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Jung Kook "Too Sad to Dance" お前は独りでも踊れる 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.115

僕は 余りに悲しくて
踊るには 悲し過ぎる
悲し過ぎて 踊れない
周りが頷くことに捕らわれ過ぎたから
失意と孤独のせいで
悲し過ぎて踊れない

Too Sad to Dance



先週 僕は
瓶に入った手紙を見つけた
そこにはこう書いてあった
'家に戻れ、
もう誰もお前を愛していない'
反論の余地もない
それで昨夜僕はクラブに行った
飲み過ぎて吐いた
もうみんな僕を嘲笑っている

僕は 余りに悲しくて
踊るには 悲し過ぎる
悲し過ぎて 踊れない
周りが頷くことに捕らわれ過ぎたから
失意と孤独のせいで
悲し過ぎて踊れない
僕は今、ひたすら君からの連絡を待つ
君は戻ってこないし、
僕は理解するべきだった
だから僕は 悲し過ぎて踊れない
だから僕は 悲し過ぎて踊れない

今朝 僕は君を訪ねた
ただ己の居場所を認める為に
でも君は
もう話すことは無いと言った
そして 今年のクリスマスは
プレゼントをもらえなかった
僕は本当に
この全ての報いに値するのだろうか?
そして僕はその足で酒を手に入れに行く


僕は 余りに悲しくて
踊るには 悲し過ぎる
悲し過ぎて 踊れない
周りが頷くことに捕らわれ過ぎたから
失意と孤独のせいで
悲し過ぎて踊れない
僕は今、ひたすら君からの連絡を待つ
君は戻ってこないし、
僕は理解すべきだった
だから僕は 悲し過ぎて踊れない
だから僕は 悲し過ぎて踊れない

そうして僕は昨晩親父に連絡した
彼は暁の光が如く言った
お前に恋愛は必要ないだろう、と
彼は僕に言った
口先だけではなく独りで動け
わかったか?
お前は独りでも踊れるからだ、と



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221243

「Too Sad to Dance」
作曲・作詞:David Stewart


*******


今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より "Too Sad to Dance" を意訳・考察していきます。

楽曲を単独で作詞・作曲した David Stewart 氏はあのモンスター・ヒット・チューン "Dynamite" の制作に携わったソングライターです。アルバム「GOLDEN」では "3D" "Too Sad to Dance" "Shot Glass of Tears" の3曲で制作陣にその名を連ねています。

芸能一家の一員としてその影響を受けながらも、実際に音楽活動を始めてから "Dynamite" でブレイクを果たすまで十数年のキャリアを静かに積んでいたDavid Stewart氏。"Dynamite" は実家の寝室で作業したと語っています。↓

そしてここに、本人による "Dynamite" のビハインドがあります。プロなら当前のマニアックな話を饒舌に語る様子が個人的にとても好きです。「GOLDEN」参加曲においてもこのような胸躍る舞台裏が存在し得たのではないかと想像が膨らみます。↓

そんなDavid Stewart氏との "Dynamite" 以来となる共作が実現した「GOLDEN」では、アルバムの始まりと終わりを彼の参加曲が飾っています。「(収録順に)上から続けて聴くと感情の変化を自然に感じることができると思います」とアルバム収録曲を自ら総評しているジョングク。エンディングに向けての助走となるこの "Too Sad to Dance" では、どのような心の機微が捉えられているのでしょうか。その物語を読み解いていきたいと思います。




この楽曲の主人公は「君」との関係が既に終わってしまったことをまだ完全に受け止めきれていません。深い孤独に打ちのめされている様子が冒頭より描かれていきます。

Last week I found a message in a bottle
(先週 僕は瓶に入った手紙を見つけた)
It said go home ain't nobody love you no more ※1
(それは'家に帰れ、お前を愛す人はもういない'と言った)
I can't disagree
(僕は反対できない)
So last night I went to the club
(それで昨晩、僕はクラブに行った)
Had a couple too many threw up ※2
(いくらか飲みすぎて吐いた)
Now everybody's laughing at me
(今では誰もが僕を笑っている)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221243

※1 Ain't nobody…〜な人はいない(参考
※2
・have a couple…酒を適度に飲む(参考
・too many…多過ぎるもの(参考
・throw up…吐く(参考

余りに落ち込み過ぎて赤の他人が見知らぬ誰かに宛てたボトルメールの内容にすら共感してしまい、自分のダメさ加減を嘆いて酒に溺れています。
醜態を晒し、嘲笑われる自分の不甲斐なさを自覚する日々。

'Cause I'm way too sad ※3
(僕はあまりにも悲しいから)
Way too sad to dance ※4
(余りに悲し過ぎて踊れない)
I'm way too sad to dance
(僕は余りに悲し過ぎて踊れない)
'Cause I got too caught up my friends agree ※5
(僕は友だちが賛成することに捕らわれ過ぎたから)
A broken heart and nobody
(失意、そして誰ひとりいない)
And that's why I'm too sad to dance
(そして だから僕は悲し過ぎて踊れない)
And now I just wait by the telephone
(そして今 僕はただ電話の側で待つ)
You ain't coming back and I should've known
(君は戻って来ないし、僕は理解すべきだった)
And that's why I'm too sad to dance
(そして だから僕は悲し過ぎて踊れない)
And that's why I'm too sad to dance
(そして だから僕は悲し過ぎて踊れない)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221243

