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Jimin "편지(Letter)" わかり切ったことだけど 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.122

当たり前だとわかっているけど、
適当には済ませないように
この言葉を伝えようと思います。

편지


どんな言葉を掛けたらいいのか、
またどの様に伝えたらいいのか。
つたないことこの上ないですね。

当たり前だとわかっているけど、
適当には済ませないように
この言葉を伝えようと思います。

あのね、ああ…もっと
幸せでありますように。
僕が挫け倒れる時には、
その手を差し出してくれた君が。

もう僕がその手を取ってあげるよ。
泣きたい時に挫けやしないように。


時が流れた後でも、
僕らはそのままだろうか?
初めて出会った、あの時のように。

僕らが一緒にいれば、
砂漠も海にできた。
あの時のあの姿、そのままで。


あのね、ああ…きっと
永遠でありますように。
凍える冬には僕にとって
暖かい春の日のようだった君が。

いつでも大切にしようと思うよ。
君と僕、その間を
満たしていたあの瞬間を。


ねえ、立ち去ってしまわないで。
ただ僕のそばにいてよ、ねえ。
ちっぽけな僕に
大きな期待を寄せてくれた君に、
貰った分だけ伝えられるように。
僕が口にした言葉を、
守ることができるように。

心配しないで。
ただ、君のそばにいるよ、ねえ。
どんな日が待つかわからないから、
怖くはあるけれど、怖気づくけど、
一緒にという言葉を、
いつも忘れないで。

当たり前だとわかっているけど、適当には済ませないようにこの言葉を伝えようと思います。



(原曲は隠しトラックの為、ネット上に公式掲載されている歌詞はありません。ここではCDブックレットの記載を元に和訳を作成しました。)

『편지』
作曲・作詞:Pdogg, Jimin, GHSTLOOP, EVAN


*******


今回は、2023年3月リリースのJiminのソロアルバム第1集「FACE」収録の隠しトラック "편지(Letter)" を意訳、考察していきます。

CDを購入した方しか聴けないトラックということでリリース直後に記事を書くのを意図的に避けていましたが、あと1ヵ月ほどで1周年ということで、まだ購入されていない方にもCDを手にしたい!と思っていただけるような記事を目指して書いてみたいと思います。


1.フィジカルアルバムの存在意義

アルバム「FACE」のブックレット。
手元にあるけどまだ気づいていない…という方がもしかしたら今もいるかもしれないくらい、謙虚で遊び心ある彼らしいしかけ●●●のある素敵な一冊なのではないかと思います。

職業柄、韓国のCDパッケージの印刷技術的に凝った演出を毎回楽しみにしている私ですが、この「FACE」のブックレットにも驚かされました。

まず表紙。全面箔押しの贅沢さ。
これ、手にして目の前に据えると自分の「FACE」が鏡のように映るように計算されていると思うんですよね。
そしてそこに浮き上がる波紋とロゴはエンボス加工。
「Jimin」の文字とキャッチコピー、そして背表紙の文字は白抜きではなく白インク。
裏表紙の文字と波紋は表紙と同じ版で箔押し。
まるで化粧品のパッケージみたいな上品な仕上がりで、細かい所までめちゃくちゃこだわって作っているのがすごく良くわかります。

「謙虚で遊び心のある」と私が表現したしかけ●●●のあるページについては、上質紙にニス刷りの文字だけという特異な選択をしており、意匠が意図を正確に具現化したものとなっています。

アートディレクターのJeon Minkyu氏は "Set Me Free Pt.2" MVや RMの「Indigo」でもアートディレクターを担当するなど、MVや雑誌企画などでその手腕を発揮されています。

韓国のCDパッケージは、00年代から既に型にはまらない自由な仕様で制作・生産されていました(その流れをけん引してきたデザイナーの1人がNewJeansを手掛けるミン・ヒジン氏)。
20年程経った現在のようにあらゆるものの〈物理的〉存在価値が希薄になるずっと前から、それを高めるための方法を追求・確立しようとしていたのです。

効率よく販売するため、ショップの棚に「無駄なくきれいに」並べることに縛られてきたところがある日本のCDパッケージは、余程の前提(大物アーティストや記念盤など)が無い限り定型を大幅に崩すことはなく、ほとんどが常に枠の中でしか勝負できない状況のままでした。

結局、日本ではユーザーの〈物理的〉購買意欲を掻き立て売り上げを上げる手段が「同じ音源を複数タイプで売りそれぞれ異なる特典(握手券・応募券・トレカ等)をつける」ことにほぼ淘汰されてしまいました。
CDそのものが持つ価値は二の次になり、自分が他人より少しでも優位に立つための道具と化してしまった日本のCDは衰退の一途をたどり、音楽配信サービスがとどめをさす形でほとんどのCDショップは街から姿を消してしまいました。

自引きの確立や当選の確立を上げる為に一度に同じものを大量購入する人は、CDを店頭で買うことはまずない。
そして必要とされなくなったCD「本体」は良くて中古商品として出回るか、最悪一度も再生されることなく廃棄される。
この商法が世に与えている悪い影響は色んな意味でかなり大きいと思います。

K-POPのCDにもこれを良いとこ取りしているものはあるので(バンタンもそう)一度にCDを大量購入した方の認証ショットをSNSで見かけることもありますが、正直私には「一体この後どうするのだろう」という疑問しかないです。

「Proof」のコレクターズ・エディションが出た時には、高すぎる!買えない!との不満が一部で噴出していましたが、アーティストが心血注いで生み出した音源とそのアートワークに対する正当な評価額とは、正しい価値感とは、一体どうあるべきなのか?それらをあらためて問う商品だったのではないかと私は感じました。

