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建設業経理検定と「収益認識に関する会計基準」について(第35回試験版)


はじめに

2024年9月に実施される第35回建設業経理士試験では、「収益認識に関する会計基準」の内容について、「当面の間、出題しないこととする」と案内されています。
このことについて、もう少し詳しい背景や今後の展望に関する私見について、この記事にまとめてみました。

収益認識に関する会計基準について

2021年4月1日以後に開始する事業年度より、企業の収益、特に本業に関係する売上高や完成工事高の計上時期や計上金額に関する新しい会計基準(会計のルール)「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識基準」)が強制適用となりました。

ほぼすべての業種の会計処理に影響があるため、強勢適用のタイミングではかなり大きな話題になりました。
ただ、収益の会計処理に関する考え方、つまり会計上の思考手順から大幅に見直しが入ったことから、簿記・会計系の検定試験に与える影響も大きく、その周知や準備の時間を確保する観点もあり、それぞれの試験の対応もまちまちといった状況が見受けられました。

例えば日商簿記検定では、普段であれば強勢適用のタイミングで新しい会計基準の内容が試験範囲(出題区分表)にも加わるのですが、受験生の学習そのものだけでなく、学習に必要な教材やカリキュラムなどの準備も必要になるだろうという観点から、収益認識基準の内容に関しては、強勢適用から1年経過した2022年度の試験範囲から出題内容に適用されるという少々異例な扱いとなっていました。

このように準備期間が設けられましたが、日商簿記検定では1級から3級にわたって、収益認識基準の適用に伴う変更や内容の追加が行われました。

建設業経理検定と収益認識基準

試験対策で必要なのか

建設業経理検定も、実は令和4年度上期試験(2022年9月実施の第31回試験)の試験範囲(出題区分表)から、1級の試験範囲に『収益認識基準』という項目が入っています。(あくまでも1級のみで、2級以下の試験範囲にはなっていません)

ただし、出題区分表に『収益認識基準』の文字が入ったときから今現在(2024年9月実施の第35回試験)まで、この項目には※印の注釈も一緒に付されています。

※企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」による、会計処理や財務諸表上の表示の変更については、当面の間、出題しないこととする。

建設業経理検定1級・2級 出題区分表より
https://www.keiri-kentei.jp/exam/scope.html

ご覧のとおり、試験範囲に『収益認識基準』という内容が入っているものの、試験そのものには「当面の間、出題しない」とあるので、受験生としては(試験のことだけ考えれば)収益認識基準のことを一切気にせずに学習して構わないということになります。

建設業経理検定で当面出題されない理由(考察)

では、他の会計系の検定試験では出題されている収益認識基準が、どうして建設業経理検定では1級も含めて当面の間、出題されないことになっているのでしょうか。

これは、収益認識基準の適用が強制される対象と建設業界の事情が大きく関係しているものと思われます。

冒頭で収益認識基準は2021年4月から強制されるものだと書きましたが、実際に強勢適用しなければならないのは、主に上場企業や、上場していなくても一定の規模を超えた大きな会社のみとなっており、この記事を執筆している2024年3月時点で、それ以外の主に中小企業については、適用しなくてよいことになっています。

そもそも大幅な考え方の見直しが必要となる変更であり、場合によってはシステムの改修や経理担当者の再教育も必要となるものですから、マンパワーに制約がある中小企業で適用するのは現実的には困難です。また、上場企業と異なり、中小企業は利害関係者の範囲などもそれほど広くないことから、新しい会計基準を適用するメリットよりも、現場の混乱などの負担の方が大きいという判断から、このような扱いになっているようです。

日商簿記検定などは様々な業種・業態、様々な規模の会社で働く(働こうとする)方の能力を測る目的があるため、新しい会計のルールは原則として取り入れる必要があります。

しかし、建設業経理検定は「建設業」に特化した試験であるため、建設業界の事情だけを考えれば大丈夫です。

建設業は規模の小さな会社が多く、そのほとんど、約99%が資本金1億円未満の会社または個人企業と言われています。

国土交通省
「建設業許可業者数調査の結果について 建設業許可業者の現況(令和 5 年 3 月末現在)」より
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610921.pdf

