するために施したデザインの意図を説明できればパーフェクトです。
また、「今回みんなで議論したいのはCV完了までの体験で、以降のシナリオについては別途検討します」といったように、今回は対象にならない範囲をあらかじめ明示してあげるのも、議論がスムーズに進むかもしれません。
デザイナー自身の目標がはっきりしていることで、批評する側も的を絞って発言することができます。

批評する側の心構え

次に、批評する側の心構えについて紹介します。

図4

頭に浮かぶことと、言葉にすべきことを分けて考える
批評する人も人間ですから、初めてデザインを見たときに主観的な感情が沸き起こるのは避けられません。重要なのは、それを「批評」としてデザイナーに伝えるべきか、を一度立ち止まって考えることです。
伝えるべきだと感じたときは、その意見が製品やサービスの目的達成を考える上でなぜ重要だと思ったのかをきちんと説明しましょう。自分自身の思考を整理するトレーニングにもなると思います。

質問することを恐れない
批評を求められているのに、質問することを申し訳ないと感じるかもしれません。しかし、繰り返しになりますが、デザイン批評は「製品やサービスの目的に照らして、デザインが適切かを分析する」行為なので、デザインの意図について正確に把握する必要があります。そのために知りたいことはどんどん説明しましょう。
時に「どうして〜したんですか?」という言い方は、日本語では少しきつく感じられる場面もあるかもしれません。そういうときは「〜という目的を達成するために、意識したポイントを教えてください」といったように言い換えてみてはいかがでしょうか。

どの箇所についての批評なのか明確にする
批評は単なる反応ではなく、デザインを前に進めるための分析ですから、どの箇所について話しているのか明確にしましょう。
同様に、一度にたくさんの箇所について言及するのではなく、1つずつ具体的に批評していくようにしましょう。批評を受ける側が正確に理解できますし、他の参加者から有益な補足があるかもしれません。

筆者の個人的な感想

(1)批評は、思ってたよりずっと”対話”的な取り組み

日本語で「批評」というと、なんとなく「悪いところを指摘する」というようなイメージがあるように思います。加えて、指摘する側・される側の立場が明確にあり、答弁のような形で進行するイメージがあったので、デザイン批評における「全員が対等な参加者」「答えを出すことがゴールではない」というスタンスは少し新鮮に感じました。
「批評のようで批評でないもの」で前述した「承認(のためのレビュー)の場」と「批評の場」の違いは明確に認識しておくべきだと感じました。

(2)キーワードは「なぜ?」と「本当に?」

批評に必要なスタンスを端的に言い表すとすると、「なぜ?」と「本当に?」を立ち止まって丁寧に考えることなのかなと思いました。
「解決策を出すことが批評ではない」と繰り返しご紹介していますが、解決策思考のまずい点は、この「なぜ?」と「本当に?」を(無意識的に)スキップしてしまうリスクの大きさにあると理解しています。
筋が良さそうな、斬新な解決策をいくら出せても、この2つが欠落していると「そもそも何でこのデザインになったんだっけ?本当にこれでよかったんだっけ?」というそもそも論への立ち返りが発生してしまうリスクがあります。
デザイナー自身も、デザインの段階から自分に「なぜ?」「本当に?」を問い続けることは、ユーザーを理解したデザインをし、そしてそれを他者に説明するスキルのトレーニングに役立つと思います。

(3)関係者全員が批評スキルを習得する大切さと難しさ

デザイナーがチーム外の人にフィードバックを求めづらいと感じる場合、原因として「共通言語が足りないこと」があるかと思います。
つまり、「デザインに詳しくない人にフィードバックをもらうと、的はずれなことを言われるのではないか?」「フィードバックをもらっても、なんとなく理解できない」という感覚です。
デザイン批評の「製品やサービスの目的と、そのためのデザイン意図を明確にし、それに対して分析を行う」という工程は、異なる立場の人を同じスタンスに立たせてくれるという点でとても有用だと感じました。
一方で、そのためにはフィードバックを求めるデザイナーだけでなく、フィードバックを与える関係者全員が批評スキルを持つ必要があり、それは難しいことだとも感じました。

(4)批評をファシリテートする力は強力なツール

前述した点の解決策として、批評の場にファシリテーターを導入するということが考えられます。要は、誰かが感情的な意見・抽象的なコメントをしてしまった場合に「そう感じたのはどんな部分ですか?」「その点が、製品やサービスの目的に対して重要だと感じたのはどんなところですか?」と軌道修正してくれる人がいれば、批評の場は成立するということです。これは、全員に批評スキルを身に着けてもらうよりも現実的な手段ですね。
これについては「みんなではじめるデザイン批評」の中に詳しくまとめられているので、フィードバックの機会が多い方はぜひ一度目を通してみることをオススメします。デザイナーでない方でも、ごく一般的に役に立つスキルだと感じました。

参考書籍・ソース

最後に、本記事を書くにあたって参考にさせていただいたソースをご紹介します。

既に読まれてる方も多いかもしれませんが、とても良い本なのでご紹介。
批評の中でも、デザイン文脈での批評にフォーカスを当てた本はめずらしいと思いました。
批評とは何か、それがなぜ役に立つのかといった基本から始まり、この記事で紹介したような「具体的にどう批評の場を作っていくのか」など実践も、事例をまじえて丁寧に教えてくれます。
勉強になるのはもちろん、デザイン現場におけるあるあるを読んでいるだけで慰められます…

Adobeが紹介する、デザイン批評における「Do's(すべきこと)」と「Don'ts(すべきでないこと)」のリストです。
英語ですが、すぐに真似できるアクションと、その理由が簡潔に記載してあります。

同じく英語ですが、アメリカのBliley Technologiesという会社のブログ記事です。本当はdesign reviewについての記事なのですが、紹介されているステップや原則は「みんなではじめるデザイン批評」の実例にかなり沿ったものだったので、参考にさせていただきました。

以上、効果的なデザインフィードバックの方法として、デザイン批評についてご紹介しました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読んでくださりありがとうございます!