たくさん売れれば売れただけアーティストもファンも幸せ、という構図は正論だと思います。
ただ、〈物理的〉な感動を差し置いて数だけを求める方法では、長く残る芸術を目指す彼らの意図や意思を汲み取り、それに見合った価値を見出すことはできないのではないかと思うのです。
その点、少なくともバンタンがリリースしているフィジカルアルバムは一貫して〈物理的〉な感動にしっかりと重心を置いたものであると私は実感しています。

CDジャケット、そして歌詞カードのグラフィックデザインは、私が一度は手掛けてみたいと思っていたお仕事のひとつでした。グラフィックに興味を持ち始めた中学生の頃から新しいCDを手にする度に歌詞カードのデザインを堪能し、デザイナーやフォトグラファーのお名前にチェックを入れたものです。歌詞カード見たさにレンタルショップでCDを借りまくった時期もありました。

そんな私が韓国のCDパッケージを手にし始めた00年代当時、その自由度の高さに頭の中は?だらけになりました。こんなに自由でいいの?これで採算取れてるの?どうやって流通させてるの?店でどんな売り方してるの?かなりの衝撃を受けました。

Seoul Naviにて2015年に投稿されたこちら↓の記事では韓国でもCDショップが姿を消しつつあるとされています。が、掲載されている写真を見てもわかる通り、店頭では多くの商品においてジャケットが見えるように陳列されており、まるでアートギャラリーのような賑わいです。

韓国における音楽とアートワークの関係(予算のことなど)、日本との違いについて深く取材・考察されている2023年の記事がありました。「昔はCD屋さんに行くのが楽しかった」という記述に激しく同意。↓

00年代当時は個人輸入ぐらいしか手に入れる方法がなかった韓国のCDですが、ネットでの販売ルートが整い、バンタンのお陰で手に取る機会が一層増えたここ数年は、購入する度にまたあの中学生の頃に受けた感動を味わわせてもらっています。
どれもこれも、この手に取って隅々まで愉しみたくなる素敵なパッケージだと思います。


2.声の魔法

この楽曲を初めて耳にしたとき、往年のキャロル・キングジョニ・ミッチェル、そしてビョークみたいにも聴こえたりして……アコースティックギターの音色に乗る彼の声が私の中に呼び覚ました感情は「K-popアイドル」が享受するそれとは全くもって異なるものでした。

この10年間の音源を聴く限り、7人の中で最も歌声に変化があったのは他でもないジミンではないかと思います。
コンセプトの影響もあってかデビュー当時は敢えて武骨な印象を与えるような歌唱場面もあり、高音を活かしたシャウトもこなしてきた彼の歌声は、2017年のソロ曲 "Serendipity" を経て「ボーカルとして更に一段階成長する」ことに成功しています。

ジミンは「ボーカルとして一段階更に成長する」ためにこの歌詞を歌うにはどうしたら良いのかをナムさんに相談しながら歌入れをしたようです。
それまでのジミンの歌唱スタイルは高音域でシャウトしたりするなど、どちらかと言えば激しいものだったとナムさんも動画内で分析していますが、ナムさん直々の献身的なアドバイスもあり、この "Serendipity" では抑揚を抑えた中にも表情のあるジミンの伸びやかな〈声〉の新しい魅力が存分に引き出されていることがわかります。
ーー "Serendipity" 歌詞考察note記事より抜粋

https://note.com/nozomiari/n/nec2741de2fe6

"편지" での歌声は、彼のボーカルスタイルが独自の領域で成熟したことを十二分に感じられるものでした。まるで弦楽器の音色のようにシームレスで心地よく、圧を感じないのに軽くもない。

以前テレビ番組『梶100!』で声優の梶くんが自分の声を分析してもらった「日本音響研究所」という専門機関があるのですが、こちらでぜひジミンの声を、いや、バンタン全員の声を分析してみて欲しいな、なんて密かに思っています。
あの一度聴いたら忘れられない声色たちの秘密に迫ってみたい。


3.当たり前をちゃんとやる

ジミンがWeverseに投稿する文章を読む度に、機械翻訳してもほとんど破綻しない言葉選びに感心しています。(あ、決して他のメンバーが破綻してるとかじゃなく!(笑) みんな個性があって原文も翻訳文も読むのが楽しみ)

自国語をどれだけわかりやすく使うことができているだろうかと自分を振り返ってみたりもして、周りからは見えない頭の中を誤解なく伝える為にはどの言葉を選べば良いのか、あらためて考えるきっかけにもなりました。

"편지" の歌詞には「わかりきったことだとわかるけれど」と前置きした上で「軽くないようにこの言葉を伝えます」(以上直訳)とあります。
この姿勢が彼の本質であり、それ故の普段のあの言葉遣いなんだろうなと思います。にじみ出る謙虚さがそこここに溢れています。

「時が過ぎても僕らはそのままだろうか」「立ち去らないでそばにいて」「どんな日が待つかわからなくて怖くもあるけれど」と弱い部分も包み隠さず、それでいて「心配しないで、そばにいるよ」と絶大な信頼感も持ち合わせている。
この誠実さと柔軟性は、彼のダンスや歌唱にも共通しているのではないかと思います。

アルバム「FACE」は、コロナ禍に経験した非日常を機にとことん自分自身と向き合った彼が残した物語です。
如何なる時もわかりきったことをしっかりこなす、当然のことをおろそかにしない、という結論のひとつとして、ARMYに向けたこの曲が生まれたのかもしれません。

歌詞の最終行は冒頭部分の繰り返しですが、改行がありません。
本当にお手紙として書き残してくれた感じがして私は嬉しくなりました。
またWeverseにもお手紙が届くのを楽しみにしたいと思います。



今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。