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記憶から放たれ、遊べや遊べ

2023年3月18日(土)-19日(日)なづき稽古

(18日土曜日)
今も吾野についての理解を深めるためリサーチを行っている。今回は顔振(こうぶり)峠や高山不動尊まで赴いた。「顔振」の由来は奥州に落ち延びる義経が景色がいいので振り返り振り返り進んだという言い伝えからだそうだ(調べるに所説あった。興味ある方は検索を)。この日は生憎の雨模様。晴れた日は関八州全体が望めるという。わたしたちは車を運転しながら土地の歴史と現状を説明してくださる吾野宿の主、大河原さんの導きに従って進む。関東といえば、源氏の拠点というイメージがあるが、一時は平家であらずは人であらずと権勢を誇った平家。幕府が開かれた後も平氏であった人々も残っていたという。そんな集落も残っているのだ。集落は雲海が立ち上る山々に抱かれるようにしてあった。一軒一軒は離れており、なにか重力から放たれた仙境を思わせる。顔振峠では、渋沢栄一の義理の息子にちなんだ命名の平九郎茶屋付近で車は止まった。散策していると大河原さんの知り合いでもある茶屋の女将からお茶を飲んでいけばとの誘いを受けた。91歳と付喪神に近い年齢なので人間離れしたセンスと華が感じられた。現世に退屈しているさまが見受けられるものの土地の将来についての危惧も指摘される。過疎化はどこでも大きな課題なのだ。お手伝いの女性がひとりいて、彼女の娘さんはアメリカ人と結婚して近くでカフェも開いている。海外からの人の方がこういった集落に惹かれるようで、大河原さんがいうにはこういった人々の方が山々で生きる術を持っているという。お手伝いさんは土地の人々とある一定以上は親しくなりにくいというのが悩みのようであった。「地元の人は見向きもしないんだけど、近くにそれはすばらしい大樹がある。時間があれば、ぜひ見てもらいたい」とも仰った。この日はスケジュール的に行けなかったが、いずれその古木にも会いたい。
お茶と柚子みそコンニャクをいただくと、次に高山不動尊に向かった。雨のためか他に人の姿をみることもない。樹齢800年を超える銀杏が境内に植わっていた。季節の花が咲き誇る古刹のたたずまいをしんしんと感じ取ることができた。

すべての役柄につけた名前には本編には語られることのない物語を内包させている。実際に土地に触れていくと、それぞれの人物の背景にある物語が深くなっていく。この訪問で「信之」の背景が一気に書き換えられた。この日は稽古こそしなかったが、それぞれに重要なものを持ち帰ることができた。

(19日、日曜日)
久しぶりに参加者全員があつまっての稽古だった。昨日のリサーチの成果を踏まえて役柄についての変更点や脚本の大幅加筆、修正をしたところを口頭で伝えた。訂正に関して一つ疑問が呈せられ、全体での議論を経て、問題点はひとつの理解に至った。敏感な感覚は大切だ。その後は通し読み。あたらしく試みている部分と今までのなづきらしい部分とが第2章「件」と第3章「むこう側」に関してはかみ合ってきた。そして抜き稽古。川津演じる「美咲」、ゴーレム佐藤さんの「康史」の場面。そして上野憲治さん「秀人」、付喪神の「罐助」の山田零さん、「錦役」の今井歴矢さん、「座敷童」の伸枝さんの登場場面を作っていった。美咲、康史の再会場面はだんだん良くなってきた。演出助手の田口和さんにも川津の演技は落ち着いてきたとの感想をもらった。なんどか「美咲」を稽古するうちに幼いころ家で習慣づけられていた所作についてふと思い出し、それを再現したのがよかったのだと思う。美咲の切り盛りする旅館と川津の実家には共通点が多くある。川津は幼少期から斜陽族的な末路を迎えつつある実家をコンプレックスとともに意識、無意識的に封印していたのだが、その記憶を解いた。7年間失踪していた夫、「康史」への感情も自然と芽生えた。今日の稽古では思いが少し伝わってきたとゴーレムさんも仰った。付喪神の山田さんはすでに遊び心満載の役柄を作っていた。今井さんはどのように錦を演じるか、絞れてきたようだ。伸枝さんの座敷童は古い地層のような優しさが滲みでていた。吾野近辺の山道で見かける複雑な岩盤層のような深みや味わいが出てくるとさらに役どころに説得力が出ることだろう。演出の腕の振るいどころ。

最後に第3章の「むこう側」を稽古。この章は従来のなづきらしさが噴出する場面だ。即興に任すのではなく、演出側である程度絵を固めた方が、練習がしやすいという意見もあり、その方向で進めたい。ひとまずメンバーでいろんなイメージを出し合いながらこの日は仮どめした。

稽古後数年ぶりに全員で飲みに行った。山田さんからあるシーンの後にある場面を入れたいという要望が。川津は過日山田さんの即興でのソロパートを見ているので二つ返事だった。第1章「門」は色んなやり方があるのだが、根っこにあるイメージは共同主宰である月読彦さんと共有しているので彼が担当する。身体優位な章になる。次回の稽古は第1章「門」を中心に練っていくので今から楽しみ。

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