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Agust D "Life Goes On" 絶え間なく命は続く ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.100

わかってる わかってるよ
今この場所は たった今にも
思い出になってしまう場所
怖がらないで 僕の人生の終わりまでは
絶え間なく命は続くのだろうから

Life Goes On


どういう訳か僕たちは
遠ざかってしまうようになったよね
だけど僕ら 僕ら 僕らは
恨まないことにするよ

その何事たりとも 僕らの関係を
引き裂き切る事は出来ないと言ったけど
無性に 怖くなっていく
永遠に遠ざかるかと思って

この音楽を借りて君に僕を伝えるよ
人々は言う 世界は全て変わったと
幸いにも僕らの関係は まだ
今の今まで変わることはなかったね
僕ら 挨拶しよう
byeじゃなくてhello
世界が僕の思い通りにならなくても
僕らは望みのままに幾晩かを数えて
再び会える日を君は絶対忘れないで

時は流れて
誰かは忘れてゆくだろうね
ただ したいと思うがままに
時はまるで波のよう
引き潮みたいにさらわれて行くだろう
それでも忘れないで僕を探してくれ

全てが止まってしまったこの瞬間
今日に限って 遠くに見える玄関
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく

全てが離れてしまったこの瞬間
昨日より遠くなる 僕らの関係
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく

十年間僕が過ごして来た場所
無数の多くの傷と栄光までが
過ぎてみたら 思い出の一瞬
毎瞬間を最後のように走って来たけど
僕は いまだに 怖気付く

わかってる わかってるよ
今この場所はたった今にも
思い出になってしまう場所
怖がらないで
僕の人生の終わりまでは
絶え間なく
命は続くのだろうから

時は流れて
誰かは忘れてゆくだろうね
ただ したいと思うがままに
時はまるで波のよう
引き潮みたいにさらわれて行くだろう
それでも忘れないで僕を探してくれ

全てが止まってしまったこの瞬間
今日に限って 遠くに見える玄関
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく

全てが離れてしまったこの瞬間
昨日より遠くなる 僕らの関係
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく
人生は続いていく



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

『Life Goes On』
作曲・作詞: Agust D , 장이정 , Pdogg , RM , BLVSH , Chris James , Antonina Armato , j-hope


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今回は、BTSのSUGAがAgust D名義で発表した三枚目の、また、商業的に発表される初のソロアルバムとなる2023年4月リリース「D-DAY」収録の "Life Goes On" を意訳・考察していきます。

この楽曲は、2020年11月に発表されたBTSのアルバム「BE」に収録されていた "Life Goes On" のAgust Dバージョンです。とはいえ、本人の振り返りによるとこのバージョンはグループ曲バージョンを準備する段階で不採用になったものがベースになっているとのこと。落選がすごく残念だったので、自分のアルバムのエンディング曲として絶対使おうと思い編曲を始めたと、アルバムリリース時の動画配信で語っています。↓

(1:05:36~ Life Goes Onの話題)

グループ曲が原曲、こちらがリミックス曲という関係になるため、クレジットには原曲に携わった方々の名前が並んでいますが、実際にAgust Dバージョンを編成したのはユンギと장이정チャン イジョン(EL CAPITXN)氏のふたりで、一緒に釣り船で編曲したというエピソードも配信で明かされています。

またボーカルについては、ラフな感じを出すためにグループ曲選考時に録音していた3年前のガイド音源を敢えて使用したとのこと。素朴な感じがミディアムテンポの楽曲にとても良く馴染んでいるように思います。



1.ふたつの「Life Goes On」

「何があっても人生は続いていく」

このテーマを共通項として、原曲と同じタイトルでリリースされたAgust Dバージョンの "Life goes On"。
2023年4月から行われたワールドツアー「SUGA | Agust D TOUR 'D-DAY'」では茶色いピアノの弾き語りで披露され、ラッパー・SUGAの姿とはまた違ったボーカリストとしてのポテンシャルも遺憾なく発揮している様子がとても新鮮でした。

原曲はコロナ禍にリリースされたスペシャルアルバムのタイトル曲ということもあり、パンデミックの混乱により停止した社会への不安・憂鬱といったものを敢えて正直に歌詞に盛り込むことで、どんなことがあろうと続いていく人生をえがいた「癒しの歌」でした。

一方、Agust Dバージョンの方はというと、コロナ禍から時を少し進めた場所から更にそのずっとずっと先までもを見つめ、「アーティストとしての人生」全体を視野に入れたスケール感で進行していきます。

また、原曲ではパンデミックに因る様々な「停止」をどう乗り越えるか、という部分がおおまかな要点でしたが、今回の歌詞では、10年を迎えたグループ活動への思い、兵役履行に因る「空白」という要素も新たに加わり、変化し続けていく自分とその周囲との関係の来し方と行く末が実直に語られていきます。

綿密に計画されていたワールドツアーを始めとした活動が予想だにしなかったパンデミックにより白紙になっていった際の戸惑いの大きさが、曲頭の「訳もわからずに遠ざかってしまうようになった」という表現に現れているのではないかと思います。理不尽な状況に置かれ、不本意な決断を重ねなければならなかった日々を振り返り、それでも「恨まないことにする」と、辛かった過程を受け入れています。↓

