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【『手帖』と手“帳”(19)】(美術鑑賞の日々を小説風に綴る月刊誌『平岡手帖』クラウドファンディング 19日目)

ようやく『平岡手帖 3月号』が書き終わって、佐塚さんたちにお送りする。見本の『1月号』では、情報量が多すぎて疲れる…みたいな反応を少し頂いたから、詳細は思いきって展示リスト(引用文献的に巻末へ付した、登場した展示を一覧にしたもの)に任せ、本文はもっと大雑把に書いてしまう。この試みは、少なくとも私の中では当たっていて、情報量を抑えた分、展示や作品そのものの描写が増やせて、流れとしてもっとおっとりした気がする。
そして、この平岡手帖は、練習がてら書き始めた『2023年10月号』の始め、10月9日に行ったグループ展「Women's Lives 女たちは生きている―病い、老い、死、そして再生」(プラザノース ノースギャラリー)からある意味ずっと続いている。『2024年 3月号』のラストは3月2日(と2月25日)に行った渡邉洵さんの個展『苔男』(Art Center Ongoing)で見た映像作品、空の端と端とが繋がって、緑の惑星のようになった岩場で踊るシーンだから、『4月号』はそこから(連想が)始まることになる。

というところを書きながら、またオンゴーイングに昨日は行った。オンゴーイングには頻繁に、展示のごとに行っているから『手帖』として書く頻度も高い。だからオンゴーイングのことを書きながらオンゴーイングで新しい展示を見ることが多くって、この日は中村葵さんの個展だ。

階段の先の2階は暗く、ちょうど映像が終わったところのようだ。柱と柱(以前、ここには小部屋があった)の間に張り渡されたフィルムはハーフミラーのようで、黄色い光がそこに反射して波打っている…
のを見ている間にも、正面の壁が明るくなってきたから残りの数段を上がる。CGの長屋が並ぶ中、「夜 猫ら並ぶ行燈 油なら捏ねるよ-よる ねこらならぶあんどん あぶらならこねるよ-」と表示されるそれは、作品タイトルでもあり、展示タイトルでもありそして回文だ。
先ほど波打っていた黄色い光は、その回文自体を作品化したもので、床おきにされたモニターでは、「よる ねこらならぶあんどん あぶらならこねるよ-」が輪になっていて、“12時”の位置にあった「よ」が、一周して再び12時を指すと、今度は反時計回りになる。これを繰り返している。
鑑賞者もある種の時計となって、3つの映像作品をぐるぐると行き来することになる、3つ目の作品はハーフミラーの向こう、《夜 猫ら~》を見るベンチの後ろの壁に投影されており、メビウスの輪になっているその色は月のようだ。
しかしここでは、バター/マーガリン色という方が正しいだろう、《夜 猫ら~》では猫が黄色い塊にチロッと舌を伸ばしている。話の流れ的にマーガリン=人造バターだと思うが、舐められないから厳密には区別できない。“化け猫”も、皮を剥いでみないと見分けがつかないかもしれない、猫の覗いた井戸の水面が、ハーフミラーのように、あるいは銀箔のようにさざめいている。
1階カフェに戻り、シズエさんにランチを頼む。その間、オンゴーイングの本棚から、『化け猫あんずちゃん』(いましろたかし)を抜き取って、“不良”ふたり組と出会うところまで読んだ。(続く)

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【クラウドファンディングはじまります!】

本日から『平岡手帖』定期購読者を募る
クラウドファンディングを開催いたします!

詳細は「平岡手帖」アカウントプロフィールに記載のURLからご確認ください
@hiraokatecho

○『平岡手帖』
○場所:CAMPFIRE
○クラウドファンディング期間:2024年4月1日〜4月30日(予定)
○目標金額:170万円(定期購読者300人)
○企画:平岡手帖制作委員会、ハンマー出版、額縁工房片隅

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『平岡手帖』について。

1年のうち300日以上を美術に出会うために歩き回っている平岡希望さん。ここ数年は、毎年600カ所以上の展覧会に足を運び、その空間とそこにある作品1つ1つを熱心に鑑賞している。その動向はSNSでなんとなく目にしていた。最近では、かなり長い文章で美術との出会いを克明に記している。しかし、平岡さんの全貌は謎に包まれている。日々どんな生活をしていて、どんなふうに動いて、なにを考えているのか。そして、その美術への熱量はどこからくるのか。僕はずっと気になっていた。美術と出会うために、全てを注ぎ込んでいるような人。そんな人が、1人くらいこの世の中にいてもいんじゃないか。いや、いてもらいたい。そして、そんな生き方を応援したい。そんな思いを数人と話しているなかで、平岡さんの手帖を公開して、日々の美術との出会いを記録発信していく『平岡手帖』という企画は面白いんじゃないかという話になった。平岡さんに話してみると、ぜひやってみましょう、という事になった。展覧会とは、オーロラのようなものだ。その時その場所に行かないと出会えない。そして、その一瞬の会期が終わると風に吹かれた塵のように消え去ってしまう。そんな儚い展覧会というもののアーカイブとして、この「平岡手帖」が、もし5年、10年、続く事ができたならば、未来において日本の美術シーンを語るうえでの重要な資料になるのではないかと夢想する。そして、美術に出会うために自らの全てを注ぎ、歩き回っている1人の人間のドキュメンタリー・ノンフィクション小説として読むことも出来るだろう。平岡さんの1ヶ月を1冊の小説のような形にまとめて、それが1年間12冊、毎月送られてくる。今回のクラウドファンディングでは、そんな『平岡手帖』の定期購読をしてくれる人を募りたい。

この「平岡手帖」を定期購読するという事は、少し大げさかもしれないが、美術という1つ1つの小さな出来事を、1人の存在を通して美術史に小さく書き残していく、そんな事への協力になる。ぜひ、多くの方に平岡さんのそんな生き方を応援してもらいたい。

きっと今日も平岡さんは美術に出会うため歩き回っている。こんな人この世の中になかなかいないと思う。だからこそ。ぜひ『平岡手帖』の定期購読をしての応援、よろしくお願いいたします。

(平岡手帖制作委員会_佐塚真啓)

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