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放課後に関わるプロが考えるこどもまんなかの放課後のつくり方

子どもが社会のまんなかで自分らしく生きるために、自らの専門性を生かしながら放課後づくりに関わる大人が増えていますが、放課後にはいま、何が求められているのでしょうか。放課後NPOアフタースクールの渡部さん、臨床心理士・公認心理師の須賀田さん、ソニーグループ株式会社サステナビリティ推進部CSRグループの飯村さんが語り合いました。

渡部 岳さん
放課後NPOアフタースクール
教職員を経て入職後、公立アフタースクールでの現場運営に携わる。現在は、自治体や運営事業者と連携して全国の放課後活性化に取り組んでいる。

須賀田 真理さん
臨床心理士・公認心理師
放課後NPOアフタースクールの運営する公立小学校の放課後学童クラブに巡回相談心理士として参画。巡回訪問やスタッフ、保護者との面談を行う。

飯村 樹里さん
ソニーグループ株式会社 サステナビリティ推進部
CSRグループ ソーシャルイノベーションチーム
「感動体験プログラム」の実施責任者としてパートナーとの協働のもと子どもたちの体験格差縮小に取り組む。

放課後づくりという仕事へのモチベーション

渡部さん:入職から4年ほど現場運営をしていましたが、放課後全体の課題解決をするために、日本各地にいる運営主体のみなさん、現場スタッフのみなさんと一緒に現場をつくっていきたいと考えるようになり、いまは運営支援に携わっています。
 
僕は、放課後が子どもにとってデザートみたいに楽しい時間であってほしいと思っています。そのためには大人も楽しめていることが大切です。運営者の先にいる子どもたちのことを想像し、どんなことができるかと一緒に考えていくことに、日々やりがいを感じています。みなさんは、それぞれどんなモチベーションで放課後づくりに関わってくださっているのですか。

渡部さん(放課後NPOアフタースクール)

須賀田さん:思いっきり弾けて、楽しんで自分らしく過ごすことができるのが放課後の魅力ですよね。訪問するたびに子どもたちのパワーに驚かされます。一方で、学校ですごく頑張った分、子どもにとってはストレスを発散できる時間でもあり、スタッフのみなさんが関わり方に悩むこともあります。心理師として何か力になれることがあればお手伝いしたいと思い、月2回、放課後学童クラブへの巡回訪問を続けています。

須賀田さん(臨床心理士・公認心理師)

飯村さん:私は、放課後NPOさんの「放課後はゴールデンタイム」というメッセージにとても共感しています。放課後は、学校よりも圧倒的に長くていろいろなことができる、夢のような時間ですよね。一方で、子どもたちの間に、経済格差や地域格差から来る体験格差が生じているという現実もあります。そこにどうアプローチできるかを考え、ソニーグループのテクノロジーとエンタテインメントを活用した「感動体験プログラム」が生まれました。プログラムを通じて好奇心や創造性を育む体験を提供することが、大きなモチベーションになっています。


飯村さん(ソニーグループ)

自由で居心地のいい放課後のために

渡部さん:自分らしくいられる自由な放課後づくりに挑戦する過程で、スタッフ側に「どの程度子どもの自由を尊重すべきか?」という悩みも生まれてきます。 

ある現場で、自由というよりも秩序がくずれてしてしまいそうな状態だったところ、スタッフが何を思ったか廊下で地域の踊りの音楽をかけ始めたことがありました。曲に合わせてスタッフが踊り始めると、子どもたちが集まってきて一緒に踊り始めたんです。「踊りなさい」とも「踊ろうよ」とも言わずに、子どもも大人も混ざって一緒に楽しんじゃおう、と。もしかすると苦肉の策だったのかもしれませんが、それが子どもたちにぴったりはまりました。それまで言うことを聞かせようと頑張っていたスタッフが、「子どもと一緒にやってみよう」と発想を切り替えたときに、子どもたちがぱっとこちらを向いてくれた。その瞬間を目撃できたのはとても嬉しかったですね。

