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イスラエル日記Day107「はじまりの一色」


染織に関わることがイスラエルにいても何かできないかと思い、イスラエルにある素材を使って草木染めをすることにした。
ひとりでやるのはまっさらのはじめて。

絹糸を使いたかったのだけど、エルサレムでは残念ながら絹の生糸は見つけられず。
代わりにウールの原毛を手に入れることができた。今でも羊の体にくっついているのではないかと思うほど、ひつじの香りがするウール。白くて柔らかい。触るとふわふわで気持ちがよい。
原毛なのでまだ糸になっていない。日本に帰ったら染めた原毛を自分で糸に紡ぐ作業が待っている。勢いで買ったものの、糸にする前に染められるのか心配になりグーグル先生に頼る。原毛のまま染められるとのことで安心する。

染めに使うのは、玉ねぎの皮。市場のおじさんにお願いしたら、ビニールい一袋分ぱんぱんに詰め込んでくれた。

染めた色を糸に定着させるための媒染液。ミョウバンがなかったので、銅媒染液を作ることに。ネットで調べると、お酢と銅線と水で作れるらしい。
身近にあるもので代用する。
お酢→レモン、銅線→10円玉。
お酢は持っていないので(米酢を見かけたことはある)、酸としてのレモン。
奇跡的にあった4枚の10円玉を水とレモンのしぼり汁の中へ。
しばらくするとすぐに、10円玉がぴっかぴかになった。なるとは聞いていたけど、実際に見ると新品の銅板みたいな色。楽しい。
が果たしてこの自作銅媒染液はちゃんと機能してくれるのか。本当は1週間くらい銅を浸しておくことで完成するようだが、すぐにやってしまいたくて30分たった時点で使ってしまった。ウールを媒染液に浸ける。
色を入る前に媒染することを先媒染というらしい。

玉ねぎの皮を水の入った鍋へ。ぎゅうぎゅうに詰め込む。
火にかけてすぐに色が出てきた。ブラウンオレンジ。
光に照らされるときらきら光るオレンジ色がきれいだった。
玉ねぎの香りとわずかに土の匂い。ワイルド味のあるオニオンスープ。
だんだんと濃くなっていく。30分ほどしてから火を止めて、皮を取り出し、液を濾す。濾すために使った布が染色されていく。それさえも嬉しい。
気持ちのよい音をさせながら落ちていく茶色の液体。

一度キッチンを離れて戻ると、羊の匂いと玉ねぎの匂いが充満していた。
大地の匂いにガツンとやられる。野生の優しくない力強さ。臭いと思うくらいのパワー。
これが自然の色を染めるということなのか。すごいぞ大地。

濾した染液に、ウールを沈める。優しく手早く。ブラウンオレンジに、原毛の持つ色が重なりほんのりピンク味が加わった。
ウールは急激な温度変化に弱いとのことなので、じっくり弱火でコトコト煮て沸騰する前に火を止める。一部分だけ引き上げ、握って色を確認する。まだあまり色が入っていない様子。一晩漬けてゆっくり染色することにした。

翌日朝の7時前。色の入りを確認すると前日よりしっかりと色が入っていた。やはりピンク味のある優しいオレンジ。
ウールに変な力が加わりフェルト化しないように、丁寧に水洗いをする。
中にしみ込んだ染液を優しく押し出す。10回以上水を変えて、水に色がつかなくなるまでしっかりと洗った。

平置きになるように干す。嬉しすぎてずっと見ていられる。
5時間ほど経って少し乾いてきた。優しい色に染まっている。ふんわりした質感とあいまって、やわらかい色になった。見ているだけであたたかくなる。ただただ眺めたり触ったり。乾くまでにはもう少し時間がかかりそう。

ウールの原毛本来のしっとりふわふわなやわらかさは少し損なわれてしまった気がする。
加工するっていうことはこういうことなのか。やっぱり糸にしてから染めたほうがいいのかな。

自分で染めて、自分で紡いで、自分で織る。こういうことをしていきたい。
何にも経験のないまっさらなわたしの第一歩。少し踏み出せた気がする。

今日のことがわたしにとって、新しく何かが変わっていくはじめの一歩になるよう願いをこめて。今日のタイトルは「はじまりの一色」

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