見出し画像

2023年 今年の16冊

田中志です。これは今年の読書記録です。合計約1.3万字。
面白そうだなと思う本があった方はぜひ買って読んでみてください。↓が過去版です。

2013年から1年に読んだ本のまとめをはじめました。
・10冊に絞ってまとめていた2014年
・収まりきらなくなった2015年
・個人的に大ヒット年だった2016年
・ちょっと構造化してみようかとトライした2017年
・前置きを書いてみた(が読み返して冗長だった)2018年
・原点回帰、シュッとさせた2019年
・おすすめ感スパイスを振りかけた2020年
・SFに回帰して全体30冊超えてもうた2021年
・もう10年かーと思いながらまた30冊紹介した2023年

リンクから飛べます。

今年取り上げるのは…

書籍12冊、マンガ4作品の構成でお届けします。


イーロン・マスク 上・下

 …2年の長きにわたり、アイザックソンは影のようにマスクと行動を共にした。打ち合わせに同席し、工場を一緒に歩き回った。また、彼自身から何時間も話を聞いたし、その家族、友だち、仕事仲間、さらには敵対する人々からもずいぶんと話を聞いた。そして、驚くような勝利と混乱に満ちた、いままで語られたことのないストーリーを描き出すことに成功した。本書は、深遠なる疑問に正面から取り組むものだとも言える。すなわち、マスクと同じように悪魔に突き動かされなければ、イノベーションや進歩を実現することはできないのか、という問いである。

Amazon書籍紹介

 本屋さんもAmazonも楽天ブックスも小手先のビジネス書であふれかえっています(私が今年出版した2冊目単著もそれです)が、本当に良い仕事をしたかったら「賢くなって、死ぬ気で長時間、脇目を振らず働く」こと以外に道はないと感じさせてくれる本でした。イーロン、世界中の人があなたについてあることないこと言うけど、あんたはすごい。絶対に同じ人生を歩みたくない(耐えられる自信がない)

 この本を読んだのは9月、その少し前7月に読んだ『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』も名作でした。1998年に創業して2002年に15億ドルでeBayに買収されるまでのドキュメンタリー。PayPalの経営から追い出されるシーン、悲哀に満ちています。

 この自伝では、彼がPayPalの株式売却で得た1億8,000万ドルを使ってなぜスペースXを創業したのか(ロシアでふっかけられたから)、何をきっかけにテスラの経営に関わるようになったのか(未だに誤解している人がいるが彼は創業者ではない)、家族関係どうなっているのか(「イーロンマスク 子ども 名前」で一度ググって欲しい)など、きれい事ではないスタートアップライフが垣間見えます。

 これからテスラ(あるいはスターシップかハイパーループ)に乗ることがあったら、無機物の固まりからでも血と汗と涙を感じることが出来るはず。

感情を逆なでしてしまった方々に、一言、申し上げたい。私は電気自動車を一新した。宇宙船で人を火星に送ろうとしている。そんなことをする人間がごくふつうでもあるなどと、本気で思われているのですか、と。
──イーロン・マスク (2021年5月8日のサタデー・ナイト・ライブ)

本書より

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実

70年代後半から80年代にかけ、世界を股にかけ、未知の生物や未踏の秘境を求めた男たち。それが川口浩探検隊。ヤラセだとのそしりを受け、一笑に付されることもあったこの番組の「真実」を捜し求めるノンフィクション。当時の隊員たちは、どのような信念で制作し、視聴者である我々はこの番組をどのように解釈してきたのか。そして、ヤラセとは何か、演出とは何か。当事者の証言から、テレビの本質にまで踏み込む危険な探検録。

Amazon書籍紹介

 著者・プチ鹿島さんが推しです。マキタスポーツさん・サンキュータツオさんと3人がパーソナリティを務める『東京ポッド許可局』をきっかけに本書を手に取りました。昨年はサンキュータツオさんの「これやこの」、今年はこれです。

 やたらとヤラセに厳しい昨今ですが、製作者も視聴者もヤラセど真ん中を受け入れながらやっていたら、なんなら真剣なドキュメンタリーよりも優れたコンテンツが生まれてしまう不思議。

 「テルマエ・ロマエ」等で知られるヤマザキマリさんがこの本に寄せた書評が素敵でした。

…全ては作り話なのだと勘ぐりながらも視聴を止めることができなかったのは、大の大人が皆満身創痍の覚悟で懸命にノンフィクションを装ったフィクションを作っている姿に励まされていたからだ。大人になっても、ばかばかしいことをやり続けてもいいのだという希望を感じたかったからだ。 

東京新聞オンライン

 息苦しい世界でも、真剣に馬鹿らしく生きていこうな。

目的への抵抗(シリーズ哲学講話)

自由は目的を超える――。『暇と退屈の倫理学』の議論がより深化、危機の時代に哲学の役割を問う!

