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Jung Kook "Somebody" 僕ではない誰かを 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.114

僕は君に誰かを見つけて欲しかった
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな

Somebody



何の変哲もない寂れた道
わざと車線を切り替える
僕の中で
様々な事が駆け巡っている
自分で自分が 苛立たしい

冬はよそよそしくて
夏には他人事
背を向けて、
心変わりする振りをしないで
僕ら お互いわかってるよね
もう一度言って もう一度言って
思いの丈を伝える時が来たかのように

夜へと繰り出せば
君は光の元にある
ああ、僕は君に誰かを見つけて欲しかった
見つけて欲しかった
共に生きるべき誰かを
運命を共にする誰かを
ああ、僕は君に誰かを見つけて欲しかった
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな

それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな

僕は受け入れた
状況は変わった
僕の心はそれを感じ取れるし、
僕は君の説明を必要としない
コードを引き抜き、鎖を断ち切る
そのダメージはとてつもなく大きい

僕らお互いわかってるよね
もう一度言って もう一度言って
思いの丈を伝える時が来たかのように

夜へと繰り出せば
君は光の元にある
ああ、僕は君に誰かを見つけて欲しかった
見つけて欲しかった
共に生きるべき誰かを
運命を共にする誰かを
ああ、僕は君に誰かを見つけて欲しかった
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな

それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな
それが僕ではないのだと
わかってくれるといいな



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221242

「Somebody」
作曲・作詞:Jon Bellion , Allen Ritter


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今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より "Somebody" を意訳・考察していきます。

クレジットに名前が並ぶ Jon BellionAllen Ritter 共に、名だたるアーティストとの共作がその経歴に並ぶソングライター/プロデューサーです。

歌詞は極めてシンプルです。心が離れてしまった大切な人にとって自分は隣にいるべき人ではなかったと気づいてしまった主人公が、そのやりきれなさを抱えている場面から物語が始まります。




最初の段落では「ドライブあるいはツーリング」を下敷きにし、主人公の心象風景を描いています。

Same back roads ※1
(裏道と呼ばれる道と変わりない道)
Switching lanes
(車線変更)
My mind is racing ※2
(僕の心には様々なものが駆け巡っている)
I can drive myself insane ※3
(自分で自分のことが苛立たしい)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221242

※1 
・same…同じ、変わらない(参考
・通常sameはtheを伴うが無冠詞で使われている→口語表現だから?(参考
後に続く「back roads」は無冠詞+複数形名詞で一般論を表す(参考)→世にあるback roadというもの全体と同じ=何の変哲もないback road
・back road…裏道=日本で言う裏路地ではなく、舗装されていない田舎道(参考
※2 one's mind is racing…頭の中に様々なことが駆け巡る(参考
※3 drive 人 insane…人を苛立たせる(参考
★I can〜で始まっていることから、自嘲(自分で自分のことが笑える)的なニュアンスを感じることができる。


まず、back roadの概念を正確に理解する必要があると思います。「裏道」と訳されますが、日本でいう裏路地のようなものとはかなり印象が異なります。↓

田舎道、といった方がしっくりきます。一般的にback roadと表現される何の変哲もないこのような道で、車線変更をする必要性が果たしてあるでしょうか?…ないと思うんですよね。
なのに何故「Switching lanes」する必要があるのかというと、「心の中で様々な考えが駆け巡って」いて、そんな「自分自身に苛立っている」せいで感情に任せて無謀な車線変更をしているのではないかと思うのです。

寂れた景色と疾走感・焦燥感が違和感を生み「ひっかかる」表現となっています。まるで映画のプロローグのようです。


Winter's cold ※4
(冬は冷徹で)
And summer's strange ※5
(そして夏は奇妙だ)
Don't turn around and act like you don't feel the same ※6
(背を向けて心変わりする振りをしないで)
Oh oh we both know
(僕らお互いにわかってるよね)
Say it again, say it again
(もう一度言って もう一度言って)
Like oh oh it's time to let go ※7
(思いの丈を伝える時が来たかのように)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221242