어떠한 이유로 우리가 ※1
(何らかの理由で僕たちが) 
멀어져 버리게 되었지 ※2
(遠ざかってしまうようになったよね)
하지만 우리 우리 우리는
(だけど僕ら 僕ら 僕らは)
원망하지 않기로 해 ※3
(恨まないことにする)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

※1 어떠한…どういう、どんな、何らか(参考
※2 語尾「~지」…~だね、~よね【パンマル】(参考
※3 기로 해…~ことにする

そうはいってもやはり、並行して進行していた兵役履行についての当初の計画(チャプター1は "ON" の活動までだった)を考慮すると、コロナ禍の混乱で思うように活動ができないうちにこのまま長い間表舞台から離れなければならなくなってしまうかもしれない、という不安もあったかもしれません。↓

그 무엇도 우리 사이를
(その何事も 僕らの間を)
떼어낼 수 없다 했는데 ※4
(引き裂き切ることはできないと言ったけど)
자꾸만 두려워져가
(しきりに怖くなっていく)
영영 멀어질까 봐 ※5
(永遠に遠ざかるかと思って)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

※4 떼다(引き裂く)+ 내다(~し終える、~し切る)
※5 ~(으)ㄹ까 보다…~かと思う、~するかと思う(参考

なかなか好転しない状況、変わってしまった世界を嘆く人々で溢れかえる世の中にあっても変わらないARMYとの関係性への言及は、原曲/AgustD_Ver.の双方でなされています。

이 음악을 빌려 너에게 나 전할게 ※6
(この音楽を借りて君に僕を伝えるよ)
사람들은 말해 세상이 다 변했대 ※7
(人々は言う 世界が皆変わったって)
다행히도 우리 사이는 아직 여태 안 변했네
(幸いにも僕たちの間はまだ今の今まで変わらなかったね)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

※6 ~ㄹ게…~するね、~するよ 自分の意思を相手に伝える(参考
※7 ~대…~だって【伝聞】(参考

世界の全ては変わり尽くした
そう皆は口を揃えて言うけど
幸運な事に僕らはまだ今も尚
変わらぬ距離を保てているね

――BTS "Life Goes On" 和訳記事 SUGAパートより抜粋

https://note.com/nozomiari/n/n09cbe095e631

そして次の部分は、兵役期間を迎えるにあたってARMYへと贈る心強い言葉のようにも聞こえてきます。↓

우리 인사하자 bye 아닌 hello
(僕ら挨拶しよう byeではなくhello)
세상이 내 뜻대로 안된다 해도 ※8
(世界が僕の意のままにならなくても)
우리 바람대로 며칠 밤만 세고
(僕らの望み通り 何日かの夜だけを数えて)
다시 만날 날을 너는 절대 잊지 마
(再び会える日を君は絶対に忘れるなよ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

※8 ~ㄴ/는다(고) 해도…~としても(参考

「며칠 밤만 세고(何日か(の)夜だけ数えて)」の部分は、1年半という本人にとっても我々にとっても決して短いとは言い切れない時間を「あっという間だよ」と言ってのけているのではないかと思うのです。

一方、そんなそれぞれの日々を指折り数えた先にあるその日を「絶対に忘れるな」と念を押しているところには、こちらの不安を払拭するというよりは、彼自身がどこかに抱えている不安が見え隠れしているのではないかと思ったりもします。


2.死ぬまで防弾

ヴァース2に入ると今度は、防弾少年団として駆け抜けてきた10年間の出来事を振り返る様子がえがかれていきます。

10년간 내가 지나간 자리
(10年間 僕が過ごしてきた場所)
무수히 많은 상처와 영광까지
(無数に多くの傷と栄光まで)
지나보니 추억의 한순간 매 순간을
(過ぎてみたら 思い出の一瞬 毎瞬間を)
마지막처럼 달려왔지만 난 아직도 겁이 나
(最後のように走って来たけど 僕は未だに恐れをなす)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

息つく間もなく目まぐるしく、毎瞬間「これが最後」と終わりを覚悟してまで走り続けてきた10年間はまさしく光陰矢の如し。心身ともに傷だらけになりながら数々の栄光を手に入れてはきたけれど、未だに自分の居場所には安心ができない。

I know I know 지금 이 자린
(わかってる わかってるよ 今この場所は)
금세 추억이 되어 버릴 자리
(たった今 思い出になってしまう場所)
두려워하지 마 내 인생의 마지막까진
(怖がらないで 僕の人生の終りまでは)
끊임없이 삶은 계속될 테니까
(絶え間なく命は続くだろうから)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

言われなくてもわかっている。
自分が今いることができているこの場所、この立場は、どんなに華やかで感動的な時間でも過ぎてしまえば過去の事・思い出になってしまうことを。
それでも怖がることはない。
生きている限りは、命が消えて無くなることは決してない。