自由は目的に抵抗する。そこにこそ人間の自由がある。にもかかわらず我々は「目的」に縛られ、大切なものを見失いつつあるのではないか――。コロナ危機以降の世界に対して覚えた違和感、その正体に哲学者が迫る。ソクラテスやアガンベン、アーレントらの議論をふまえ、消費と贅沢、自由と目的、行政権力と民主主義の相克などを考察、現代社会における哲学の役割を問う。名著『暇と退屈の倫理学』をより深化させた革新的論考。

Amazon書籍紹介

 暇と退屈の倫理学、まわりにも"印象に残る本"としてあげる方がたくさんいます。その著者、國分功一郎さんの論考。その主旨は、本書冒頭の↓に集約されています。背景にあるのは、コロナ禍で一気に広がった「不要不急」の論理に対する不信です。

自由は目的に抵抗する。自由は目的を拒み、目的を逃れ、目的を超える。人間が自由であるための重要な要素の一つは、人間が目的に縛られないことであり、目的に抗するところにこそ人間の自由がある。

本書冒頭より

 記号や機能目的を超えて、贅沢・浪費に至ってこそ、人は自由を追求できるんや。「すべてを目的に還元する論理、目的をはみ出るものを許さない論理」(本書 Kindle位置:1,398)を徹底的に拒否しなくてはいけない。

 日々、目的に縛られた人たちと仕事をしています。売上を上げなくてはいけない、X年後に会社を上場させなくてはいけない、X日後までに成果物を出さなくてはいけない、、、

 より良い成果を出すために「目的」起点で動いているはずなのに、果たしてその目的が本当に良いインパクトをもたらしているかどうかは誰も検証していない。そんな気がします。

 この本を6月に読んで、以来心の中に残っていた種火(あるいは目的ベースでの仕事術への疑問)が、↓で紹介する「エフェクチュエーション:市場創造の実行理論」を読んだときの気付きに繋がった気がします。読書における経路依存性の大きさ、日々痛感しています。

本書の中で紹介されるガンジーの言葉、

あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである。

とても良いですね。本当にその通りだ。絶望しつつ真剣に無意味なことをしよう。

こんなとき私はどうしてきたか (シリーズ ケアをひらく)

本書は、ある病院の研修会で中井久夫氏が話した内容をまとめたものです。

中井氏は現代ギリシャ詩やヴァレリーの名翻訳家、あるいはルネッサンス型博識を織り込んだ香気あふれる文章家として知られていますが、一方で、きわめて実務的な「現場の人」であり、「身体の人」でもあります。
本書でも、暴力をふるう患者さんを抑える方法、誰からも文句の出ない病棟編成の仕方、「患者に初めて出会ったときの第一声はどうするか」「隔離室から出るときにはなんと言うか」等々、さまざまなアドバイスが、これまでの中井氏のイメージを覆すようなエピソードとともに語られます。

"きれいごと"でないアドバイスは美しい。そして、真に臨床的な人だけが持つ「希望を失わない力」を感じていただければ幸いです。

Amazon書籍紹介

 医学書院さんが展開されている「ケアをひらく」シリーズは、医療関係者だけではなく、人と触れあう仕事をする方すべてにとって学びのある本で溢れています。昨年亡くなった精神科医・中井久夫先生が、どんなふうに患者さん、スタッフ、医療現場と向き合ってきたかを講演形式で綴る本書、やさしいし、読みやすいです。

 第1章に、

「匙を投げない」ことをどう伝えるか

という項があります。私の仕事でもこれはとても大切なことで、ともすれば「この人はわたし/わたしたちを見限っているのではないか」という疑い/思念をもたれてしまうこともあり、まさにこの本のタイトルにある中井先生の「こんなとき私はどうしてきたか」は最高の参考事例です。

