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おかえり

土曜日の夜、マドリードの空港で一人で待っていた。
夏の3ヶ月間、日本に一時帰国していた夫と子供たちが帰ってくる。
余裕を持って空港に到着したことに、私は安堵していた。もちろん、ちゃんと時間を考えて家を出た。ただ、以前、メキシコに住んでいた時に、パスポートを忘れて国内線に搭乗できずメキシコ・シティで家族を出迎えることができなかった経緯があるので、こういうシチュエーションではいつも少し緊張する。約束どおり迎えにきたということが、その頃と現在の自分の違いの証明のように感じる。3年前より、少しはマシになっている。

到着口から出てきて、私の元に駆け寄ってくる息子。背も伸びたし、身体つき全体にがっしりした。ビデオ通話で顔は見ていたけれど、そばに立つとあらためて実感する。
夫とは数日前まで一緒にメキシコを旅行していたので、久しぶりではなかったが、マドリードでまた会えたことがとてもうれしい。
中学生の娘はあまり感情をあらわにしなかった。鞄やスマホのケースなど、日本にいる間に持ち物がいろいろ更新されている。私が自分の着ていたのを譲ったパーカをはおっていて、ちょっとうれしかった。

翌日の夜、リビングのテーブルで読書をしていると、シャワーを終えた息子がハサミと医療用の肌色のテープを持ってきた。
1ヶ月ほど前、私の実家で、息子は蔵の下屋のガラス戸に衝突した。腕がざっくりと切れたため病院で縫合を受けた。傷跡がなるべく目立たなくなるよう、抜糸したあともテープを貼っている。
息子は慣れた手つきでテープの長さを測って切り取る。腕の傷跡から古いテープをはがし、新しいものを貼る。それを何箇所か繰り返す。一人で器用にこなすことに、私は内心で驚いた。
「ここのところが前は赤かったけど、これを貼るようになってからきれいになったよ」と教えてくれた。
最後に、剥がしたテープを指先でまとめる。「これが好きなんだよね」と、満足そうに言って、ゴミ箱に捨てる。一仕事終わったという感じ。
彼がベッドに行ってから、テーブルの上に置きっぱなしのテープとハサミを片づけた。まだ私にも役目はあるらしい。

娘と息子は、来週からこちらの学校にまた通い始める。新しい学年になって、クラスの顔ぶれや先生も変わり、緊張することもあると思う。昨年度のように、いろいろとありつつも上手く行くといいなと思う。
私たちのマドリード滞在は終わりが決まっていて、あと残すところ半年。その後の生活の準備もしなければならないけれど、今を楽しく過ごしたい。2人の見ている世界を私も少しでも追いかけたい。

タイトル画像は、マドリードの南端の丘から見た市街地。まだしばらくは、夕陽を楽しめる気温。

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