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BTS "여기 봐(Look Here)" FunkyでSoulfulな恋のうた 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.029

こっち見て 逃げ出さないで
遅かれ早かれ 君は僕に夢中
寂しくて駄々をこねる時には
もう 手遅れ
麗しき君の魅力を知ってしまった僕
ほら こっちにおいで

여기 봐(Look Here)


きっかけは単なる好奇心で
僕は君に惹かれてるんだよ
そうやって君が無視しても
僕に堕ちるのは時間の問題
結構僕らはお似合いだよね
君を手に入れられない僕は
煌く光を失ったソウルの街
虎視眈々君の隣を狙い
地下道のグラフィティ
君がいない一日とは
それ即ち一幕の悲劇

僕たちの出会いは偶然じゃないよ
君と出会ったのは僕の願いだった

君は花で僕は蜜蜂だよ
君は蜂蜜で僕は熊だよ
どうすれば本を読むみたいに
言葉がすらすら出てくるかな
どことなく君は
僕と似てるみたい
めちゃくちゃ可愛い
君には雰囲気がある
魅力がはち切れるよ
もう 僕に頂戴

こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
遅かれ早かれ 君は僕に夢中
寂しくて駄々をこねる時には
もう 手遅れさ
麗しき君の魅力を知ってしまった僕
ほら こっちにおいで

最初は10回のメールに1回返信してた君
そのうち君から先に電話して、
一日中僕だけ探すんだってさ

こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっちを見てよ


僕と言う男が
君に近づいた才能を認めてくれよ
君のために走った僕のリレー
くしゃみみたいと言っても君に幸あれ
退屈なら 僕の姿は
毎週デビューしたかのように
君の所に行ってあげるよ
何をお望みなの?
君も僕と一緒に
愛の海へと漕ぎ出すよ
君は泥棒 僕は警察
盗んだ価値はあの太陽
君なしでは寂しがりの
街を彷徨うエトランゼ旅人
君が欲しいよ

僕たちの出会いは偶然じゃないよ
君と出会ったのは僕の願いだった

君は花で僕は蜜蜂だよ
君は蜂蜜で僕は熊だよ
どうすれば本を読むみたいに
言葉がすらすら出てくるかな
どことなく君は
僕と似てるみたい
めちゃくちゃ可愛い
君には雰囲気がある
魅力がはち切れるよ
もう 僕に頂戴

こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
遅かれ早かれ 君は僕に夢中
寂しくて駄々をこねる時には
もう 手遅れ
麗しき君の魅力を知ってしまった僕
ほら こっちにおいで

君の'alexanderwang'が好きだよ
君の'ISABEL MARANT'が好きだよ
そんな感じで焦らすんだってさ
ほら、君が手に入れたものを見せて
君はセクシー 僕にはそれが重要さ
(君は僕の理想そのもの) 結婚してよ
僕の人生にフィーチャリング中の君
体重は99kg
君を振り切れなくてかなり憎らしい
今日もこうして韻を踏むよ
君は上品?否、可愛い
或いは真理?否、道理
僕のジーニー ランボルギーニ
僕のかわい子ちゃんになってよ
君はビキニとマティーニ、
それからメルセデス マジ最高
余りにもう君がへとへとだから
お遊びは終わりにして
ここらで僕に決めてくれよ
君の心を切り替えさせてよ
どうか変わってくれよ
あ、そこに立ってみて
君と一緒に歩かせてよ
よしよし、そうだったのねぇ
って言ってよね わかった?

こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
遅かれ早かれ 君は僕に夢中
寂しくて駄々をこねる時には
もう 手遅れ
麗しき君の魅力を知ってしまった僕
ほら こっちにおいで

最初は10回のメールに1回返信してた君
そのうち君から先に電話して、
一日中僕だけ探すんだってさ

こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっち見て 逃げ出さないで
こっちを見てよ


韓国語歌詞はこちら↓ 
https://m.bugs.co.kr/track/3637695

『여기 봐(Look Here)』
作曲・作詞:JINBO, 250, SUGA, ​j-hope, RM


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今回は2014年8月にリリースされたBTSのフルアルバム第1集「Dark & Wild」収録の "여기 봐(Look Here)" を意訳してみました。