 日々の仕事の中で、挨拶を通じて「病棟を耕す」お話しも出てきます。どんなに忙しくなっても、圧倒されることなく、荒れ地に鋤・鍬を入れるように、挨拶を通じて場を馴染ませていくんだと。この本を読んだ秋から、私の挨拶頻度は3倍(当社比)になりました。

 ケアをひらくシリーズ、まとめ買いしてまだ10冊ほど積ん読があります。2024年の読書の楽しみに。(医学書院:シリーズ ケアをひらく

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)

自傷患者は言った「切ったのか、切らされたのかわからない。気づいたら切れていた」。依存症当事者はため息をついた「世間の人とは喋っている言葉が違うのよね」

――当事者の切実な思いはなぜうまく語れないのか? 語る言葉がないのか? それ以前に、私たちの思考を条件付けている「文法」の問題なのか?

若き哲学者による《する》と《される》の外側の世界への旅はこうして始まった。ケア論に新たな地平を切り開く画期的論考。

Amazon書籍紹介

 「シリーズ けあをひらく」から、「目的への抵抗」著者・國分功一郎さんさんの著作をもう1冊。再読です。過去20人くらいに直接薦めてきたんですが、読んでくれた方はもれなく「最高でした!」と感想を送ってくれた本です。

 現代社会にいきていると、「依頼する・される」「やる・やられる」そんな能動態vs受動態の世界観が自然と染みこんでいます。著者は、この対立構造こそが、その我々の思考様式を決定的に規定している要素の一つだと指摘します。

中動態への注目の契機となったのは、日々「自分の意志を示さなければならない」「責任を果たさなければならない」という声に苛まれている依存症の人々との接触であった。つまり、その人自身の意志ではどうしようもなく責任もとれない場面であるにも関わらず、その人の行動がその人自身の意志・責任へと帰属される場面である。中動態の世界とは、現代社会において、個人の意志・責任や選択といったことが問題となる場面をどのように考えるかという議論に開かれている。

大阪大学 人間科学研究科 共生学系

 本書の中で取り上げられるのは依存症患者をはじめとした「受動態」側のひとなんですが、わたしはむしろ、自分は責任感のある人間だ、自分は意志の強い人間だ、と自尊心を保ってきた人に「そこでいう責任とは何か?意志とは何か?」と問いかけたい。果たして、それはあなたが誇るべきことなのかと。

 引き受ける存在になろう。So it goesの精神で。

食べること考えること

「食べものって、単なる死骸のかたまりなんですか?」――コピペ時代の「食」の歴史/物語。

ナチス時代の人びと、あるいは明治時代の貧民窟で暮らした人びとは、何を食べていたんだろう? 原発やTPPで揺れるわたしたちの食生活は、これからどうなっていくのだろう? ホコテンと公衆食堂が必要なわけは......? 歴史の細部から新しい物語をつむぎだし、エネルギーや生命倫理、生活文化をめぐって、わたしたちに共考をうながす多彩なテクストを集めました。『ナチスのキッチン』で一躍脚光を浴びた著者と一緒に、これからの「食」や「農」のあり方について考えてみませんか?

Amazon書籍紹介

 あぁこういう文章を書きたいなぁと感じる著者の方が何名かいらっしゃって、藤原先生はその一人です。

 最近、完全栄養食、これだけたべておけば大丈夫、みたいな食品がたくさんあります。タイパだコスパだといろんな人が持ち上げるコンセプトに乗っかって、最短時間・最小コストで理想の(あるいは生存最低限の)栄養素を摂取できることを謳うおしゃれな商品。それを究極に推し進めると、点滴や胃瘻になると私は思うのですが、果たしてそれはたべることなんだろうか。

 忘年会・新年会は、食を通じた人との関係性・社会を感じる場面として最高です。参加する前にこの本読んで、酩酊する前に少しだけ繋がりを感じる場になるといいですね。

イラン現代史: 従属と抵抗の100年

現代世界のなかで無視できない中東の大国イラン。その現代史は欧米諸国への従属と抵抗に彩られている。19世紀から21世紀の現在まで、欧米列強の度重なる露骨な介入と支配に対して、あるときはそれを受容し、またときにはそれに激しく反発・抵抗してきたイランの歴史を平易に解説する入門書。

