『悪のル・コルビュジェ』について

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▲「ル・コルビュジェ」
建築資料研究所「LE CORBUSIER PLANS-ユニテ・ダビタシオン-」P4

2019年10月6日に開催されたシンポジウム
「『悪』のル・コルビュジェ」とアジール・フロッタンをめぐって」に訪れました。ル・コルビュジェの当時の立場や状況など様々な裏話が聞けたシンポジウムだったと思います。

「悪」「ル・コルビュジェ」について簡単な感想を記事にしました。

■悪のル・コルビュジェ

建築家は「悪」を表に出せない職業です。というのも建築はクライアントを通して建築を生業とし建築自体を悪く言えないような立場にあります。

そのなかで悪とは、単なる「善」「悪」の二極対立というものではなく、何か突出した行為なのではないか。

20世紀は大量生産や大量消費社会が訪れ、だれもが一定のものを手に入れる事ができた均質化した時代であり、組織化された時代背景にありました。そんな中で均質化した時代から抜け出た者がコルビュジェなのかもしれません。

クライアントに自分を売り込み仕事をとることも、建築を商品化し売り込むことも、建築を通して社会的秩序を変える事も、「戦略的な悪」だということなのかと思いました。

ル・コルビュジェは「住宅は住むための機械」と記しています。これは、住宅は住むために機能することを前提とし、第一次世界大戦により激減した住宅に大量生産といった反芸術的住宅の提案を含んだ言葉だったのかなと思いました。

そこで提案されたものが「ドミノシステム」です。

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▲「ドミノシステム」安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」,P20-21

ドミノシステム(1914年)は、第一次世界大戦後(1914年〜1918年)、破壊された住宅に対応しようと提案したシステムです。その後も、当時の大衆車シトロエンに因んで設計されたシトロアン邸も大量生産をめざして本格的に設計された最初の「白い箱型」住宅となります。(注1)

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▲「シトロエン」安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」,P32

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▲「シトロアン邸スケッチ」安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」P32

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▲「シトロアン邸」安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」P33

戦後のル・コルビュジェが社会を変えるほどの行動はある種「悪」めいた戦略であり、そのような突出した才能が「悪」ではないかと思います。

■日本が片思いする建築家

日本には世界遺産となった「国立西洋美術館」があります。

そんな注目されたル・コルビュジェ作品ですが、「国立西洋美術館」はル・コルビュジェ作品の中でもあまり良い扱いを受けていない作品だそうです。

日本人はル・コルビュジェがとても好きですが、ル・コルビュジェは日本の建築に見向きもしない。「桂離宮」に訪れた際、「木造建築は貧弱で遅れている」というように酷評していたようです。(注2)

私たちは世界的に見てもかなり一方的にル・コルビュジェに片思いをしているのです。

■無限成長美術館-国立西洋美術館-

単なる美術館では作品が増えると空間的制限によって所蔵の対応ができなくなってしまう。その弱点を打破する構想としてパリの現代美術館で「無限成長美術館(1939年)」が初めて具体的に示されます。(注3)

来訪者はピロティを潜り、階段を登り空中に浮いた箱の中心部にたどり着きます。そこから外へぐるぐると展示を鑑賞しながら渦巻き状に巡る空間構成になっています。

このような建築形態であれば増え続ける所蔵品に対応できるということで様々な地域で計画していきましたが、実現の機会はなかなか得られませんでした。やっとの思いで1956年インドのアーメダバードに完成し、その次に建てられたものが上野の「国立西洋美術館(1959年)」になります。(注4)

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▲Googleearthより引用

美術館が成長するには建物周辺に広い敷地が必要になります。「国立西洋美術館」は敷地に制限があったため鑑賞部分が一周で完結していますが、ル・コルビュジェの構想が直接的に反映した作品ではないでしょうか。

この「国立西洋美術館」の構想にあたり、ル・コルビュジェは頼まれてもいない建物を勝手に二棟計画しています。かなり営業的なル・コルビュジェらしい行動に感じます。

さらに、ル・コルビュジェは「国立西洋美術館」に所蔵する松方コレクション以外に現代美術の展示も持ちかけたようです。その中にはル・コルビュジェの絵画作品が展示されているスケッチが入っていました。これまた、ル・コルビュジェらしい行動です。

■結論

建築は人間の労働が直接的に建物に置き換わる世界です。仕事の広げ方、売り込み方法、形態、彼の活動は建築という媒体(メディア)をとおし、思想や新しい社会性を具現化しています。一方、独創的な建築表現を行いたい社会を変えたい裏腹にお金儲けや名声にも結びついた時代が「白の時代」のはじまりのように感じます。

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▲「ユニテ・ダビタシオン」建築資料研究所「LE CORBUSIER PLANS-ユニテ・ダビタシオン-」P27 

近代社会に求める新たな建築・都市モデル、大衆住宅、300万人の現代都市(1922年)、パリのヴォアザン計画(1925年)、輝く都市(1930年)、ユニテ・ダビタシオン(1957年)(ユニテの構想は1944年〜)など、都市構想やプロトタイプの社会の問いかけは、『悪のル・コルビュジェ』による建築媒体による提示でした。しかし、最後の傑作である「ロンシャン教会(1955年)」は建築家として純粋に建築形態を追い求めた結果、やっとたどり着いた建築なのかもしれません。

ロンシャン (1)

▲建築資料研究所「LE CORBUSIER PLANS 祈りの空間」建築資料研究所,2011/12/17

最近、ル・コルビュジェの本を読んでいなかったので軽く書きましたが『悪のル・コルビュジェ』のシンポジウムとても面白かったです。

注釈
注1:安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」,新潮社,2004/9/25,P31-32
注2:倉方俊輔氏の解説
注3:越後島研一「ル・コルビュジェを見る-20世紀最高の建築家、創造の軌跡-」,中公新書,2007/8/25,P94
注4:越後島研一「ル・コルビュジェを見る-20世紀最高の建築家、創造の軌跡-」,中公新書,2007/8/25,P95

参考著書
・安藤忠男「ル・コルビュジェの勇気ある住宅」,新潮社,2004/9/25
・越後島研一「ル・コルビュジェを見る-20世紀最高の建築家、創造の軌跡-」,中公新書,2007/8/25
・富永譲「ル・コルビュジェ建築の詩-12の住宅の空間構成
」鹿島出版会,2003/7/11
・建築資料研究所「LE CORBUSIER PLANS-ユニテ・ダビタシオン-」建築資料研究所,2011/9/15
・ル・コルビュジェ「輝く都市」鹿島出版会,1968/12/5
・建築雑誌GA LAPAN,2019年159号
・建築資料研究所「LE CORBUSIER PLANS 祈りの空間」建築資料研究 所,2011/12/17



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