この楽曲、とにかく情報量が多いのに形としてはシンプル。更にめちゃくちゃカッコ可愛いという、初期の作品の中でもひときわ輝く個性を放つ一曲となっています。

この後は自称ヨギバ大好き芸人の私が歌詞の考察に加え、楽曲構成のバックグラウンドにも迫ってみようと思います。



1.初々しい恋のうた

この楽曲が収録されている「Dark & Wild」は、彼らの記念すべき初のフルサイズアルバムになります。

ファンキーなイントロで始まるこの楽曲の歌詞に散りばめられているのは「キミが好き!!!」という女の子に恋をする男の子のまっすぐな気持ち。でも、よくよく読み込んでみると実はこの主人公、経験値はまだまだ積めていない様子…。

というのも、所々に「〜대(〜なんだって)」という「人から聞いたりして自分はまだ実行できていない事(伝聞)」をつぶやく場面があるからです。
※以下引用文につけた和訳は直訳

처음엔 열 번 문자에 한 번 답장하던 너 
(初めは10回のメールに1回の返信をしてた君)
나중엔 먼저 전화해 하루종일 나만 찾아대
(後には先に電話して一日中僕だけ探すんだって)

https://m.bugs.co.kr/track/3637695

→彼女の気持ちが自分に向き始めると、そっけなかった態度が積極的になり自分の事だけを考えるようになる…らしい。

Love your 알렉산더 왕 
(君のアレクサンダーワンが好き)
love your 이자벨 마랑 Baby
(君のイザベル・マランが好きだよベイビー)
고만 튕겨대
(そのくらいで焦らすんだって)

https://m.bugs.co.kr/track/3637695

→彼女本人の容姿を褒める前に彼女が身につけているものを褒めていると、焦らされた彼女は自分自身のことを褒めて欲しいと思いはじめる…らしい。

他にも、どうしたら上手いこと愛の言葉を紡ぎ出せるのかと悩んでいる様子も伺えます。

多分まだがっつり誰かとお付き合いした事のない男の子なんでしょうね。でも、一旦好きな子ができたら全身全霊で愛情表現ができる、とても素直な子なんだと思います。


2.固有名の応酬

"여기 봐" にはたくさんの固有名が登場します。固有名は限られた文字数でより簡潔に、より端的に情報を詰め込めるという利点がありますが、意図に沿うものを慎重に選び取って尚且つ歌詞として成立させるには、かなりの知識とセンスが必要だと思います。

まずは登場する固有名を整理してみます。「アレキサンダー ワン」と「イザベル・マラン」はファッションブランド、「ランボルギーニ」「メルセデス」は言わずと知れた高級車メーカー、「マティーニ」はカクテルの名前です。「ジーニー」は単語自体が「精霊」の意味を持ちますが、あの有名なランプの精の事で間違いないと思います。

ファッションアイテムからは、彼女が一体どんな雰囲気の女の子なのかを想像することができます。

ランボルギーニとメルセデスがでてくるのは「君は最高(級)だよ」という気持ちを載せているのだと思います。同じ理由で「カクテルの王様」の異名を持つマティーニが選ばれているのだと思われます。

ジーニーには自分の願い(恋愛成就)を叶えてくれる人、という意味が込められているのでしょう。以前BoAちゃん少女時代の曲にも登場していました。日本にも最近ジーニーを歌う曲がありましたね。

そんな中、唐突に現れる「ビキニ」の存在です。
これはセクシーの代名詞という理由が一番かと思いますが、歌詞中にビキニと縁のある箇所がありました。

be my teenie weenie mini
(僕の小さなミニになれ)

https://m.bugs.co.kr/track/3637695

「ビキニスタイルのお嬢さん」という邦題で日本でもリリースされたオールディーズの名曲、Brian Hylandの「Itsy Bitsy Teeny Weeny Yellow Polka Dot Bikini」(1960)という曲にも「Teeny Weeny(teenie weenie)」というフレーズが入っています。Teeny Weenyは「小さい/小さな」といった意味を持つ韻を踏んだ英語表現です。

そして「mini」にはランボルギーニ、メルセデスの流れで言うとBMVの「mini」の事だったりするのかな?とも思いました。miniはその名の通り小ぶりな愛嬌のあるフォルムで親しまれているブランドです。
「僕の小さなミニになってよ」という言い回しは、思い入れのあるお気に入りの車を手に入れるように、可愛い彼女が自分だけの人になって欲しいという願望を表しているように感じたので、「僕の小さなミニになれ」の意訳は「僕のかわい子ちゃんになってよ」(笑)としました。

と、ここでジーニー、ランボルギー、teenie weenie、ミ、ビキ、マティーとそれら全てが「ni」で韻を踏んでいることにお気づきでしょうか。
前述の「Itsy Bitsy Teeny Weeny Yellow Polka Dot Bikini」も「ni」で韻を踏んだサビが聴いていてとても可愛らしく楽しい曲なのですが、その印象に近いなぁと思います。