「核開発」疑惑や「テロ」問題に絡めて、欧米から貼られる「イスラム原理主義国家」というレッテルとは一線を画し、イラン内部の葛藤や苦悩にも光を当て、この国の真の姿と歴史のダイナミズムを描き出す。初版に改訂を施し、さらに2001年から2019年に至るイラン政治と国際政治の激動に関する新章を加えた待望の「改訂増補」版。

Amazon書籍紹介

 今年8月に初めてイランに行きました。せっかくいくなら事前に勉強するぞとAmazonや近くの書店でイラン関連の本を探したのですが、2023年この瞬間について記した本はあまりなく、なんとか見つけたのがこれでした。

 イランに旅行する、と伝えたとき「危なくない?」と聞いてきた知人・友人の頭の中にあるイラン像はどんなものなのか。たぶん"戦争""イスラム"のような、ここ20年ずっとネガティブな言葉と一緒に報道・伝えられてきた言葉が浮かんだことでしょう。それほど国交の深くない極東の一国民の中で、なぜこのようなイメージが形成されるに至ったのか。この本を通じて少し想像できるようになった気がします。

 ペルシャの時代から連綿と続くイランの歴史は、決して簡単に理解できるものではありません。ゾロアスター教発祥の地であり、ペルシャ人が多く住みながら、いまではアラブ発祥のイスラム教が圧倒的多数派を締め、どの中東諸国よりも厳格な禁酒政策が敷かれている。女性の服装規定を国として定め、対ドルの闇レートが半ば公然と存在している。この本の中で描かれる「イラン内闘争」の帰結は、わずか数日のイラン滞在でも感じることが出来ました。

 同じトーンで、インドネシアやナイジェリアなど、今世紀後半に大国になるであろう国々の現代史も学びたい。世界史の教科書は逆から、現代から遡って読んでいきましょう。

ハッピークラシー ― 「幸せ」願望に支配される日常

 「幸せの追求はじつのところ、アメリカ文化のもっとも特徴的な輸出品かつ重要な政治的地平であり、自己啓発本の著者、コーチ、[…]心理学者をはじめとするさまざまな非政治的な関係者らの力によって広められ、推進されてきた。だが幸せの追求がアメリカの政治的地平にとどまらず、経験科学とともに(それを共犯者として)機能するグローバル産業へと成長したのは最近のことだ」(「序」より)。
 ここで言及される経験科学とは、90年代末に創設されたポジティブ心理学である。「幸せの科学」を謳うこの心理学については、過去にも批判的指摘が数多くなされてきた。本書はそれらをふまえつつ、心理学者と社会学者の共著によって問題を多元的にとらえた先駆的研究である。
 「ハッピークラシー」は「幸せHappy」による「支配-cracy」を意味する造語。誰もが「幸せ」をめざすべき、「幸せ」なことが大事――社会に溢れるこうしたメッセージは、人びとを際限のない自己啓発、自分らしさ探し、自己管理に向かわせ、問題の解決をつねに自己の内面に求めさせる。それは社会構造的な問題から目を逸らさせる装置としても働き、怒りなどの感情はネガティブ=悪と退けられ、ポジティブであることが善とされる。新自由主義経済と自己責任社会に好都合なこの「幸せ」の興隆は、いかにして作られてきたのか。フランス発ベストセラー待望の翻訳。

Amazon書籍紹介

 日経新聞の書評欄で知り即買い、あらゆる積ん読を飛ばして即読みした本です。そのときちょうど、過去仲良しだった人が”ポジティブ心理学”に傾倒し、SNSにポエム投稿を繰り返しているのを目にしていて、自分の「なんじゃこら」問題意識にフィットしたのかもしれません。

 …ここ二、三〇年のあいだに劇的に変化したのは、幸せが登場する頻度や広がりだ けではない。われわれの幸せの理解も大きく変化した。われわれはもはや、幸せが多少なりとも運命や状況に関係しているとは考えていない。つまり幸せは、病気でないことや、人生全体の評価や、愚か者のささやかな慰めではなくなった。今や幸せは、意志の力によってつくりだせるマインドセット (思考様式)になった。われわれの内面の強みと真の自己を実現した結果であり、人生を生きる価値あるものにする唯一の目標であり、われわれの人生の価値を測る基準であり、われわれの成功および 失敗の大きさであり、われわれの精神的また感情的成長の程度なのだ。

