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Jung Kook "Shot Glass of Tears" 悲しみを強さにかえて 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.116

頬を伝うダイヤモンドをかき集めた
そしてそのどれをも無駄にさせない
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

Shot Glass of Tears



教えて 僕はいつまた愛を感じるの?
教えて 僕はいつまた立ち直るの?
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

頬を伝うダイヤモンドをかき集めた
そしてそのどれをも無駄にさせない
涙でいっぱいのショットグラスを手にした

彼女は この宴の主役
その身体に酔いしれる
彼女には 太陽の後を追いまわすような
胃が痛む程僕を恋の淵へと陥れるような
幾分危うい嗜好がある
僕は1ダースに迫るまで酒を煽り続ける
僕は100マイル先までハンドルを握る
ただ、どう感じるのかを確かめるために

教えて 僕はいつまた愛を感じるの?
教えて 僕はいつまた立ち直るの?
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

頬を伝うダイヤモンドをかき集めた
そしてそのどれをも無駄にさせない
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

これは 飲み込み難い錠剤
僕が溜め込むこの感情には
悲しみに抗う強さが必要
痛みに抗う強さがあれば、
僕はその感情を飲み下せる
立ち止まった季節で立ち往生して
冷え切った僕は 今 凍えている
それで僕らはお互い様じゃないか
僕は 以前の僕とはちがう
もう僕はこれ以上考えない

教えて 僕はいつまた愛を感じるの?
教えて 僕はいつまた立ち直るの?
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

頬を伝うダイヤモンドをかき集めた
そしてそのどれをも無駄にさせない
涙でいっぱいのショットグラスを手にした
浴びる程飲んで言おう 乾杯と
浴びる程飲んで言おう 乾杯と

彼女は この宴の主役
その身体に酔いしれる
彼女には 太陽の後を追いかけるような
胃が痛む程僕を恋の淵へと陥れるような
幾分危うい嗜好がある



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221244

「Shot Glass of Tears」
作曲・作詞:David Stewart, Jessica Agombar, Michael Pollack, Gregory Aldae Hein


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今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より "Shot Glass of Tears" を意訳・考察していきます。

「GOLDEN」トラックリストではこの後最後に "Seven" のClean Ver. が続きますが、この "Shot Glass of Tears" が実質的なアルバムエンディング曲となっています。

制作陣には "Dynamite" の生みの親 David StewartJessica Agombar の両氏が名を連ねています。当マガジンでは "Too Sad to Dance" でDavid Stewart氏、と "Dynamite" の記事では Jessica Agombar氏について触れていますので合わせてご覧ください。

物語の終焉を高らかと告げ、そしてその次の物語への余韻までをも残すこの短いバラードは、アルバムを締めるモニュメントとして申し分のない楽曲ではないかと思います。
歌詞の上ではどのように決着がついているのでしょうか。少しずつ追ってみたいと思います。




ジョングクの声ありきのChorusから楽曲は始まります。
失意を抱え、誰ともなしに問いを投げかける主人公。酒と言えばなみだ、という連想は万国共通・人類の根幹みたいなところがありますね。

Tell me, am I ever gonna feel again ※1
(教えて、僕はいつになったらまた感じるの?)
Tell me, am I ever gonna heal again
(教えて、僕はいつになったらまた治るの?)
[I] Got a shot glass full of tears
(涙で溢れたショットグラスを手にした)
Drink, drink, drink, say cheers
(飲んで、飲んで、飲んで言う 乾杯と)

※引用文につけた和訳は直訳(省略されていると思われる主語を[ ]内に補足)
https://music.bugs.co.kr/track/6221244

※1 be ever gonna=be ever going to…いずれ~するつもり(参考
★平叙文「いずれ○○するつもり」→疑問文「いずれ○○するつもりなの?」=「いつになったら○○するの?」

ここで飲み干しているのは実際にお酒かもしれませんし、枯れるまで流した涙だとも受け取ることができます。
いずれにせよ、やりきれなさを乗り越えたその時にはどんな結果にも「乾杯」と言えるような上向きな心境の変化を望んでいることがうかがえます。


I got all these diamonds running down my face ※2
(僕はこの頬を伝うダイヤモンドの全てを手に入れた)
And I ain't letting any of ‘em go to waste ※3
(そして僕はそれらのどれをも無駄にはさせない)
[I] Got a shot glass full of tears
(涙で溢れたショットグラスを手にした)

※引用文につけた和訳は直訳(省略されていると思われる主語を[ ]内に補足)
https://music.bugs.co.kr/track/6221244

※2 run down…下に流れ落ちる(参考
※3
・'em=them
・go to waste…無駄になる(参考

失意の底で流したその涙の全てを無駄にはしない。
傷ついた分だけ自分は強くなる。
言わずと知れた最高硬度の鉱石ダイヤモンドがその意志の強さを表しており、それらの内のひと粒も逃さずに自分の糧とすることを誓っています。


She the life of the party ※4
(彼女はパーティーの主役だ)
42 in her body ※5
(彼女の身体は42プルーフ)
She's got some dangerous hobbies ※6
(彼女には幾らか危険な趣向がある)
Like chasing after the sun ※7
(太陽を追い詰めるような)
And making me fall in love Till I'm sick to my stomach
(僕が胃を痛めるまで恋に落とさせるような)
Until I throw back a dozen
(僕は1ダースに迫る量の酒を煽る)
Until I'm driving a 100
(僕は100マイル先まで運転する)
With my hands off the wheel ※8
(ハンドルを握った手で)
Just to see how it feels
(どう感じるかをただ確かめるために)

