初めて交通事故に遭ったら②


前回は、交通事故に遭った直後に何をすれば良いのかというトピックを主に述べました。

https://note.com/ntamoto/n/n1b019ad84225

本投稿では、揃えた方が良い資料と、よく直面する問題点についての解説をしたいと思います。


第2 揃えた方が良い書類

 以下の資料は、あらゆる事故で全てが必要というわけではありませんし、保険会社やディーラーさんが揃えてくれる場合もありますが、事故対応にあたり必要になっていく資料を整理しておきます。
1 自動車保険の保険証券(弁護士特約があるか車両保険があるか、人身傷害保険があるか、火災保険や別の車の弁護士特約が適用されないか等)
2 交通事故証明書、刑事記録
3 車検証
4 ドライブレコーダー
4の2 防犯カメラの映像 
5 事故現場や双方車両の写真
6 お車の売買契約書、リース契約書
7 同種・同等の車を買った際の見積書(買い替え諸費用の検討のため)
8 修理見積書
9 事故に関して支払ったものの領収書
10 (運送会社などで、事故が原因で仕事が出来なかったト主張をする場合は休車損害の資料として、決算書、経費を証する資料、車両台数や遊休車両がないことを証する資料)
11 携行品損害の資料(いつ、どこで、いくらで買ったかが分かる資料、購入店舗のネット記事、ネットショッピングでの購入履歴など)
12 (評価損主張にあたり)事故減価額証明書

第3 補足・ドライブレコーダー、防犯カメラについて

 上述の必要な書類に関し、特に迅速な対応が求められるのが、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像です。 
 ドラレコはSDカードで保存されていることが多いですが、上書きされて消されることが多いです。事故直後はSDカードを抜いて、しっかり自宅のパソコンで保存する等しておきましょう。
 事故現場がコンビニ駐車場だったりすると、防犯カメラの映像に事故の瞬間が撮影されていることが多いです。ただ、こちらも店舗のカメラの映像の保存期間がありますので、速やかな証拠化が必要とされます。よく、「警察の人に映像を渡したから警察に言えば出してくれる」というお申し出がありますが、残念ながら、警察はそこまでしてくれること(義務)はありません。通常は、弁護士を依頼して弁護士会を通じてデータの提供をお願いすることが多いです。ただそれでも、事故からしばらく経ってしまうと、そもそもデータがないので提供しようがないということもありますので、速やかな対応が求められます。

第4 よく直面する問題

 以下では、よく直面する問題点を簡単にご説明します。

1 全損か分損か

 修理費用が車両価格を超える場合意は、事故前の車両価格の限度でしか車両損害の賠償請求をすることができないのが原則です。
 つまり修理をしたくても修理代満額がもらえるとは限らないし、買い換えをすれば追加で自己負担をして新しい車を買う必要に迫られることがあるということです。
 思い入れのある大切にしていた車だからしっかり直したい、歴史ある名車で貴重な車であるから車両価格は当然高いし修理代満額が賠償されるべきだ、となどのご意見を、本当によくお聞きします。私自身、「トヨタのお膝元」である愛知県内で仕事をしており、みなさんのお気持ちはよく分かってますし、共感する部分も多々あります。
 ただ、ここは、裁判実務と、みなさんの気持ちとが大きく離れている場面の一つであり、本当に、色んな悩みを持ちながら依頼者のために誠心誠意仕事をしています。
 
 なお、ここにいう車両価格にはいわゆる買替・再取得費用として発生するを考慮しなければなりませんし、まだ新しい車が内板骨格に及ぶ程の重大な損傷を受けた場合には評価損として請求し得る金額も考慮しなければなりません。
 また、修理をすることが技術的に不可能という場合は、金額云々にかかわらず車両時価額をもって賠償請求をすることになります(先ほどの全損は経済的全損といいますが、これは物理的全損と言います)

2 慰謝料

 弁護士を入れるメリットの一つして、傷害慰謝料が高くなる可能性があります。
 これは、何故か聞かれても、そういう仕組みになってるから、としか言いようがありません。
 ただ、保険会社は、一般に、自賠責保険の支払基準(日額4300円。これに通院日数×2か、通院期間の少ない方を乗じて算定します)を元に慰謝料を算定しますが、弁護士は判決で出される見込み(よく言う「青本」「赤本」が多いです)を元に算定しています。