本書p3

 理性やネガティブな感情を捨ててまで幸せを追求する姿勢に対して、私は懐疑的です。良いことも悪いもとも抱きしめて、幸せは目的ではなくあくまで充実した人生の副産物として受けとめた上で生きていきたいですね。

 幸福/不幸の一軸で自身の生活を評価しているあらゆる人にお届けします。幸福かどうかなんて、どうでもいいんですよ。

バンド論

 ふだんは会ったりしないのに、もっと言えば、それほど仲が良さそうでもないのに、彼らが音を出し合えば、心がふるえて止まらなかったりする。
昨日ギターを買ったばかりの中学生が、「バンドを組んだ」というだけで、どこか、なぜだか、誇らしげな顔をする。
 絶頂なのに、何かの理由であっさり解散して伝説になったりする。
 ある瞬間にはダイヤモンドより硬く結合する反面、床に落とした消しゴムほどの衝撃で分解してしまいそうな脆さを孕んだ、人間の集合体。
 「バンド」のその魅力、そのふしぎさとはいったい何なのか、という問いの答えを知るために、5つのバンドのフロントマンに尋ねたインタビューが1 冊の本になりました。

 サカナクションの山口さんは「バンド」を植物園に例え、「個性が個性のまま活きる塊だけど、一歩引いて見たら、ひとつの世界が広がってる」というバンド観を。
 bonobosの蔡さんは曲や歌詞を書いたり、つくった歌を歌ってる「理由」そのものが、「バンドだったから」であり、「バンド」が「歌を歌う」場所であることについて。
 くるりの岸田さんは、さまざまに形を変えてきたくるりという音楽の集団の真ん中にあるずっと変わらないもの、「くるりがくるりでいること」について。
 サニーデイ・サービスの曽我部さんは「バンド」というものの原点である「スリーピースの無限の可能性」を。
 そして、ザ・クロマニヨンズのヒロトさんはいまだに憧れている「バンド」への思いと、「ロックンロールとは何か」について。

 5人がそれぞれに「バンド」への思いを大いに語っています。

Amazon書籍紹介

 バンドと全く縁のない人生を歩んできました。それでも、たいへんな仕事で生ぬるくて嫌な会議を終えたあと、たまたま聞いていたラジオでクロマニョンズが流れ、その流れで手に取ったのが本書です。

 いずれも最高なんですが、甲本ヒロトのインタビューが最高です。

まず、仲間と一緒にいることの喜び。
これが、まず大事です。
ぼくは、仲間と一緒にいたいんです。

本書より、甲本ヒロト

ほら、いまの世の中いろんなことが、
うまくいったり、
いかなかったりするじゃないですか。
これはねえ、ある年齢になってから
気づいたことなんだけど、
ぼくは、一生懸命に歌を歌ったら、
いろんなことが、
うまくいくってことに気づいたんだ。

何をしていいかわからなくなったとき、
どうしていいかわからなくなったとき、
ぼくは、一生懸命、歌う。
歌を歌えば、
絶対にうまくいくんだっていうふうに、
バンドをはじめてずいぶん経って、
大人になってから、気づいたんですよ。

本書より、甲本ヒロト

 何をしていいか、どうしていいかわからなくなったとき、あなたは何をすることにしていますか?良いときはもちろん、絶望や混迷の縁にいたとしても、誰かと一緒に何かをしたいと思えるなら、この本から学ぶことがあるのかもしません。

プルーストとイカ ― 読書は脳をどのように変えるのか?

〈文字・読書は、脳を劇的に変える!〉
古代の文字を読む脳から、ネットの文字を読む脳まで、
ディスレクシア(読み書き障害)から、読書の達人まで、
脳科学x心理学x教育学x言語学x文学x考古学をめぐり、解き明かす。

Amazon書籍紹介

 ↑概要の通り、大人はとにかくたくさん本を読みましょう。内容はいいんです。とにかくまずは大量に読みましょう。日本人の平均は年10-15冊くらいのようです。5倍読みましょう。月5冊です。出来るでしょ?

