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Jimin "Face-off" 酒と怒りと不信と孤独 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.085

ぶち壊せ ぶち壊せ
これはありふれた俺の物語
ぶちまけろ ぶちまけろ
狂ったように叫べよ 全て

Face-off


そうだな
この責任は俺にあるのだろう
今の俺の姿を見ろよ
生きている 阿呆あほうのように
人を信じることは
酷い悪夢の始まりなんだ

有り金の全てをくれてやった
この心の全てをくれてやった
あんたの仮面舞踏会で
俺は 酔い狂っていた
畜生 過ぎ去った日々も
もう 終わりなんだ

美しい夜だよ
自分を見つけ出したようだ
今宵は酔わずにいられない
注いでくれ、もうお終いだ


ぶち壊せ ぶち壊せ
これはありふれた俺の物語
ぶちまけろ ぶちまけろ
狂ったように叫べよ 全て

吐き散らせ 飲みくだせ
この夜が全て終わるまで
ぶちまけろ ぶちまけろ
お前の痕跡まで 全て


そうだな
お前のその甘いことばで
俺の全て ひとつ残らず
持って行こうと尽くしたものを
お前自身に目を向けて見ろ
更に多くを望むよ 何故だ
それでもいい
お前はそれがお似合いだ
その姿 変わらずにあれ

お前が俺を試すとしても
俺を 試しても
お前が俺を殺すとしても
俺を更に刺しても
お前のことはどうでもいい
地獄のようだった
あの日までも

美しい夜だよ
全てを 手に入れたようだ
今夜は酔わずにいられない
注いでくれ もうお終いだ

ぶち壊せ ぶち壊せ
これはありふれた俺の物語
ぶちまけろ ぶちまけろ
狂ったように叫べよ 全て

吐き散らせ 飲みくだせ
この夜が全て終わるまで
ぶちまけろ ぶちまけろ
お前の痕跡まで 全て



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6194161

『Face-off』
作曲・作詞: Pdogg , GHSTLOOP , 지민 , Evan , RM

※2023.04.07 一部修正(「Get it out」部分)


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今回は、2023年3月リリースのJiminのソロアルバム第1集「FACE」収録の1曲目 "Face-off" を意訳、考察していきます。

「直接対決」の意である「Face-off」をタイトルに掲げるこの楽曲は、アルバムのオープニングを飾るイントロの役割を担っています。
ジミン本人が「コロナ禍で感じたことを昇華するために作った」と語るアルバム「FACE」は、1曲目から聴くことによって当時の感情を順を追ってたどることができるものになっている、とのこと(雑誌「AERA」掲載インタビューより)。

先行配信された "Set Me Free Pt.2" で示された「不屈の闘志」は、如何にして手に入れることとなったのでしょうか。
その経緯を辿るための、最初の一歩を踏み出してみようと思います。



1.露骨な憤り

ジミンがゲストとして訪れた「슈취타シュチッタ」第7回では、SUGAの巧みな誘導尋問(?)によって "Face-off" のビハインドエピソードが引き出されています。
内容が「露骨すぎるから説明が本当に難しい」と渋るジミンに対し、「これが何故露骨なの?」と飄々と切り返すさすがのAgust D…。

パンデミックの始まりと時を同じくしてこじれてしまった人間関係により、「馬鹿みたいに生きていた」と自他ともに認める時期を過ごしていたというジミンがこの楽曲に定めていたテーマは「*$&%(自主規制)」。
敢えて置き換えるならば「憤り」とも言えるその感情は、これまでの彼のソロ曲には見られなかった攻撃的な強い言葉で表現されています。

지금 내 모습을 봐
(今 俺の姿を見ろ)
살아 머저리같이 ※1
(生きている 馬鹿みたいに)
(中略)
Gave you all the money
(全ての金をお前にくれてやった)
Gave you all my heart
(全ての俺の心をお前にくれてやった)
Your masquerade party
(お前の仮面舞踏会で)
I was f****** drunk
(俺は泥酔した)
빌어먹을 지난날들도 ※2
(クソったれ 過ぎた日々も)
이젠 끝인걸
(もう 終わるんだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194161

