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「ホテル・ルワンダの男」 - ルワンダ・ジェノサイドにおける「言葉」の意味

「ホテル・ルワンダ」のモデルとなったポール・ルセサバギナさんの自伝。ちなみに、映画「ホテル・ルワンダ」の後に出版されている

1994年のルワンダでのジェノサイド当時、首都キガリの高級ホテルの支配人を勤めていたポール・ルセサバギナ氏が、ホテルに避難してきた1,200名以上の人をかくまって助けたという話。

ジェノサイドをどう乗り越えていくか、という話に加えて、フトゥとトゥチの歴史的背景・ラジオ局の扇動・国連の対応・ルワンダ人のメンタリティー等、記載されており、この一冊読むだけでもルワンダという国の大枠が把握できる。

この本では、「言葉」というものが一つ大きなテーマになっている。

ポール氏は、ジェノサイドの悲劇を引き起こした原因は言葉にあると述べている。それは、長年の「民族」対立を作り出した言説でもあり、ラジオが民衆を煽ったヘイトスピーチでもあり、アメリカが介入を避けるために使ったレトリックでもあるという。

一方で、1200名以上の命を救う武器になったのは、彼の言葉(と人と対峙し交渉する能力)でもあった。

彼の人間の心に対する洞察がすごい。

ただ相手の目をじっと見つめて、決然と、だが親しみのある声で、「どうして?」と尋ねることにしていた。いじめっこは私と言葉を交わさずにはいられなくなり、おかげで暴力を振るわれることはまずなかった。一度言葉を交わしてしまった相手と争うのは至難の業だということを私は学んだ。(「ホテル・ルワンダの男」p.66)
彼には穏和な面と厳しい面があり、そのどちらか一方が彼の行動すべてを支配しているわけではなかった。(‥中略‥)残忍さと恐ろしいまでの正常さは背中合わせにある。だから私はこういった相手に対し、黒か白かという見方をしないように努めた。(‥中略‥)私が相手の中に見出そうとしていたのは穏和な部分だった。ひとたびそこに手を触れることができれば、あとはこっちのものだった。(「ホテル・ルワンダの男」p.176)

「言葉」は人を救う道具にも、人の憎しみを生み出す道具にもなり得る。

人間は決して思っているほど理性的な生き物ではないー実際、"理由"などというものは後からこじつけて、内にひめた感情を表向きに取り繕うものに過ぎない。(「ホテル・ルワンダの男」p.178)

言葉は、感情を動かす。感情で、人は動かされる。

言葉は大きな力を持っている(1994年のポールにおいては、1200名以上の人命を救う力になった)。言葉をどう使うか、を考えさせられる一冊だった。

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ホテル・ミルコリン(2018年撮影)

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ホテル・ミルコリン(2018年撮影)

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