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三博士の贈り物

1月5日、午後6時半。仕事を終えて、地下鉄の駅へ向かっていた。辺りは暗く、しかも雨が降っているのに、家族連れが数組、私を追い越していく。なぜか、脚立を担いでいる人もいる。

マドリードで一番の大通り、カステジャーナ通りまでたどり着いて、脚立の使い道がわかった。
東方三博士のパレード(Cabalgata de Reyes)があるのだ。家族連れは見物客だった。パレードはまだ出発したばかりで、私がいるところまで来るにはしばらくかかるはずだったが、既に大勢の人が集まっていた。

カステジャーナ通りは封鎖されていた。その予定は知ってはいたのだが、パレードの先頭が見えてもいない時から完全に封鎖されているとは思わなかった。私が目指している地下鉄駅は、この大通りの向こうにある。警察官に、渡れないか尋ねたが、だめだという。「もっと道を下っていけば、もしかしたら」というので、それに従うことにした。一駅分歩けば、どこかで渡れそうなところが見つかるかも、と期待して歩き始めた。

しかし、そんな隙間はなかった。
冷たい雨は降り続く。私は傘を持っていなかったので、もう歩くのが嫌になってきた。道路の高架橋の下で雨宿りすることにした。しばらく立っていると、周りに人が増えてきた。先導の警察車両が通過し、人々が歓声を上げる。みんな、これからやってくるものを心待ちにして、ワクワクしている。なんだか、このままパレードを見ていくのもいいか、という気がしてきた。

やがて、音楽と共に、まずは協賛企業や関係団体の車がやってきた。派手にライトアップし、風船やプレゼントの箱で飾り付けられている。スペインでは、クリスマスシーズンの最後に、東方三博士が子供たちに贈り物を持ってくるのだ。
時折、パン!という音と共に紙吹雪が舞う。スペイン語圏ではお馴染みのクリスマスソング、ホセ・フェリシアーノの"Feliz Navidad"が流れ、みんな踊り出す。

テレビ局の車
ボリウッド風の音楽にのって現れたゾウ

その後、ハリボテのゾウや踊る白くま、惑星を模した大きな風船などが続いた。
そして、ついに、三博士がやってきた。

ガスパールの山車

3人は従者とともに、それぞれの山車に乗っている。大人も子供も「ガスパール!」「バルタザール!」と呼びかけ、思い切り手を振る。王様は、天蓋の下から優雅に会釈し、手を振り返す。
夢のように輝きながら、山車は通り過ぎていった。

さて、パレードはよかったが、身体が冷え切って震えながら帰宅した。
すると、夫が奥の部屋から出てきて、にっこり笑って迎えてくれた。
それだけで、本当にうれしい。結婚して12年になる私たちにとって、こういうことが当たり前ではない期間も長かったので、このうれしさはうわついたものではない。

この日の仕事の帰り際、同僚たちが、「君のところには三博士は贈り物を持ってこないの?」と私に言って、「来ないなあ。そういう習慣はないよ」と答えた。
でも、私はいつも贈り物をもらえている気がする。形のない、けれど、なににも代えられない贈り物。

タイトル画像は、1月6日の公現節に食べる菓子、ロスコン。数人以上で、切り分けて食べる。ロスコンの中から人形が出てきた人は幸運で、豆が出てきた人はロスコンの代金を払うことになる。

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