【音楽著作権の基本的事柄】アーティスト、アイドル、作詞家、作曲家等


0 はじめに

今の音楽業界は、CDの購入・レンタルからダウンロード配信・音楽サブスクが主流になりつつありますが、複雑な法律問題はなお残されています。

今回は、レコード(CD)を踏まえた音楽ビジネスを踏まえつつ、よくある問題を簡単に整理したいと思います。
(実際に音楽業界に携わっている方からすれば、実際はこうだよ、違うよ、等のご意見があると思います。お手柔らかに読んでいただければ、幸いです)

【参考】こちらは日本レコード協会の発表です。2019年(令和元年)はAKBを始めとして多くのミリオンヒット曲が生まれました。それから数年を経た昨年の2022年は、音楽ダウンロード・配信が主流となり、ミリオンヒットの曲数が大きく減少しています。

2022年のミリオンヒット曲
2019年のミリオンヒット曲

また、最近流行りのVtuber事務所は、音楽ビジネスにも力を入れています。ホロライブプロダクションは、先日、レコード会社(レーベル)の立ち上げを発表しました。

1 基本的な契約関係(プロダクション会社、音楽出版社、レコード会社の3社関係)

(1)法律上の前提知識①著作権

音楽の著作物とは、思想や感情を創作的に表現した物のうち、「音」を表現手段に用いたものを言います。(著作権法(以下略)2条1項1号)

音楽著作物に関しては、例えば、以下の使用行為は、著作権法上定められた場合(承諾がある場合を含む)を除いて違法です。

ア 複製(有形的に著作物を再製することを言います。21条)
 CDやUSB等のデータ保存、譜面の書き起こし、歌詞カードのコピー、オルゴールの作成等が含まれます。
イ 演奏、上演(公衆に直接見せ又は聞かせることが目的の上演・演奏。22条)
 ライブやコンサートだけでなく、カラオケ(スナック)での歌唱、音楽教室での模範演奏も演奏・上演に含まれます。

【参考】演奏・上演の主体はたびたび問題になります。
クラブキャッツアイ事件(最高裁昭和63年3月15日判決)は、カラオケスナック店における利用客の歌唱行為について、店舗運営者が演奏・上演の主体であると判断しました。
また、音楽教室事件(最高裁令和4年10月24日判決)は、音楽教室での(先生の演奏は演奏権を侵害するが)生徒の演奏が、これには含まれないと判断をしました。

ウ 上映(映写幕その他の者に映写すること。22条の2)
 映画に伴って固定されている音楽を再生することが、これに含まれます。
エ 譲渡、貸与(原作品又は複製物を譲渡・貸与することにより、広州に提供をすること。26条の2,3)
 原盤はもちろん、CDやレコード等の譲渡・貸与が含まれます。
 ※なお、譲渡権は、第1譲渡で消尽する(※権利を主張できない)のが原則です(26条の2第2項)
オ 公衆送信、公衆伝達(公衆による直接受信を目的とした無線通信・有線電気通信、受信装置を用いた公の伝達行為。23条1項2項)
 テレビ(放送)やケーブルテレビ(有線)、インターネット上のアップロード(自動公衆送信)が、これに含まれます。
 
【参考】先日映画化され話題になったWinny事件は、ファイル共有ソフトを用いた自動公衆送信権侵害に関し、ソフト開発者の幇助犯の成否が問題となった事例です。

 なお、公衆伝達は、TV放送をスクリーン上に映写したり、飲食店内の家庭用テレビ等で流す等の行為が挙げられます。ただ、その多くは、非営利の場合として、例外規定により適法とされます(38条3項)。

(2)法律上の前提知識②著作隣接権

情報伝達技術が発展する昨今では、楽曲の情報を伝達する者(実演家やレコード製作者、放送事業者等)に対しても、法律上の保護が認められるようになりました。著作隣接権等と呼ばれ、原盤ビジネスの根幹になります。
①実演家
 例えば、その楽曲を実際に演奏したり歌ったりした者は、実演家として保護されます。実演家は、録音権・録画権や放送・有線放送権、送信可能化権、譲渡権、商業用レコードの貸与権や二次使用料請求権等を専有します。
②レコード製作者
 また、上記の著作物を、最初にレコードやCDに固定した者はレコード製作者と呼ばれます。レコード製作者も、複製権、送信可能化権、商業用レコードの二次使用料請求権、譲渡権、貸与権等を専有します。

(3)法律上の前提知識③人格権

著作者は、その著作物につき、著作者人格権を有します。これは契約によっても譲渡されません。氏名を表示するか、著作物の同一性の保持、公表の有無等について、本人の意向が尊重されます。 
実演家にも人格権は認められます。ただし、その楽曲は既に公表をされていることから、公表権は認められません。また、著作物の同一性の判断も、認められる範囲は著作者に比べて狭くなります。
他方、レコード製作者や放送事業者等は、人格権なるものは認められません。彼らは、情報伝達という役割を踏まえて著作権法上の保護が与えられているにすぎず、創作者を念頭に置いた人格権を認める必要がないためです。

(4)関係当事者やその契約関係

 音楽ビジネスの伝統的な契約関係は以下の通りです。

https://note.com/k11080/n/ne0a8835738da

① 著作権契約
多くのアーティスト(ここでは作詞家、作曲家)は、自身の有する著作権を音楽出版社に譲渡し、同出版社を介してJASRACに管理委託(信託譲渡)してます。自身の楽曲をプロモーションしてもらうとともに、著作権使用料の管理・回収の手間を省くためです。正確には、著作権を譲渡したことの対価をJASRAC、音楽出版社から分配してもらいます。

