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絵の具がなくたって

連日続いた引っ越し作業の中、ようやく荷物の搬出を終えた。

荷物をまとめるのに1週間かかったけれど、業者にお願いしたのは、段ボール3箱と解体したデスクのみ。

業者のお兄さんにも「えっ、これだけ?」って言われてないけれど、そう顔に書いてあった。

搬出作業は、3分も掛からなかった。

お兄さんを見送ったあと、水回りに塩素系漂白剤を撒き散らして、しばらく置いておく間に、キャンバスとか紙を貼っていた木製パネルを解体することにした。

小さいサイズのパネルは、可燃ゴミとしてゴミ袋に入れて処分できるが、大きいパネルは小さく切って捨てなければならない。

ノコギリでギコギコ切っている間に、「このパネルは、高校の卒制を作るときに使ってたな」とか、「学校から借りてそのまま返さなかったやつだな」とか1枚1枚に思い出がつまっていた。

木の棒に切れ目を入れて、梃子の原理で折ろうと右足をかけた時、藍色のズボンの裾にピンクがチラついた。

イヤな予感がした。

ノコギリを床に置いて、恐る恐るアキレス腱の辺りの裾を掴んで見ると、裾が脱色していた。

思わず、悲鳴を上げた。
(ご近所さんには、本当に申し訳ないと思っている)

そして、膝から崩れ落ちた。

一瞬の間に、様々な懺悔が頭の中を通り過ぎていったが、裾をよく見てみると、変色したピンクがズボンの藍と相性が良いことに気がついた。

この漂白作用によって新しい描き方が見出せるかも、と思ったけど、上手いこと活用する方法が思いつかないので、しばらく寝かせておくことにする。

絵の具との相性がいいのか、そもそも筆につけたら毛が痛むような気もするし、インクの除光液みたいなものなのかなとか考え始めたら、なんだかワクワクしてきた。

でも、とりあえずは退去を終わらせないと。