須賀田さん:まず大人が変わる、というのは大切ですね。以前、学校でなかなか集団に馴染めず、ストレスで暴言が出てしまう子がいて、スタッフさんが対応に悩んでいたことがありました。暴言を制止するよりは、「どうしたの?」とできるだけ寄り添い、その子の話をたくさん聴いてあげるようにしていこうと決めて関わっていただいたところ、どんどん落ち着いて、スタッフさんとも友達ともいい形で関われるように変化しました。スタッフさんたちにとって「関わり方でこんなに子どもが変わるんだ」と体感できた出来事になったと思います。
 
渡部さん:子どもは一人ひとりとても個性的です。一人で遊ぶのが好きな子もいれば、集団で過ごしたい子もいる。友達と関わりたくてもうまくいかない子もいます。一人ひとりのでこぼこにしっかり寄り添うことの難しさも感じています。そうしたときに、須賀田先生のような専門的な見地から子どもの関わりを支えてくださる方がいるのはとても心強いです。
 

国内の教育格差縮小を目指すソニーの「感動体験プログラム」

体験が育む子どもの力

渡部さん:ある現場に地域の方がプログラミングを教えに来てくれたことがあったのですが、その中に一人、学校でいろいろあってイライラしている子がいました。最初、その子は活動に加わっていなかったのですが、講師の方の荷物を運ぶのをちょっと手伝ってもらったのをきっかけに、機材のコードを繋いだりと、まるでお弟子さんのように楽しそうに自ら動いていました。その子には、そこが居心地良かったんですよね。

飯村さん:体験が子どもを変える、というのは本当にいつも実感しています。以前、不登校傾向があるお子さんがワークショップに参加してくれていたのですが、発表会のときにいらした教頭先生が、「学校とはまったく違う、イキイキとした表情だった」と大変驚かれていたことがありました。こうした子どもたちの変化をデータとしても把握したいと思い、体験機会の提供による子どもの非認知能力向上について社会的インパクト評価を実施した結果、長期の体験プログラムに参加した子どもたちの非認知能力が段階的に上昇することが確認できました。以前から現場で感じていた子どもたちの成長を数値としても捉えられたのは、嬉しいですね。

渡部さん:現場では、毎日子どもたちがやって来て、出席確認して、すぐにおやつの時間が来て、という目まぐるしい日々を過ごしています。一日を過ごすだけで手いっぱいになってしまうことも多く、子どもたちの育ちに必要な中長期的な活動を考えるところまではなかなかいかないのが現状です。ソニーさんとのパートナーシップにより、子どもたちにさせてあげたい体験を計画的に導入できるのはとてもありがたいですね。

子どもの育ちを見守ることができる豊かな社会に

渡部さん:放課後に関わる大人たちが、「子どものために」と頑張りすぎると辛くなるんですよね。それより、そばにいる大人も心地よくいられる方がいい。子どもが失敗しても、大人が笑って見守ることができる余裕を持つことも、子どもたちが放課後を自分の時間として感じるために大切だなと思います。

"こどもまんなか"の放課後のために、何ができるだろうか

須賀田さん:大人たちが余裕を持って過ごしていると、子どもたちも自然にいろんな姿を見せてくれるようになると思います。家、学校、放課後と、子どもたちはそれぞれの場所で、違う顔を持っているものです。それを周りの大人たちの間で共有することが、子どもにとってもプラスになるはずです。
 
飯村さん:放課後を豊かにするためには、ソーシャルセクター、企業、行政など、異なる分野のアクターが協働することで、集合的(コレクティブ)なインパクトを最大化するように働きかけることがとても大事だと思います。一方で、ときにはそれぞれの立場を超えて、当事者同士でもう少し踏み込んで話し合うことができれば、と思っています。

渡部さん:本当にそうですね。子どもたちのニーズも多様化しているので、「放課後だからここまで」といった線引きが難しくなっていると日々感じています。子どもをまんなかに、いろいろな大人同士がときには役割を超えて繋がりあえるといいですよね。そうした繋がりから、子どもがのびのび育つ豊かな社会をつくっていけるのではないでしょうか。


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