この「人生の終わりまで絶え間なく命は続く」という言葉を思う時、彼にとっての「命」とは一体何だろうと考えました。…が、考える、という程悩むことはありませんでした。彼が人生を懸けて続けたいと思っていること、それは「音楽」に他ならないとすぐにわかったからです。

僕は、僕はね
ただ 音楽が好きなんだ
―― "Yet To Come" 和訳記事 SUGAパートより抜粋

https://note.com/nozomiari/n/ne77e651253b7

そしてまた、彼にとってはすでに「音楽=防弾少年団」であると言っても過言ではないことが、以下の発言からうかがうことができます。

死ぬまで防弾少年団をやると思います。制作(プロデューシング)をしてみるのはどうかという言葉も耳にします。でもできないと思います。誰かの責任を負える程責任感がある訳ではありません。私は防弾少年団が好きです
――VOGUE KOREA 2021.12.21 SUGAインタビュー記事より抜粋して和訳

https://www.vogue.co.kr/2021/12/21/%eb%af%bc%ec%8a%a4%ed%8a%b8%eb%9d%bc%eb%8b%a4%eb%ac%b4%ec%8a%a4-%ec%8a%88%ea%b0%80%ec%9d%98-%ed%99%94%eb%b2%95/

余りにも熾烈な日々を過ごし、毎瞬間が「終わり」だと思いながら生きてきた彼が、コロナ禍や兵役履行という自分の力だけではどうしようもない断絶を経験することになり、より一層「生きていくこと」「音楽を続けていくこと」「仲間と共に在ること」への欲や希望が強くなったのではないか、と、私は思います。


3.それでも人生は続いていく

サビの部分はそんな、自分だけではどうしようもない領域で働きかけてくる途方もなく大きな力の存在を、淡々と受け入れようとする姿が描写されています。

시간은 흘러가고
(時間は流れて行って)
누군가는 잊혀가겠지 ※9
(誰かは忘れていくだろうね)
그저 하고픈 대로
(ただしたいと思うままに)
시간은 마치 파도
(時間はまるで波のよう)
썰물처럼 밀려가겠지
(引き潮のように押されていくだろうね)
그래도 잊지 말고 나를 찾아줘
(それでも忘れないで僕を探してくれ)

모두가 멈춰버려진 이 순간
(全てが止まってしまったこの瞬間)
오늘따라 멀어 보이는 현관
(今日に限って遠く見える玄関)
Life goes on
(人生は続いていく)
Life goes on
Life goes on
Life goes on

모두가 떨어져 버린 이 순간
(全てが離れてしまったこの瞬間)
어제보다 멀어지는 우리 사이
(昨日より遠くなる僕らの間)
Life goes on
(人生は続いていく)
Life goes on
Life goes on
Life goes on

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197082

※9 ~겠지…~するだろうね【推測】(参考

今、自分に賞賛や好意を寄せる人でも、止まることなく流れていく時間の中で次第に自ら離れていく者もいるだろう。
どんなに今のこの場にしがみつこうとしても、まるで引き潮にさらわれるように時と共にどんどん離されて行くのだろう。

時の流れに抗わず、人の心変わりを憂うことなく、与えられた環境を理解して、自分が信じるものを頼りに続いていく人生を長く長く見据える。
悟りを開いたような達観したこの姿勢も、人生に絶望し自らは死んだと言って退ける程の経験があった上でのものだと思うとハッと我に返ります。

全ては、音楽と共に歩んできたからこその人生。
ここから先もずっと、音楽と共にあらばどこまでも行けるのだというその確信と覚悟がひしひしと伝わってきます。

ただ、この楽曲にはそんな前向きな気持ちだけが込められている訳ではなく、直視を避けたくなる不安の欠片たちの影にもちゃんと向き合っているところには、逆に安心感を覚えます。

それでも忘れないで、
自分を探し出して欲しい。

「I'm fine」も「Save me」も臆することなく口にできるようになった彼の今後の人生に、少しでも長く自分も並走できたらいいなと思います。




わたくし事ですが、この和訳歌詞記事の連載を始めたのが今から2年前の2021年8月。その1番最初の投稿記事がBTS "Life Goes On"。
今回このAgust D Ver. "Life Goes On" の記事で100本目を数えることになりました。

発売されたばかりのピンクのiMacを買って以来、様々な形で稚拙ながらもネット上に表現を発信してきましたが、ここまでコンスタントに、ここまで情熱をもって、ここまでたくさんの方の目にとめてもらえるものを作り続けることができたのはこれが初めてです。

取り上げることが出来ていない楽曲はまだまだたくさんありますし、長く長く続いてゆく彼らの音楽人生を思えばそれこそライフワーク死ぬまでARMYになるのではと思っています。

「より多くの人にメッセージを受け取ってもらう」ために敢えてアイドルとしてのデビューを選択した彼らの本懐である音楽を、少しでも誤解なく受け取りたいという目的のもとに、今後も投稿を続けていけたらと思っています。

彼らを良く知る方々にとっても、これから知って行く方々にとっても、何らかの小さなきっかけのひとつになることができたら幸いです。


今回も、最後までお付き合い下さりありがとうございました。
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