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「部下のやりたいこともわかるが売上が…」 本音のキャリア相談室#03

仕事とキャリアの悩み、プロに直接きいてみた

「キャリア流動化時代」に必要なすべてが詰まった『キャリアづくりの教科書』(NewsPicksパブリッシング刊)。約5年の歳月をかけて完成し、発売直後に重版が決まるなど話題となっています。

そこで、2万人のキャリアを支援してきた著者の徳谷智史さんが、仕事とキャリアに悩むビジネスパーソンの「リアルな悩み」に答える「本音のキャリア相談室」を開催。第3回は、「もうリーダーを続けられません…」「部下のモチベーションを下げない目標設定のコツは?」「やりたいことがなく見える人との向き合い方」などの赤裸々な本音を一問一答形式でぶつけてみました。

(NewsPicksメルマガでの連載に加筆しお届けしています。前回はこちら




「前のリーダーの方がよかった」と言われ…。

みんなをまとめて盛り上げてくれるカリスマリーダーの後任としてリーダーになりました。メンバー数名から「前のリーダーの方がよかった」とはっきり言われ、自信を失くしています。リーダーを辞めたいと思うものの、ここで辞めたら逃げたことになる気がするのでなんとかがんばりたいです。どうしたら自分のリーダーのスタイルを確立し、メンバーも働きやすく、チームの実績もあがるようになるのでしょうか?

💡自分を開示し、外部に頼ること。どんな組織にしたいか、少しずつでも言語化を

まず、頑張りたいと思っているのは素晴らしいと思います。「前のリーダーの方が良かった」と露骨に言われるのはなかなか辛いと思いますが、(相談者の方も頭ではわかっているのだろうと思いつつ、あらためて)あまり比較する必要はありません。

リーダーシップもいろんなスタイルがあります。カリスマリーダーでないなら、どんなリーダーでありたいのでしょうか。どんな組織にしたいのでしょうか。それらを、少しずつでも言語化していくのがいいかなと思っています。強いカリスマリーダーでないといけないと思い込みすぎて辛くなるケースは多いものです。

「こんな組織にしていきたいけど、正直ここはなかなか困っている」とか、「うまくいかない部分がある」などとメンバーにオープンに伝えて、もう少し自己開示して頼ってもいいかなとは思いますね。

頼るのは、必ずしもメンバーではなく、社外のメンターなど外部の方でもいいと思います。また、程度問題ではありますが、メンバーに弱みを見せることもあっていいのではないでしょうか。

「僕は何もできません。誰かなんとかしてください」と丸投げするのは違うと思いますが、「こういう組織にしたいし、みんながこういう風に働けるようにしていきたい。でも、ここはできそうだけど、この部分は自分の力だけでは足りないのでみんなの力を貸してほしい」といった形で、自分の意志やできそうなことを伝えたうえで、力を借りたい部分を伝えていくのがいいと思います。


会社のゴールを重視すると、部下の「やりたいこと」の優先順位が下がってしまいます。

個人の理想やWill(やりたいこと)を実現しながら、会社の成長につながることが理想です。でも、現実問題、会社として事業をしている以上、売上や利益を出さないといけないし、なかなかみんなの理想やWillを優先するといった綺麗事だけ言っていられません。どうやって組織・部署・個人のWillを紐付けてKPIを設定したらいいのでしょうか?(30代・女性・リーダー)

💡メリハリをつけ、最低1つはWillとつなげるなどの工夫を

わかります。マネジャーとしてとても悩ましい部分ですよね。

会社は学校ではないので、個人のWillのためだけで動いているわけではないですし、 もちろん現実的なKPIの設定は必要です。会社の成長と個人のWillが重なると理想ではありますが、必ずしもそうはいきません。

そのため、「メリハリ」や「バランス」が大事になっていきます。だから、事業上インパクトが大きいものや、組織として重要視している指標など影響が大きいものはMust(やらなくてはいけないこと)を優先してリソースを割り当てないといけないと思います。

ただ、何かしら1つはWillとつなげることを意識するとか、あるいは最近機会がなかったメンバーには優先的に機会を提供するなどはしたほうがいいと思います。全部パーフェクトでなくてもいいのですが、『キャリアづくりの教科書』第8章にも書いたとおり、優先度、メリハリの組み合わせで現実的に対応していくということです。

あとは、そのために中長期目線でチーム全体のリソースを確保したり、目標の期待値を社内で調整したりすることもマネジャーとしての大事な仕事だと思います。


「Willって全員が持っていなきゃいけないのか」問題

Will Can Mustの話になった時に「Willは無い人はいない」と言う人と「Willはみんな持っている。気づいていないだけ」派の人に意見が分かれると感じています。これに対して徳谷さんのお考えを聞かせてください(30代・女性・人事)

💡「好きなこと」「やりがいを感じるもの」なら誰しもあるのでは

私の考えは、後者の「Willはみんな持っている。気づいていないだけ」に近いですね。Willという言葉のイメージが強すぎるのかもしれませんが、人間、何かしら好きなことや、やっていて楽しいこと、やりがいを感じることくらいならあります。それが、Willにつながりうる要素です。

にもかかわらず、 そこがあまり具体化できていなかったり、仕事とつなげられていなかったりするケースが多いのも事実。対話をしたり、具体的な言葉に落とし込んでみたり、引き出していったり、まずは仮でもいいので置いて動いていく中で、より明確になっていくと思います。

あと、「自分にはWillがある」と言っていても、実は全然思い込みで、横の人の受け売りだったみたいなケースも。いずれにせよWillがないのはダメなことだと捉える必要もないと思います。Willに優劣はありません。別に、誰もが世界を変えないといけないわけではないと思うんです。


昇進に気持ちが追いつかない。どうしたら?

30代半ばです。仕事は「ゆるく楽しく働ければいい」と思っていたのですが、どんどん昇進してしまい、気持ちがついていきません。昇進はありがたいことだとは理解しているのですが、モチベーションも高くないので、このままでいいのか悩んでいます。何かアドバイスいただけないでしょうか?(30代・女性・リーダー)

💡昇進がすべてではない。自身の考えを率直に伝えてみては

これは少し心配です。
まず昇進しているのは、価値を出していて、能力が高いと認められているということなので素晴らしいと思うのですが、 ただこのままだと、だんだん気持ちが実務と乖離していきますよね。

逆の視点から言えば、ご自身のモチベーションが高くなるシーンの要素はなんなのでしょうか。昇進ではないその要素を、明確に言語化できるとよいかと思います。そのうえで、その要素が増えていくような昇進につながるといいですよね。

あと、おそらく昇進させている側も、「本人はどうありたいんだろう」や、「どのような力をつけたいんだろうか」などを認識しないまま、「昇進したら当然嬉しいに決まっている」と思い込んで昇進させている可能性もあると思います。

その場合、上長や組織側に「昇進がしたくて働いているわけじゃないんです」という自分の考えをきちんと伝え、すり合わせて、どのような機会を得られるといいかなど、キャリアパスを含め、 対話できるといいと思います。

最終回へ続きます)

執筆:平松伊織
編集:井上慎平
デザイン:石丸恵理