※1 머저리…阿呆、馬鹿参考
※2 빌어먹을…クソったれ、畜生参考

아름다운 밤이야
(美しい夜だよ)
날 찾은 것 같아
(俺を見つけたみたいだ)
Tonight I don't wanna be sober
(今夜 俺はしらふになりたくない)
Pour it up, it's all f****** over ※3
(注いでくれ、もう終わってる)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194161

※3 It's all over…万事休す、終わっている参考

Break it down ※4
Break it down
(壊せ 壊せ)
이건 흔한 나의 story
(これはありふれた俺の物語)
Get it out ※5
Get it out
(吐き出せ 吐き出せ)
미친 듯 소리 질러 다 yeah yeah
(狂ったように叫べ 全て)

Pour it out ※6
(吐き出せ)
Pour it down ※7
(飲み干せ)
이 밤이 다 끝날 때까지
(この夜が全部終わる時まで)
Get it out
Get it out
(出ていけ)
너의 흔적까지 다 yeah yeah
(お前の痕跡まで 全て)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194161

※4 break down…破壊する参考
※5 get it out…吐き出す(参考
※6 pour out…吐露する(参考
※7 pour down…つぎこむ、飲み干す(参考

感情の出どころの説明が憚られる程の「怒り」と「失望」が赤裸々に綴られているこの "Face-off" の歌詞からは、その負の思いの強さと同じ分だけ、尊敬や信頼がかつてはそこにあったのだということを推し量ることができます。
「人を信じることは 酷い悪夢の始まり」ともあるように、信じていた人に裏切られた、そんな辛い経験があったのかもしれません。
「仮面舞踏会」というワードからは、相手が本来の姿を隠したまま良い所だけを彼に見せていたのではないかという不穏なイメージを感じ取りました。「甘い言葉」を信じて自分の全てを懸けようとまでしたのに。

不信からこみ上げる憤りを吐き散らしては、虚しく空いたグラスに酒を注いで煽る。
飲んで飲んで 飲まれて飲んで…。

そんな深刻な悩みを抱えていた当時の状況を「ヒョンも良くご存じですよね?」とユンギに言っているところを見ると、決してひとりで抱え込んでいた感じではなさそうで、そこだけは安心しました。

人間関係が一番難しいとジミンに諭すユンギが楽曲ガイドを「*$&%(自主規制)」で埋め尽くすのも(英語力の未熟さを挙げて謙遜してはいますが)自分を保つためのひとつの解決策というか、自己表現の上で選択された大事な手段であるのだと思います。

世間体や常識を度外視して並べられた「悪口」は、ともすれば見逃してしまいがちな自分自身の本来の感情と「Face-off直接対決」した証であると言えるのではないでしょうか。


2.信じれば信じる程に

そもそも「孤独」「絶望」という感情には、その反対側にあるものの存在が不可欠です。誰かの存在を感じたいと思わなければ、望み自体を抱かなければ、孤独も絶望も生まれない。

楽曲 "Face-off" は、耳馴染みのある「ねこふんじゃった」の、軽快でありながらどことなく不穏なフレーズから始まります。ローリングストーン誌のインタビューには、歌詞の主題である憤りと比較した逆説的な面白さを加味する意図が少なからずあったことが明かされています。

アルバム全体の入り口として用意されたこの「少しずつ歪んでいく」定番フレーズに、そこにあった日常や常識、信条や確信がことごとく端から覆されていったパンデミックの「始まり」の時が想起されます。
また、それまで何の疑いもなく良好だった人間関係が徐々に崩れていく様にも重ねることができるでしょう。

上手くいっていればいる程、高く飛べば飛ぶほどに、現状を手離さなけらばならなくなった時の落下の恐怖、痛みは強くなる。
そんな反動の大きさが、この楽曲の世界を広げ支えているのだと思います。



物語「FACE」の幕開けは、目を覆いたくなるような、耳を塞ぎたくなるような、怒りと絶望の姿が救いようもなくさらけ出されたものでした。
この後、彼は一体どうなってしまうのでしょうか…。

次回 "Like Crazy" に続く予定です。



今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
🥃