※4・5 後にくる語が形容詞なので「's」は名詞の所有格ではなくisの省略
・cold【形容詞】…冷酷な(参考
・strange【形容詞】…奇妙な、見慣れない(参考
※6
・Don't A and B…「AかつBを行うな」(参考)
・turn around…背を向ける(参考
・not feel the same…心変わりする(参考
・act like~…~のようにふるまう(参考
※7
・It's time to~…~する時がきた(参考
・let go…心を解き放つ(参考


冬には既によそよそしさを感じていたけれど、季節が廻り次の夏が来た頃にはもう他人のように振る舞う「君」。
背を向けて心変わりをした振りをするな、と君に言う「僕」。
互いに真意はわかっているはずだよね、と僕は君の態度に対して懐疑的です。

もう一度(僕を想っていると)言って欲しい。
想いを伝えてくれたあの時のように。


When you go out in the night ※8
(夜にでかければ)
You're under the lights
(君は光の下にいる)
Oh I hoped you'd find somebody, ※9
(僕は君に誰かを見つけて欲しかった)
hoped you'd find
(君に見つけて欲しかった)
Somebody to ride, somebody to die ※10
(一緒に走るべき誰かを、死ぬための誰かを)
Oh I hoped you'd find somebody
(僕は君に誰かを見つけて欲しかった)
I hope you know that somebody ain't me
(それが僕ではないのだと君がわかってくれるといいな)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221242

※8
・接続詞when…~ならば【条件】(参考
・go out…出かける ★「楽しい」ニュアンス(参考
※9 I hope…可能性のあることに対する願望(参考
ここではhopeが過去形になっているので「~して欲しかった」になり、続く文のwillもwouldとなる。
※10 名詞+to動詞の原形【不定詞】…~すべき○○、~の為の○○
ride or die…生きるか、死ぬか。いずれにせよその結果を共有できる程に信頼のおける、常に味方でいてくれる関係にある人を指す表現。(参考
"Ma City" にも登場する表現。


暗闇の中にあっても、君は(光があたっているかのように)輝いている。
そんな君には、その魅力に見合った「誰か」を見つけて欲しかった。
いつ何時もそばを離れずに寄り添ってくれる「誰か」を見つけて欲しかった。

「僕」は「君」と一時は互いの気持ちを確かめ合った関係であったものの、自分が「君」が求めていた「誰か」ではないことを次第に感じ取っていきます。
「君」の方はというと、その違和感によってよそよそしくなっていく自分を知ってか知らずか、自ら「僕」に別れを告げようとはしていないようです。

そんな「君」の心を感じ取って、「僕」はその状況を受け入れていきます。


Came to terms ※11
(僕は受け入れた)
Things have changed ※12
(状況はもう変わった)
My heart can sense it,
(僕の心はそれを感じられるし、)
I don't need you to explain
(僕は君の説明を必要としない)
Pull the cord, I split the chain
(コードを引き抜き、鎖を断ち切る)
There's so much damage going through the motions makes ※13
(その動作がもたらすこと経験しているダメージはとても大きい)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221242

※11 come to terms…受け入れる(参考
※12 have 過去分詞…もう~した【現在完了形】(参考
※13 go through…(辛いことを)経験する(参考


はっきりと別れを告げない「君」に対し、もう説明は要らない、自ら関係を終わらせる、という決心を表明しています。
ただし、「コードを引き抜く(電源を無理やり落とす)」「鎖を断ち切る」という動作に投影している通り、その決心がもたらす痛みの大きさが並々ならぬものであることが推し量れます。

「僕」は断腸の思いで「君」との別れを決意しますが、それは決して恨みがましい感情によるものではなく、ただ、「君」にとって自分は「ride or die」ではない、という結論に至ったということのようです。

そばにいて支えてくれる無二の存在。
それは自分ではない「誰か」であることを、
君がわかってくれるといいなと思う。

君を幸せにできるのは僕じゃない。という状況に気付いた時には、自分のふがいなさに苛立ちも感じていた主人公ですが、最終的には君にとって何が最良なのかを考え抜き身を引く結論を導き出しています。

「誰か」とは誰でもいい誰かではなく、愛する人にとっては唯一無二の、自分以外の「誰か」のことだったのでした。

謙虚のかたまりみたいな主人公像ですね…いつかこの「僕」にも唯一無二の「誰か」が寄り添ってくれることを望まずにはいられません。



今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。