※3 (be) way too 〜…あまりに、はるかに(参考
※4 too A to B…BするにはAすぎる=AすぎてBできない(参考
※5 get too caught up in…〜に捕らわれ過ぎる(参考
★本来は「I got too caught up in that my friends agree」だと思われるが、
①that節の前の前置詞は省略される(参考
②that節のthatは省略されることがある(参考
の2点より「I got too caught up (in) (that) my friends agree」となったと推測

この「'Cause I got too caught up my friends agree」に注目すると、この主人公が何故独りにならざるを得なかったのか、その理由が透けて見えるようです。
おそらく「僕」は必要以上に周りの人間から自分が肯定されることを優先し、時に「君」の存在や気持ちを二の次にしてまで己の身の保身に走ったのではないかと思われます。
結果的に「君」の心は離れ、弁解の余地も与えてもらえません。

This morning I knocked your door
(今朝 僕は君のドアを叩いた)
Just to admit my floors ※6
(僕の居場所をただ認めるために)
But you said you've heard it all before ※7
(しかし君はあなたはもう全て聞き終わっていると言った)
And this Christmas I got no gifts
(そして今年のクリスマスに僕はプレゼントをもらえなかった)
Do I really deserve all this
(僕は本当にこの報いの全てに値するのか?)
So I head straight down to the liquor store ※8
(それで僕は酒屋に直行する)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221243

※6 my floors 直訳:自分の床・階・フロア
★ひとつ前の行の「your door」と「my floors」は対になっていると思います。建築物という概念の中でドアやフロアといったメタファーを用いて互いの領域を表しているのではないかと思います。(複数形なのはこの時点で自分の居場所がひとつに定まっている訳ではないからだと思われる)

自分の立ち位置フロアを把握し認識するためだけに、
心のドアを閉ざした君に対して諦めずにノックしてみた。

ちなみに「(エレベーター内で)この階で降ります」と周りに伝えたい時は「This is my floor」と言うとのこと(参考)。

※7 you've heard it all before…もうあなたはそれを全て聞いた=もう話すことは無い
※8 
・head straight to…~に直行する(参考
・straight down…真っすぐに(参考

自分が今いる場所(「君」から拒絶されているという現実)をただ認めるためだけに「君」の元を訪ねるけれど、もう終わったことだと突き放される。クリスマスが来てもプレゼントはもらえず、こんな仕打ちを受ける筋合いが本当に自分にあるのかと自問し、その憤りに任せて酒屋に直行してしまいます。

自分の非を認め「理解すべきだった」と後悔するも、自分の気持ちだけでは変えられない現実。
絶望の淵に立たされた主人公が助けを求めたのは、家族でした。

So I called up my pops last night ※9
(それで昨晩僕は親父に電話した)
He said by the morning light ※10
(彼は朝の光に依って言った)
You won't need no romance
(お前に恋愛は必要ないだろう)
He told me, walk that walk alone ※11
(彼は僕に諭した 独りで歩け)
And talk that talk you know
(口先だけではなく わかるよな?)
'Cause you don't need no one to dance
(お前は誰もいなくても踊れるから)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221243

※9 my pops…父親に対するくだけた呼び方(参考
※10 この by は「~そばに」【場所】ではなく「~によって」【手段】の用法
自分は「君」が不在のままでは何もできない人間だと鬱々と思い込んでいたが、無償の愛を与えてくれる家族の「お前なら独りでも平気だ」というひと言がまるで夜の闇を断ち切る朝陽のように主人公の心に差し込んだ瞬間を表しているのだと思います。
※11 walk that walk and talk that talk…有言実行する(参考

イエスマンであり続けないと維持できない友人関係。
そして戻ってこない「君」。
これらの対象には他人という共通項があります。
自分の気持ちや性格を理解してくれていると思う瞬間があっても結局は他人。

冒頭のボトルメールは正真正銘赤の他人が書いたものであり、もちろん自分宛の手紙でもない。そこにあった言葉が偶然にも自分の境遇を言い得ていたとはいえ、結局は暗闇を抜ける力を与えてはくれない。

それに対し父親という存在はどれだけ連絡を取る頻度が低くても家族には変わりなく、その言葉はどんな憂鬱も一発で晴らすことができる。まるで確実に夜を終わらせることができる朝陽のように。

独りでも大丈夫だ、あれこれ言うより身体を動かせと励ます父親の言葉が「僕」に答えをもたらしたのでした。




自分の本来の姿が上手く周りに伝わらず、自己否定を深め自暴自棄になる主人公。自分という存在は誰にも必要とされず、誰にも愛されない。
そんな自分にも、自分の本質を良く知ってくれている家族がいる。

他人に囲まれ孤独を極める人に、あなたには独りでも進んでゆける強さがある、そして何より、真に独りでいる人はいないのだと、暗闇における光の存在を示すような物語がこの歌詞にはこめられているのではないかと思いました。



今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。