見出し画像

ビバ車中泊!エアストリームに泊まって「住む」を考える

「住まない」という選択肢

衣食住という言葉があるように、住むことは人の暮らしにとって無くてはならないものだ。家を借りたり、家を買ったりして、ある一箇所に定住する。当たり前といえば当たり前のことであるが、昔から一定数の人はあえて「住まない」という選択肢をとってきた。

それは砂漠をキャラバンで移動する人々だったり、家畜を伴いながら時々に応じて住む場所を変える人々だったり、列車に無断で飛び乗っては職を求めて大陸を横断する人々だったり、高圧電流の流れる地下鉄の線路脇をさまよう人々だったり。彼らは、住まないことである種の(不)自由を手に入れていたのかもしれない。

近年は、住んではいても最小限の物で暮らす人々(ミニマリスト)や、ホステルやゲストハウスを泊まり歩く人々(アドレスホッパー)、ワゴン車を改造して車中泊する人々(バンライフ)も徐々に一般に知られるようになってきたように思う。

今回の令和時代では、トレーラーハウスに分類されるエアストリームに泊まった経験を紹介しつつ、「住む」ことについて考えてみたい。

トレーラーハウスの位置づけ

こちらは千葉県木更津市、三井アウトレットパーク木更津の隣にあるWILD BEACHである。広い敷地内にバーベキューやグランピングの宿泊サービスを提供している施設だ。

ここには三台のエアストリームが設置されている。二台はオリジナルの配置、一台は設備を撤去して部屋のように改造されていた。今回はオリジナルに近いと思われる車を選んだ。

増設したと思われるエアコンの室外機が外に直置きしてあることが分かる。設置されているトレーラーハウスには、それぞれ室外機近くの配線を通じて電源が接続されていた。

いくら移動できるトレーラーハウスとはいえ、電源は外に頼らざるを得ないのだが、実はこのことが日本においてトレーラーハウスがあまり流行らない理由である。日本におけるトレーラーハウスの設置条件を見てみたところ、下記の記述が見つかった。

建築基準法第2条第1号で規定する建築物に該当しない条件
随時かつ任意に移動できる状態で設置すること。
土地側のライフラインの接続方法が工具を使用しないで着脱できること。
適法に公道を移動できる自動車であること。
自動車等(適法に公道を移動できるトレーラーハウスを含む)が土地に定置して、土地側の電気・ガス・水道等と接続した時点で建築基準法の適用を受けます。
逆に土地側のライフラインと接続しない場合、自動車として扱われ、建築基準法の適用を受けません。
日本トレーラーハウス協会ウェブサイトより

この制約がある以上、ライフラインとの接続がないキャンピングカーや改造ワゴンが日本で主流になるのは仕方ないといえる。中にはトレーラーハウスに住んでいる方も居るようだが、それも建築確認申請の上で建築基準法に従って設置しているか、ライフラインの接続方法に工夫をしているはずだ。

ソーラーパネル等で発電し電気を賄うことでいわゆるオフグリッド化はできそうであるが、天候に左右されることもあり、大量に電力を消費する空調設備の作動を考えると難しいのかもしれない。

夢や憧れの詰まったトレーラーハウスだが、筆者のような一般市民にとっては敷居が高く、住居として使用するためにはこだわりと熱意が必要そうだ。

エアストリームの内外装

エアストリームにはいくつか種類があるが、写真はランドヨット(Land Yacht)タイプである。ちなみに、隣のエアストリームはインターナショナル(International)タイプであった。種類によって間取りや車長が異なっているという。

こうして見ると短いようだが、車長は6 m 70 cm(連結部除く)とのことで、そこそこの長さがある。

逆側から見たところ。屋根上には空調装置が載っている。写真左側が連結面、右側が非連結面である。左端部は扉があるような窓配置をしているが、ここに扉はない。

連結面側には大きな窓がついていた。AIRSTREAMの文字が誇らしい。

水準器がついているのがトレーラーハウスらしいところだ。見た目は車のようでも、家であるからして平地にしか設置できない。

連結面側室内の様子。写真右側には出入り口がある。連結面側には向かい合うソファと増設されたと思われるエアコンが見える。ソファの下とシンクの上下には収納があった。見切れているが、右側手前には冷蔵庫がある。

出入り口のドアは残念ながら鍵が壊れていた。施錠できない旨を尋ねると、「テントと同様だと思ってもらえれば……」とのこと。確かにそうかもしれない。

窓は走行を考えてか、留め具でロックするタイプであった。窓は外側へ段階的に開くようになっていた。

外から扉があるように見えた部分。上側の窓は開閉可能だが、下側の窓は固定窓である。

シンクは左右2つに分かれていた。使い分けをするようになっているのだろうか。水が出ないようになっていたので使いやすさについては不明である。

ここはおそらく電磁調理器だろうが、使用できないようになっていた。下側にはオーブンがある。

非連結面側室内の様子。左側には寝台、右側に机とワードローブ(クローゼット)がある。奥側の扉は塞がれていた。

机にはコンセントがあり、幅は70~80 cm程度ある。書き物をしたりパソコンを置くのにちょうど良さそうだ。

仕切りから少し覗いてみると、非連結側にはトイレと洗面台があった。

シャワールームもある。座れるようにもなっていた。

このように、エアストリームには限られたスペースに居住空間を最大限に詰め込むための工夫がされている。今回紹介しているエアストリーム・ランドヨットでも詰め込み感があるが、更に短い車長のシリーズもあるというから驚きだ。

YouTubeで検索してみると、海外YouTuberたち自慢のエアストリーム・ライフを覗くことができる。

寝台列車のようなトレーラーハウスの夜

電気を点けて早々に気づいたが、容量が足りないらしく、照明とエアコンと冷蔵庫を点けるとエアコンが止まるらしい。やむを得ず冷蔵庫と照明の一部は諦めることにした。

間接照明で照らされるエアストリーム車内もまた雰囲気がある。

外に向けて点けられた照明は、丸っこくてレトロ感に溢れている。

連結面側から見た車内。当たり前ではあるが、カーテンを開けていると外から中は丸見えである。

寝台には読書灯も設置されているので、寝台で過ごすのも特に不都合は感じなかった。ビンテージもののエアストリームゆえに古さはあったが、設備の構成自体に物足りなさは感じなかった。

今や日本では限られた存在となった寝台列車であるが、エアストリームは狭さからか寝台列車を思わせるレトロ感と雰囲気を持っていたように思う。端的に言えばロマンだ。

居住空間について考えるきっかけ

キャンプではテントに、ホテルでは部屋に宿泊することになるが、水回りや調理機器までが狭い空間に設備された特殊な空間に泊まる経験はあまりできるものではない。

エアストリームに泊まってみて、ついつい人間の生活に必要な設備とは何なんだろうと考えてしまった。寝台、照明、空調、トイレ、シャワー、机、冷蔵庫、キッチン、電磁調理器、オーブン、ワードローブ、ソファ、コンセント……これらを備えたエアストリームはざっくり6m x 2m幅で約12平米。これは4畳半水回りなしの約7平米よりは広いものの、ひとつの空間ですべて完結するのにはエアストリームくらいの広さが必要ではないだろうか。

冒頭に出てきたミニマリスト、アドレスホッパー、バンライフといった暮らし方により、今後一層住むという定義が今までになく多様なものへと変化していくと思われる。

衣食住のうち、衣はファストファッションとインターネット販売で変化が起きた。食はファストフードと冷凍食品・フリーズドライで変化が起きた。住の大きな変化は……すでに始まっているのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?