収益認識基準とは直接的に関係ない建設業者が多いにもかかわらず、収益認識基準に関連する問題を出題することや、完全に収益認識基準の内容に切り替えてしまうことは、建設業界の試験として相応しくないという判断から、おそらく現時点において「当面の間、出題しない」ということになっているのでしょう。

ネットスクールの対応

ネットスクールが刊行している建設業経理士1級試験対策の『建設業1級 財務諸表 出題パターンと解き方』では、いつ出題されてもいいように、新しい収益認識基準の内容を"参考"として、概要と建設業における具体例を掲載しています。
また、私が講師を担当する建設業経理士1級 財務諸表のWEB講座でも、テキストの内容に合わせた講義を収録・配信しています。

どちらも、「出題しない」といっている当面の間は試験対策において不要なものであるため、無視して頂いて構いません
ただ、上述のとおり大企業などでは既にこの収益認識基準に基づいた会計処理が行われ、その処理に基づいて財務諸表(決算書)も作成されています。

したがって、新しい収益認識基準が適用されるような会社に勤めている方はもちろんですが、収益認識基準を適用しているような会社を相手に取引をする場合や、個人的に株式投資を考えている場合などに財務諸表を分析する際には、この新しい収益認識基準の知識を持ち合わせた方が良いのも事実です。

そのため、試験対策としては不要であっても、知識として必要となる場面が訪れそうな方は、どこかのタイミングで、簡単で構いませんから、概要を掴んでおくことをお勧めします。

今後はどうなる?

では、いつまで「当面の間」なのでしょうか?
こればかりは、はっきりした予想は難しいですが、個人的な見解を書いておきます。

今後の建設業経理士試験における新しい収益認識基準の適用に関して、唯一の手掛かりとして考えられるのは「中小企業の会計に関する指針」だと思っています。

前述のとおり、収益認識基準が強勢適用されるのは上場企業や大企業が中心で、中小企業は強勢適用の対象外となっています。
では、中小企業の会計のルールはどうなっているかというと、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会の4団体が作成している「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小会計指針」)が指針になるとされています。

この中小会計指針では、工事収益の計上について、収益認識基準が強勢適用される前の考え方(「工事契約に関する会計基準」に基づく考え方)が以前として示されています。

これが変わるタイミングに合わせて、中小企業が多い建設業における経理の試験である建設業経理士試験でも、内容が変わるのではないかと予想しています。

では、中小会計指針の内容が変わるタイミングがいつなのか。これに関しては、プレスリリース内にて以下のように説明されています。

収益認識会計基準の考え方を中小会計指針に取り入れるかどうかは、収益認識会 計基準が上場企業等に適用された後に、その適用状況及び中小企業における収益認識の実態 も踏まえ、検討することを考えております。

Press Release 改正「中小企業の会計に関する指針」の公表について

…結局、今後はよく分からないといった感じですが、少なくとも中小会計指針の動向が、今後の建設業経理士試験の動向にもリンクするのではないでしょうか。(外れたらごめんなさい。)


とりあえず、私の方でもこまめに動向はチェックしているので、何か動きがあれば、このnoteのほか、私のX(旧Twitter(@NS_Fujimoto)のアカウントなどでも投稿していきたいと思います。


また、もし「試験に出題されるぞ」となった場合には、私が担当するネットスクールの建設業経理士WEB講座の追加答練やとおる模試の問題にも、適宜織り込んでいったり、ホームルームなどでもご案内したいと考えています。

興味がある方は、ぜひネットスクールの建設業経理士WEB講座の利用もご検討ください。
https://www.net-school.co.jp/web_school_course/kensetsu/