そしてナムさんの崇高な言葉遊びはまだまだ続きます。

너무 이미 니가 지치니
ノム イミ ガ ヂチ
 (とてもすでに君が疲れてるから)
stop that eenie menie miny 
(「どれにしようかな」は止めて)

https://m.bugs.co.kr/track/3637695

※「Enie, Meenie, Miny, Moe」は日本の「どれにしようかな」と似た言葉遊び

ストーリーから外れない数々の固有名詞や慣用的な英語のフレーズを多用しつつも、韓国語を含めて「ni」で韻を踏み尽くし、きれいにまとめ上げているという…さすがレプモン、仕事きっちり。

このナムさんパートを筆頭に、楽曲を構成する要素ひとつひとつが私は本当に好きで好きで大好きなんですが、なんでこんなに好きなんだろうと自分で自分に問いかけたところで、私はますます深い深ーい「ヨギバ沼」にハマっていくことになりました。


3.Funk×Soul×Disco×Jazz+α="Look Here"!

ここからは "여기 봐" という楽曲の世界を創り上げている要素について掘り下げてみようと思います。

■MJの面影
iTunesを利用されている方は検索窓に「funk soul disco」と打ち込んで検索してみて下さい。2022年2月時点では、トップにこちらのアルバムが上がってきます。

FunkとSoulとDisco。これらを全て網羅した曲が聴きたい奴にはまずとにかくMJの「Off the wall」を薦めておこう、ってことなのかと。

この「Off the wall」はジャクソン5時代からソウルやポップスで活躍してきたマイケルが、ジャズ界出身のレジェンド、クインシー・ジョーンズをPDに迎えて作った意欲作です。

"여기 봐" の周辺を調べていると、楽曲を聴いた方の「初期のMJを思い出す」といった感想をいくつか目にする事がありました。私もその意見に大きく頷いたひとりなのですけれど、では一体マイケルのどの辺りの雰囲気が "여기 봐" とリンクしているのか。少なくともその答えの中のひとつはこの「Off the wall」にあると私は思いました。特にどこがどう近いと感じるかという話は無粋なのでしませんが、"여기 봐" の雰囲気がお好きな方はきっとこの時期のMJの作品にも心惹かれるのではないかと思います。おススメの1枚です。


■'70s Soul Music
「Dark & Wild」には、リリース時に公開されたトラックごとの詳しいレビュー(韓国語)が残っています。

こちらの記事によると "여기 봐" は「70年代のブラックソウルミュージックを現代風にアレンジしたThe Neptunesの影響を受けて誕生した曲」と紹介されています。そして制作に関わった人物として「JINBO」と「250(イオゴン)」の名が挙げられています。

JINBOは "여기 봐" で初めてバンタンの曲を手掛けた後は "Pied Piper" と "Anpanman" 、ホビの "Chicken Noodle Soup" の制作にも携わっています。多数のアーティストとの楽曲制作歴があり、自身もアーティストとして活動しています。SoundCloudに彼のアカウントを訪ねると、ソウルミュージックを得意としているその作風の一端に触れる事ができます。
250はNCT 127やITZYなどとの楽曲制作経験を経て、デビューアルバムが2022年2月に発売予定とのこと。

私、元々好きなんですよ。'50s/'60sのオールディーズから'70s/'80sのソウル、ファンクあたりの洋楽が。その根底にずっとあるジャズやブルースの存在も。制作に携わったJINBO氏がソウルミュージックに明るいという事実を知って、なぜこんなにもこの曲に惹かれるのか、その理由の8割くらいがわかった気がしました。

ユンギがYouTubeにアップした「Dark & Wild」アルバムレビューにも、"여기 봐" のターンでJINBO氏の話が出てきます。


■「テンポ」「リズム」「サウンド」

BPM検索サイトで調べてみると "여기 봐" のテンポ、BPM(Beats Per Minute)は120でした。

"여기 봐" の世界を支えているのは、ハンドクラップやフィンガースナップを意識した偶数拍(裏拍)の、乾いたパーカッション・サウンドです。ここにカウベルやアゴゴ風の「コン・ココ・コン・ココ」というハイトーンの高速連打音が加わり、更には軽快なブラスサウンドとアコースティックギター、重めのバスドラムが織り交ざり、ソウル/ファンクミュージックあるいはブラス・ロックをも彷彿とさせる「ノリ」になっています。