読書の生成的な性質に対するプルーストの解釈には、パラドックスが含まれている。読書の目標は、著者の意図するところを超えて、次第に自律性を持ち、変化し、最終的には書かれた文章と無関係な思考に到達することにあるのだ。子どもが初めて、たどたどしくも文字を理解しようとし始めた時から、読字は、体験すること自体が目的なのではなく、むしろ、ものの考え方を変え、文字通りにも比喩的にも脳を変化させる最良の媒体なのである。

本書、p36

 興味深かったのは、子どもに文字を読ませる時期は早すぎても意味はなく、5-7歳になるまでは文字を読むだけの準備が脳で整っていないから、という事実。そしてバイリンガルについても、3歳より前に2言語に触れた脳は、モノリンガルの脳と同様に、自前の言語として二つの言葉を扱うが、就学後にバイリンガルになった脳は各言語を脳の別々の領域で扱うんだと。
 脳はいろんなことを教えてくれる。

 はていつか私にも、プルーストの『失われた時を求めて』を読める日が来るだろうか。高遠先生の「プルーストへの扉」を(特にその素晴らしいあとがきを)読んで以来、プルーストへの関心の窓が開かれ続けています。

エフェクチュエーション : 市場創造の実効理論

エフェクチュエーションの概念は、「原因と結果」の性質について、社会科学において長らく持たれていた信念に対しての挑戦であり、社会現象についての新しい洞察を産み出す源泉でもある。この概念は特に、最善を尽しても、「原因と結果」の関係を理解することが全くできないような状況におかれている起業家的行動の分析に適したものとなっている。

Amazon書籍紹介

 起業・事業創造論の名著です。詳細感想は、来年1年の間自身の中で熟成させた内容をいつかニュースレターで書くつもりです(なので興味がある方は本記事末尾のリンクから登録しておいてください)引用ベースで内容をさっと紹介すると、

ここで、論理(ロジック)とは、「 世界で行為するための明確な基盤となる内的に一貫した考え」を意味するが、コーゼーションの論理 (causal logic) の前提は、「未来を予測できる範囲において、われわれは未来をコントロール (制御)することができる」というものである。一方、エフェクチュエーショ ンの論理の前提は、「未来をコントロール (制御) できる範囲において、われわれはそれを予測する必要がない」 というものである。

本書より
  • 熟達した起業家は、「自分が誰であるのか (who they are)」、「何を知っているのか (what they know)」、「誰を知っているのか (whom they know)」からスタートし、すぐに行動を起こし、他の人々と相互作用をしようとする。

  • 彼らは、自分ができることにフォーカスして、実行する。何をすべきかについては、思い悩まない。

  • 彼らが交流する人々の一部が、自発的にその取組にコミット・プロセスに参画する。

  • 上記のコミットメントの1つひとつは、新たな手段と目的をそのベンチャーにもたらす。所与の目的を果たすための手段として機能することに留まらない。

  • ネットワークの拡大により各種リソースが蓄積されるにつれ、制約条件が徐々に付与される。その制約条件は、将来の目的変更の可能性を減じ、誰が関与者のネットワークに入って良いか/良くないかを制限する。

  • 関与者が増えるプロセスが時期尚早に停止しない限りは、ゴールやネットワークは、新しい市場や企業へと同時発生的に収束する。

 いろんな不確実性、わからないことがある段階から、目的だ分析だ言ってる場合じゃねえんだよ、まずやれよ(意訳)ってことですね。

 関心がある方、一緒に読書会しましょう。わたしも2周目読み始めるところです。

知的所有権の人類学 ― 現代インドの生物資源をめぐる科学と在来知

知識は誰のものか?
豊富な薬草資源をもつインドに
「知的所有権」という概念が持ち込まれたとき、現地で何が起こるのか。
緻密なフィールドワークにもとづき解明。
過去の労働への対価ではなく、
未来への責任としての所有という概念を提示する、異色の所有論。

Amazon書籍紹介

 とんでもなく面白い(が誰の難という本だったか忘れてしまった)本の中で引用されていたことを契機に知り、買いました。期待を裏切らない面白さ、価格に引けを取らない重厚さでした。