例えば、CD複製の場合の著作権使用料は、諸々の例外や管理手数料控除はありますが、「税抜定価×6パーセント×複製枚数」が原則です。作詞家と作曲家とが分かれる場合は、これを按分します。

https://www.jasrac.or.jp/profile/covenant/pdf/royalty/royalty.pdf


② 専属実演家契約
アーティスト(ここではアーティストが念頭)は、レコード会社に対して実演家隣接権を譲渡し、レコード会社がCDをリリースします。レコード会社は、自らレコード製作者として著作隣接権を有しますが、実演家から実演家隣接権を譲り受けることで、その原盤の経済的価値を高め収益につなげることが期待されます。
すなわち、アーティストは、レコード会社に対して、レコーディングの際の歌唱・演奏をすること、その実演家隣接権を譲渡すること、許可なく他のレコード会社で歌唱・演奏をしないこと、パッケージ、宣伝広告のために自身の肖像権の利用を許諾すること等を約束することで、原盤の希少性や価値は大きく高まります。その代わり、アーティストは、これらの譲渡対価(アーティスト印税)を取得します。

アーティスト印税の一般的な算定方法は、
(税抜小売価格ー容器代)×印税率×(出荷枚数×90%)
です。
容器代が控除されるのは、豪華なブックレットや装丁を用意することがあるためですが、一律に税抜小売価格の10%とされるのが標準です。
また、出荷枚数に90%を乗じるのは、実際の販売枚数ではなく、レコードショップからの返品があり得ることを想定しているためです。

契約内容は個々のレコード会社によって異なりますが、こちらのnoteではアーティスト印税は1%だったようです。本当に契約内容次第ということがよく分かります。


③プロダクション契約
ボイストレーニングダンスレッスンの他、宣伝・PRをしてもらえる、芸能事務所のようなものです。
最近はSNSを利用した自己プロデュースが目立ちますが、公表はしないけど事務所所属、という方もいらっしゃるようです。

https://www.jame.or.jp/about/production.php


(5)総括
以上をまとめると、一枚のCDの売上にも多くの方の権利が関わっており、各当事者に売上げが分配されているんだということがよくわかります。
アーティストにとって一番「おいしい」のは、作詞、作曲、歌唱をいずれも担い、著作権使用料やアーティスト印税を丸ごともらう方法です。
他方、それは個人にのしかかるプレッシャーが計り知れず、負担や手間も莫大です。

【参考】ゴールデンボンバーさんは、4人組ですが、印税は鬼龍院翔さんが取得、ライブ・グッズ収入は4人で分配としているようで、お互いに不満が出ないような仕組みを作っているようです。その他、楽曲使用に関する独自のガイドラインも定めています。

2 最近の音楽ダウンロード事情

最近は音楽ダウンロードやサブスクが主流になっています。

主な算定方法は、
配信価格×印税率×ダウンロード数×80%
とされているようです。ここの80%は、CD等でも論じられたような経費の控除になります。
以下のグラフは、安藤和宏著「よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編」の抜粋です。音楽配信は、CDに比べてレコード会社の経費が格段に控除されています。他方、アーティスト等の印税率はそれを反映して上がっておらず、大きな利益を受けているのはレコード会社だけ、というのが実態です。音楽配信・ダウンロードはCDに比べ価格も安いですから、その分、アーティスト等に入る収入も下がります。

本当にそのアーティストを応援したい方は、CDを買った方が良いということですね。

https://webtan.impress.co.jp/e/2018/03/15/28393

3 音楽のパクリの判断基準

(1)翻案権侵害の判断

音楽業界ではパクリかどうかのトラブルがしばしば問題になりますが、法律上は翻案といえるかが論点です(完全な丸パクリは、もはや新たな創作はなく複製といえるかが論点です)
既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる別の著作物を創作する行為を言います(以下noteもご参照)

(2)記念樹事件

有名なのは、記念樹事件です。知財高裁は、両者のメロディーの共通点を重視して、翻案権の侵害を認めました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/656/011656_option1.pdf

(3)パシッときめたいそう事件

これはしまじろうのテレビ番組の使用楽曲のコンペに関し、不採用となった原告が、「採用された曲は自分の曲の盗作だ」等として著作権侵害を主張した事案です。コンペ条件としても、沖縄民謡やレゲエ、ハワイアンの要素をミックスすること、歌詞が先に決まっていてそれに曲を乗せること、などの要望が案内されておりその点でも類似性は自ずとある曲でした。テンポの同一性も認められましたが、メロディーの大部分が異なるとして、複製又は翻案にあたるとはいえないと判断しました。
こちらは、しまじろうチャンネルの公式があったのでURLを貼ります

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/934/085934_option1.pdf

https://www.translan.com/jucc/precedent-2016-05-19.html

4 替え歌トラブル

(1)パーマ大佐

著作者や実演家は、人格権を有しています。
JASRACは著作権使用許諾の窓口になりますが、翻案(カバー)や人格権を害するような替え歌についての許諾まではできません。
以下は、芸人のパーマ大佐が、著作者の許諾を得ないまま(※むしろ拒否されたにもかかわらず)替え歌をCDで発売しようとして問題になった事案です。

(2)戦場のメリークリスマス

このほかにも、戦場のメリークリスマスを企業CMで用いたことについて、著作者人格権が侵害されたと裁判になった案件もあります(東京地裁平成14年11月21日判決※判例集未掲載の模様)
注意しておくべきは、企業とタイアップするし楽曲の宣伝にもなるから問題にはならないだろうと安易に考えるべきではなく、それが作品に企業の強いイメージを与えてしまうことになり著作者等の名誉を害する可能性があるということです。


他に気になる問題等あればお問い合わせください。


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