120BPMに近いテンポで、且つ "여기 봐" の「ノリ」に近い70~80年代のソウルミュージックはこんな感じです。

♪ Think (Blues Brothers サントラver) 129 BPM
 - Aretha Franklin
♪ Don't Stop 'Til You Get Enough 119 BPM
 - Michael Jackson
♪ Dance to the Music 128BPM
 - Sly & The Family Stone
♪ Long Train Runnin' 117BPM
 - The Doobie brothers
♪ Bessie 122BPM
 - James Brown

この時代は生のクラップや高速タンバリン等のパーカッションがまたいい感じなのですよね。"여기 봐" は打ち込みですけれど、そんな生音の雰囲気を上手くまとっているような気がします(そこがまた好き)。それはおそらく、コーラスグループばりの美しいハーモニーと、スキャットのようなうねりを持つラップがもたらしている「声」の効果が大きいのではないかと思います。


■「ハーモニー」と「スキャット」
50年代から60年代にかけて発展した「Doo-wup(ドゥー・ワップ)」と呼ばれるオールディーズのジャンルは、コーラスワーク中心の音楽です。

私はこのDoo-wupに一時期ハマったことがありまして、というのも、私の初めての推しグループである「チェッカーズ」が元々は福岡・久留米のDoo-wupバンドだったからなのです。

今思えば、とにかく美しい「声」を聴いているのが好き、という現在も続く性癖は当時(小学~中学生)の頃からずっと変わっていなくて、だからラジオを聴くのが大好きだったり、30余年来の声優ファンでもあったりします。

話を "여기 봐" に戻しますね。
まだバンタンを知ったばかりの頃、初めてこの曲を聴いた時はめちゃくちゃ驚きました。え、BTSってK-POPアイドルだよね?しかもベースはHip-Hopでしょ?!なんでこんなきれいなコーラスができるの?!って。
でもその後、彼らの才能と実力と努力値が桁外れな事を知っていくうちに、そうか、そりゃあ彼らならできるよな…と腑に落ちました。

そんな私が "여기 봐" のコーラスワークから感じるワクワクに近い印象を受ける曲(Doo-wup以外も入っています)がこちらです。

ボーカルラインが披露したコーラスワークがソウル/ファンクアレンジのトラックと相性が良いのは、そもそもソウルミュージック自体がDoo-wupやゴスペルを親として生まれたものだから、と、理由がなんとなくわかるのです。が、ラップラインのフロウ(歌い回し)がここまでソウル/ファンクにハマるのはなんで?すごくない?と、HIP-HOP初心者の私はただただ衝撃を受けるばかりでした。

そこで唐突に思い出したのが、Scatman John でした(笑)そうか、この聴き心地の良さはスキャットの雰囲気に似てるからなのでは?と。スキャットは発祥がジャズ(ルイ・アームストロングが生みの親とされている)なので、ソウルミュージックとの距離は決して遠くはないのです。
"여기 봐" ではジャズベースのようなナムさんのフロウがスキャットぽく聴こえてかなり好きです。

そんなスキャットの世界を味わえる曲がこちらになります。

7人の声質、声色がひとりひとりで異なるバンタンは、ただ発声するだけでオーケストラにもブラスバンドにもなれる力があるのですが、 "여기 봐" はその最たる例のひとつだと思います。パーカッション主体のトラック自体は実はものすごくシンプルなのに、彼らの声が重なる事によりものすごく豊かで色とりどりな楽曲に昇華している。数ある彼らの作品の中でも、奇跡的な1曲だと私は思います。


■「~風」とくくる前に
前述のレビュー中に "여기 봐" はThe Neptunesの影響を受けて誕生した、と書いてあるように、この曲が語られる際にはしばしば、同時期にリリースされていたPharrell Wiliamsの楽曲が引き合いに出されているようです。

私もPharrellの曲を聴いてみましたが、確かに彼が関わった楽曲の中には "여기 봐" と似た雰囲気を持つ曲が既にいくつかあったようです。まあ、この曲あの曲と似てる!と言ってざわつきたくなる通の方々の気持ちはものすごくよくわかるのですけれど…この記事でここまで書いてきた通り、この曲を創り上げている要素には数々の源流と思われる流れがあって、それは世界中のどの曲にも当然存在するものなので、ファレルっぽいとか、MJぽいとか、そういう既視感をネガティブにとらえるのではなく、これまでの音楽の歴史に敬意を払うきっかけのようなものにできたらいいのになぁ、と思います。

バンタンの楽曲には、何かを始めたり変えたりする「きっかけ」を与えてくれる曲がたくさんありますよね。それは多分、彼らがそれだけ深く真摯に音楽に向き合ってモノづくりをしている証なのではないかと思いました。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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