原作の知識が少ないほど、映画「マリオ」は深く楽しめる ~「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の感想その2~
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、世界レベルでとてつもない人気になっております。
全世界の興行成績は、あっという間に10億ドルを突破。
おそらく、このまま2023年のナンバーワン興行収益の映画になりそうな気配です。
ここまで全世界で愛されているならば、わたしがわざわざ感想を書く必要など1ミリもないわけですが、せっかくこのページを訪れてくれた人のため、ちょっとだけ話を続けます。
というのも、この映画、大きく誤解されているような気がしてならないのですよ。
「原作を知らないと楽しめない」
みたいな意見を、ときおり見かけるからです。映画批評家たち(の中でも、低い点数を付けた人たち)が、そのような意見を発信していることが多いようです。
はっきり言いますが、それって明快な事実誤認だと思いますよ。
わたしの意見は、まったく逆です。この映画、原作を知らないほうが、最終的には何倍も楽める作品じゃないか! ――と、強く感じています。
たしかに、『マリオ』を体験したことがあると、映画内のいろいろなシーンの元ネタが理解できるようになります。
わたし自身、ロートルな人間でありまして、マリオの名がついた初作品となる『マリオブラザーズ』(1983年)も、その前身となる『ドンキーコング』(1981年)も、リアルタイムで夢中になりました。その後、ゲーム関連の物書きになったこともあり、マリオ関連のタイトルは、ほぼすべてリアルタイムでプレイしています。
だから、この映画に出てくるいろいろなシーンの元ネタは、ほぼすべてわかります。
「おお! あの作品の、あのシチュエーションが、こういう形で映画の中に出てくるのか!!」
――と、映画を観ている間、わたしは何度となく胸が熱くなったものです。それはゲームの知識があったからこそのの、得難い体験といえましよう。
「あれ? これって『お料理ナビ』のコックか?」
「あのポスターのイラスト、もしかして『Nintendogs』かも?」
などなど、画面の端々に隠されている小ネタも、わたしは楽しむことができました。ゲームに詳しい人間ほど、こういった形で、この映画を堪能することができるのです。
でも、わたしはゲームに詳しいからこそ、この映画を機に得られるはずだった感動を、たくさん失ってしまっているのも、また事実なんです。
映画館に行かれた方はわかると思うのですが、この映画にはたくさんの子供たちが訪れています。わたしが観に行ったときも、4~5歳の子供たちが、楽しそうに映画に夢中になっている姿がありました。
ここで、いったん立ち止まって、よく考えてみてください。
4~5歳というのは、まだゲームのコントローラーを巧みに操作することができない年齢です。つまり、アクションゲームである「スーパーマリオブラザーズ」本編を、彼ら・彼女らは、あまり体験していないはずなのです。
そもそも、マリオが登場するゲームは膨大ですから、4~5歳の子供は、そのごく一部しかプレイ体験がないはずです。わたしのようなロートルな人間とは違い、40年以上前の『ドンキーコング』(1981年)なんか知るはずもなく、つまり基本的なる元ネタの多くを、ほとんど知らないはずなんですね。
でも、子供たちは、この映画をめちゃくちゃ楽しんでいたわけですよ。
声をあげながら、マリオの冒険に夢中になっていたのです。
彼ら・彼女らは、スクリーンの中でマリオが次から次へとさまざまなアクションを行っている姿を見て、「マリオって、こんなこともできるんだ!」「こんな姿にもなれるんだ!」「マリオって凄い!」と、ただ純粋に驚き、感動し、わくわくした気持ちになっていたのでしょう。
それは、なまじ知識を持っているわたしには、けして味わうことのできない感動です。子供たちは、知識がないからこそ得られる純粋な感動を、この映画から得ることができていたのです。
それだけでは、ありません。
この映画に夢中になった4~5歳の子供たちは、いずれ歳を重ね、難しいゲームもプレイできるようになるでしょう。さまざまな『マリオ』のゲームをプレイすることになるでしょう。
すると、何が起きるのか?
この映画、ゲームの楽しさをそのままパッケージして、きっちりと再現したような作品です。映画ならではのオリジナル要素は、ほとんど入っていません。
それはつまり、スクリーンの中でマリオが行っていたアクションは、すべて忠実にゲームで追体験できるということでもあるわけです。
子供たちには、映画を観て「格好いい!」「楽しかった!」と感動したシーンを、いつの日か、自分の手で追体験する日が訪れます。何度も失敗しながらステージをクリアするために頑張ることも、虹色のコースの上をカートで駆け抜けることも、タヌキマリオになって初めて空を飛ぶ感動を味わうことも、すべてを自分の手で体験できる日がやってくるのです。
それって、絶対に、めちゃくちゃ楽しい体験ですよね。
おそらく、言葉にならないほど感動できると思うんですよ。
映画館にいた4~5歳の子供たちは、タヌキマリオになって、しっぽを振って敵キャラを攻撃し、キノコ王国を救うヒーローになる――という映画を観て感動し、いつの日か、それと全く同じアクションを、自分の手で体験することになるのです。自分の手で、しっぽを振って敵キャラをやっつけていく経験ができるのです。それって、めちゃくちゃ楽しいに決まってるじゃないですか!
ああ、この子供たちは、いつの日が、そんな素晴らしい体験をできるんだだなぁ。
――そんなことに思い至ったとき、わたし、小さな子供たちに、ちょっとだけ嫉妬心が芽生えたことを、ここで告白しておきます。
わたしのようにリアルタイムですべてのマリオのゲームを体験してしまった者には、絶対に味わうことのできない感動を、子供たちは、これから味わうことができるのですよ。それって、すごく羨ましいなぁ……と思わずにはいられなかったのです。
というわけで。
多くの映画批評家たちが発した「原作を知らないと楽しめない映画だ」という意見は、まったくの事実誤認だと、わたしは強く主張したいと思います。
むしろ、ゲームのプレイ経験が少ないほど、この映画は新鮮に楽しめる。
さらに、映画を観終わった後には、「映画と同じ感動を、自分の手で追体験し、改めて感動できる」ためのパスポートを得ることができるのですから、原作を知らない人ほど、この映画はお得なんじゃないかなぁ――と、わたしは強く思っているのです。
もちろん、マリオがゲームのキャラクターであり、カラフルな世界を冒険する物語だ――ということすら知らないまま観ると、なにがなんだかわからず、戸惑う人も出てくるでしょう。それは否定しません。
そういった戸惑いを起こさないためにも、「原作を知らない人は楽しめないよ」と警句を発する必要があるのだ――という批評家たちの考えも、理解できないこともありません。
でも、それって、他の映画でも同じですよね。
『スパイダーマン』を楽しむためには、スパイダーマンが蜘蛛の力を得たスーパーヒーローであることくらいは知っておいたほうがいいし、『ゴジラ』を楽しむには、ゴジラという巨大な怪獣が日本を襲う物語であることは知っておいたほうがいい。そのレベルの知識もないまま見に行くと、なにがなんだかわからなくなるでしょう。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も、それらと同じです。まったく知識がないと、ちょっと戸惑うかもしれません。
でも、マリオはゲームのキャラだよね! くらいの知識さえあればOKです。それだけで問題なく楽しめますし、その後、とびきりの体験をするためのパスポートを得られます。
原作を知らないから――という理由で二の足を踏んでいる方もいるかもしれませんが、それ、あまりにもったいないですよ。むしろ、そのような人ほど、この映画は楽しめるんじゃないかなぁ。
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