※引用文につけた和訳は直訳(和訳の筋を優先した改行操作あり)
https://music.bugs.co.kr/track/6221244

※4 life of the party…パーティーの主役(参考
※5 42…この数字にはリリース後XでDavid Stewartの補足が入っており「42 ploof」の事だと説明されています。(参考
プルーフは米英で蒸留酒のアルコール度数を表す際に使われている単位です。
彼はイギリスの方なのでブリティッシュプルーフ(アルコール度数の約1.75倍)で換算すると、アルコール度数は24%程となります。(参考
※6 She's got=She has got
・have got…haveと同じ意味「持っている」(参考
※7 chase after…捕えるために追い掛ける(参考
※8 hands off the wheel…ハンドルを握った手(参考

それなりに高めのアルコール度数で「彼女」のことを例えているのは、付き合って夢中になり過ぎると酔いしれて自我を失いかねないという身をもって感じた危機感の表れかと思います。ごったがえすパーティー会場でもひと際輝いて見える主役級の「彼女」にはそれだけ人を酔わせる魅力がある、と。

ところが、それだけの求心力を持つ「彼女」には、人を狂わせるようなところもあった。それが「太陽を追い回すような」過干渉であり、それによって自分の方が胃を痛める程に参ってしまった、という経緯が述べられています。

「1ダースの酒を煽る」「100マイル先まで車を飛ばす」は〈無茶をすること〉を表現するための比喩だと思われますが、〈人に酔わされた状態から目を覚ますため〉に敢えて破天荒な行動に自分を追い込み、自分が最優先したい気持ちがどんなものなのかを洗い出そうとしているのでないかと思います。


It's a hard pill to swallow
(それは飲み込むには難しい錠剤だ)
This emotion I bottle
(僕が溜め込むこの感情には)
Need something strong for the sorrow
(悲しみに対する強いものが必要だ)
Something strong for the pain
(痛みに対する強いものが)
So I can wash it away
(そうすれば僕はそれを流し込める)
I was cold now I'm freezing
(僕は寒かった 今凍っている)
[Being] Stuck in a permanent season ※7
(変化のない季節の中で立ち往生して)
And we both know you're the reason
(その上僕らはお互い相手のせいだとわかっているじゃないか)
I'm not the same as before
(僕は以前の僕とは違う)
I don't feel anymore
(僕はもう思わない)

※引用文につけた和訳は直訳(省略されていると思われる語を[ ]内に補足)
https://music.bugs.co.kr/track/6221244

※7
・be stuck in~…~に縛られている、~から逃れられない(参考
・Beingが省略された分詞構文(参考

とはいえ、幸せを夢見て生身の関係を築きたいもっと近くにいたいいつ何時も一緒にいたい、とまい進し、どんな困難にも共に立ち向かうと誓った愛する人とのすれ違いは十分悲劇であると言えます。変わらないでと懇願するも、徐々にその違和感の理由に気付き始め、相手にとって自分は運命の人ではないのだという結論に至ります。
「彼女」に拒絶されたことで自分を肯定できなくなり、独りでは進めないと絶望しますが、本当の自分を知る人の言葉で己の強さを思い出した主人公は、辛い記憶の全てを糧にして生きていくと奮起するのです。

ここで重要なのは、この時点で「僕」は一方的に相手が悪いとは言っていないところです。
「互いに理由がある」とわかっているでしょ?と、自分にも相手にとって足りなかった部分があるのだという意識が織り込まれています。
関係が上手く続かなかったのは相手のせいだと決めつけることも、また、自分だけのせいだと落ち込むことももうしない。
そんな風に相手だけ●●のせいだと頑なに言い合っていても季節はめぐらない(=前には進めない)から。

自分はもう、以前の自分ではない。もうそんな不毛なことは考えない、と最後に断言しているのです。




「(収録順に)上から続けて聴くと感情の変化を自然に感じることができると思います」とアルバム収録曲を自ら総評しているジョングク。

私は彼が提示したこの道標がずっと気になっていて、「GOLDEN」楽曲の記事中何度かこの言葉を引用してきたのですが、全曲を読解完了してみた今、その彼の言葉に自分なりの裏付けを完成させることができたのではないかと思っています。

全編英語曲であったこと、自作曲がひとつもなかったこと、歌詞の内容が今までにない露骨なものであったこと、PDの素性が云々…など、彼のソロ活動に対して自身の予想や期待とのずれを感じた方々の様々な意見を遠巻きにですが拝見していました。

聴き方はひとそれぞれ、という大前提を忘れずにいたいと思う一方、彼らが表現者として背負っているものの大きさをあらためて感じざるを得なかったこの数か月でもありました。

歌詞を読解してみて思うのは、例え英語歌詞でも、例え自作曲ではなくても、そこにあるのは紛れもなく〈ジョングクが伝えたいこと〉であり、それがどういった形で目の前に現れ、どういった言語で・単語で耳に届いたとしても変わらないということ。
そしてこれまでとなんら変わりなく「自分を愛そう」というテーマから逸脱していないということ、です。

この強い強いメッセージと共に鮮烈な姿を残して、彼は軍白期を迎えました。お互いがお互いをたたえ合える状況で再会できるように、私も自分の強さに磨きをかけ続けたいなと思います。




今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。