 経済学バックグラウンドの私にとって、知的財産権は「価値ある知識の提供に対する報償」を保障する権利・論理の中で位置づけられるものです。さて、インドの伝統的治療法やアーユルヴェーダのような歴史・コミュニティに紐付いたノウハウ、更にその背景にある薬草やその加工法についての知的財産はどのように定義・翻訳されるべきなのか。

中空講師は、2019年に著書「知的所有権の人類学ー現代インドの生物資源をめぐる科学と在来知」(世界思想社教学社)を出版。薬草など豊富な生物資源を背景に伝統医療が普及しているインドで、「知的所有権」というグローバルな枠組みが持ち込まれた時にどのようなことが起きるかを、10年間にわたって多面的に現地で調査研究した成果をまとめたものです。

広島大学、リリース

 ↑のエフェクチュエーション本も相談ですが、昨年まで自身がある種暗黙の前提としてきた諸概念が崩されていくのを感じたのが今年です。いや、言い読書体験がたくさんあった1年でした。

マンガ】違国日記

少女小説家の高代槙生(こうだいまきお)(35)は姉夫婦の葬式で遺児の・朝(あさ)(15)が親戚間をたらい回しにされているのを見過ごせず、勢いで引き取ることにした。しかし姪を連れ帰ったものの、翌日には我に返り、持ち前の人見知りが発動。槙生は、誰かと暮らすのには不向きな自分の性格を忘れていた……。対する朝は、人見知りもなく、“大人らしくない大人”・槙生との暮らしをもの珍しくも素直に受け止めていく。不器用人間と子犬のような姪がおくる年の差同居譚、手さぐり暮らしの第1巻!

Amazon書籍紹介

 今年完結しました。名作です。周りの人にも勧めまくったのですが、もれなく『面白い』と感想が返ってきます。まだ読んでいない方、全11巻まとめ買いしてください。来年には新垣結衣主演で映画化の予定もあります。

 個人的には、まきおちゃんに共感しまくっています。何かに集中し始めると相手を完全に無視しちゃうとことか(関係各所のみなさまごめんなさい悪気はないんです)

あの日、あのひとは群をはぐれた狼のような目で、わたしの天涯孤独の運命を退けた

第1巻より

わたしは大体不機嫌だし、あなたを愛せるかどうかはわからない。
でも、わたしは決してあなたを踏みにじらない

第1巻より

冒頭からフルパワー、最高です。

マンガ】沈黙の艦隊

日米は、世界でも類をみない高性能な原子力潜水艦「シーバット」を、極秘裏に造り上げる。日本初の原潜であったが、米第7艦隊所属という、数奇の宿命を背負った落とし子でもあった。艦長には、海自一の操艦と慎重さを誇る海江田四郎が任命された。が、海江田は突如、試験航海中に指揮下を離れ、深海へと潜行する。

Amazon書籍紹介

 東京出張でお会いした尊敬する経営者の方からおすすめ頂いたマンガ。1988年開始で90年代に完結した作品ですが今年映画化。大沢たかお目当てで観た方もいるかもしれません。全32巻ですが原作もぜひ。

 スラムダンクを読んだ人のなかで、登場人物の誰が好きか議論をすることがあるじゃないですか(わたしは小暮推しです)それと同じくらいの熱量で、「沈黙の艦隊」に登場する人物の中で誰が好きか・共感できるか、語り、議論できるはずです。魅力的な人物が多すぎる。カリスマ性に溢れた主人公・海江田はもちろん、海自の同期で彼をぶん殴ってで求めようとする深町、忠実な副官・山中あたりが鉄板。もう少し年齢がいくと、総理大臣の竹上、米国大統領のベネット、国連代表のアダムス、ACN社長のデミルなんかもいいかもしれません。登場人物、自分が背負ったものを投げ捨てずに精一杯戦っている人たちです。

 イスラエル・ハマス問題に取り組む米国政府の姿勢・行動をみていると、なるほど海江田が抱えていた問題意識はこれなんだな、と理解できます。正義はどこに。わたしたちは、あなたは、世界をどう考え、どう捉えるか。このマンガは、世界中の対立する個別の正義に対する解像度が高すぎる。

 来年、間違いなく再読することになるだろうマンガです。

マンガ】カフカ 《Classics in Comics》

『変身』ほか、不朽の名作を完全コミック化!!
斬新で大胆で かつ あくまでも正確なカフカ文学の「翻訳」。柴田元幸
フランツ・カフカの名作が西岡兄妹の驚異の筆致で現代によみがえる!!
<収録作品>家父の気がかり / 変身 / バケツの騎士 / ジャッカルとアラビア人 / 兄弟殺し / 禿鷹 / 田舎医者 / 断食芸人 / 流刑地にて

Amazon書籍紹介

 英語版が今年出版され、海外メディアの"Must Read"リストに入っていたのをきっかけに手に取りました。『変身』は大学生のときに新潮文庫で読んで、なんだか不思議な作品だなと思ってさーっと流れていってしまった記憶があります。

「カフカ CLASSICS IN COMICS」はドイツ文学者の池内紀訳によるカフカの作品を西岡が構成、作画したもので、文芸誌モンキービジネス(ヴィレッジブックス)で連載されていた。単行本には連載分「家父の気がかり」「バケツの騎士」「ジャッカルとアラビア人」「兄弟殺し」「禿鷹」「田舎医者」「断食芸人」「流刑地にて」の8編に加え、描き下ろし「変身」を収録する。
「変身」の執筆にあたり西岡は、劇中の“虫”をどう描写するか悩んだ末「虫の姿を見せない」という手法を選択。他のマンガ化や映像化では類を見ないこの試みに、西岡自身も非常に苦心して構成を考えたという。新たなカフカ作品の表現に、原作ファンの注目も集まりそうだ。

コミックナタリー

 まさに。主人公が画として登場しないマンガがあっただろうか。そして、『変身』は最初から最後まで「食」を扱った作品なんだという解説を読んで、↑で紹介した『食べること考えること』と繋がりました。そしてフランツ・カフカの3人の妹がいずれもナチスに捉えられて殺害されたと知り、藤原先生が描いたナチス政権下のドイツ食事事情と、『変身』作品中で(虫になり日々弱りゆくグレゴールとは対照的に)徐々に健康な大人へと変化していく主人公の妹・グレーテのことを考えました。この漫画作品だからこそできた読書体験です。

そしてその他の作品も。『ジャッカルとアラビア人』『田舎医者』『断食芸人』の3作品が特に好みで、圧倒的な不条理さと迫力を感じました。不条理文学の最高峰といわれるカフカ作品ですが、単なる不条理ではなく、そこにあるのは暴力的な非対称性であり、愛と語りであり、執着と別れだと、そんな感想を持ちました。コロナ禍に突入したとき、カミュの『ペスト』が書店に並びましたが、感染症そのものではなく経済・政治のごたごたがニュースのど真ん中を締めていたことを考えると、本来みなが読むべきだったのはカフカの方だったのかもしれません。

今年は12月に『ねじまき鳥クロニクル』の舞台を見て以来、暴力と不条理、その中で生きている/生かされている人間について考えています。読んだタイミングがばっちりでした。最高の漫画の一つです。

マンガ】フラジャイル

岸京一郎(きし・けいいちろう)、職業・病理医。病理医とは、生検や病理解剖などを行って、病気の原因過程を診断する専門の医師のこと。各診療科の医師は、彼の鑑別をもとに、診断を確定させたり治療の効果をはかる。医師たちの羅針盤となり、人知れず患者を救う岸。医師たちは彼について、口をそろえてこう言う。「ヤツは強烈な変人だが、極めて優秀だ」と――。

Amazon書籍紹介

 昨年も紹介した気がします。「JS1 治験フェーズ3編」涙なしには読めない。

 本には出会うべきタイミングがあり、その本が素敵と感じるかどうかはそれ次第です。それでもあえて。あえて言いたいのですが、まだ未読の方にとって、フラジャイルを読み始めるべきタイミングは常に「いま」です。

過去年度版リンク

改めて、過去版へのリンクです。
↑の本たちをみて、なんとなく相性が良さそうだと思ったら、昔の記事も触ってみてください。2020年以降くらいが良い気がします。

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年以前

ここに2013年以降分(一部個別本紹介)があります。

宣伝:毎週発行のニュースレターやってます

3年続けて来年4年目、第160回も間近です。購読してね。毎週月曜朝にお届けします。


応援ありがとうございます!