 そして保険会社は、弁護士が加入する前までは自賠責基準を元に算定することが多いのに、弁護士が介入すれば、現に訴訟提起をされる可能性が高くなっているためか、弁護士の算定する基準を尊重することが多いです。
 (※実際には最初から高めの金額で賠償案を提案してくれる良心的な保険会社もありますが、全ての保険会社がそのような対応をしてくれるとは限りません。また、窓口となる担当者の方の対応や、その部署の上席の裁量に委ねられていることもありますので、これは本当にケースバイケースですが、弁護士に依頼をすることで慰謝料が加算される可能性は多いので、是非とも相談されることをオススメします。) 

3 代車について(修理、買替えは速やかに対応を)

 相手方保険会社から代車を提供される際、車を修理するか買い替えるかというのは速やかに決断しなければなりません。代車はタダで借りられるわけではないからです。

 「突然の事故に遭って、そんな決断を迫られるのは甚だ理不尽だ。」お気持ち、ものすごく分かります。
 しかしながら、裁判実務上、通常の修理に必要とされる期間は、よほどの大きな損傷ではない限り、1~2週間程度、買い換えであっても1ヶ月程度とされています。それにならい、代車の利用期間も、それと同程度しか認めない保険会社は現に存在しています。修理をするのであれば速やかに修理の着工を指示したり、買い替えをするのであれば、直ぐに納車がされる車を探したり、ご自身の保険会社との間で代車特約が利用できないか、ディーラーさんとの間で無償で代車を利用できないか、などなどを検討したりしなければなりません。
 
 「こちらは被害者なのだから、相手方の保険会社とはとことん戦って欲しい」、そのお気持ちは本当にわかりますし、私もそのように思うことはよくあります。
 しかし、代車のお金というのは、慰謝料のようにお手元に入るお金とは違って、代車の提供業者に払われます。代車期間を頑張ったところで、ご自身の直接の利益にはならないのです。これはどの保険会社も明示的に言うことはないでしょうが、この案件では○○万円の支払で終わらせたいというような予算というのは何かしら、あると思います。代車の利用期間が原因で、その予算が足りなくなってしまえば、慰謝料や休業損害などのご自身の手元に入る部分の提示金額が下がってしまい、結果的にご自身のメリッとにはならないことはよくあります。交通事故での示談交渉は、まさに交渉毎ですから、訴訟まで至らない中で、最大限、ご自身に有利な金額を勝ち取っていく必要があります。それが、代車の部分で大きな揉め事となり、お手元に入るお金が減ってしまうことだけは、大切な依頼者のために避けてあげたいです。
 色々お伝えしましたが、代車は、本当に難しい問題をはらんでますので(触れませんでしたが、代車の種類・日額やそもそもの代車利用の必要性なんかも問題になることはあります)、速やかに修理か買い替えかを決断し、必要があれば保険会社さんや弁護士さんにご相談下さい。

4 治療をいつ止めるか(症状固定日)

 相手方保険会社に事故対応をしてもらう場合、相手方保険会社が治療費を払うことで、病院に通院をすることがあります(いわゆる一括対応というものです)
 しばらく経つと、保険会社から、そろそろ治ってきたんじゃないか、必要もなく通院してるんじゃないか、医者からなんと言われているか教えて欲しい、などといった確認の連絡が来るでしょう。一括対応の打切りと言われるものです。
 骨折(程度はありますが)や靱帯損傷といった、誰が見ても分かる大きな傷であれば治療期間は長引きますが、そこまでは至らない挫傷・打撲程度のむち打ち損傷は、自覚症状にとどまります。医学的にも、3ヶ月程度もあれば、治療による効果効能は、これ以上は期待できず、症状固定に至り治療の必要性はないと言われることが多いです。
  
 被害者の立場からすれば、今も本当に痛いのに何故治療を止めなければならないんだと、困惑と怒りを抱えることでしょう。
 現実と裁判実務には大きな乖離があると思われる部分はありますが、いつをもって治療を終了させるか、一括対応打ち切り後は健康保険を利用して3割負担で通院を続けるか(その後は自賠責に被害者請求)、現に生じている痛みやしびれは後遺障害として認定できないか申請をするか、など、色々と考えることがあると思います。ご自身の保険会社の担当者さんに相談しても分からなかったりすることがあれば、弁護士さんにも相談をしてみて下さい。

5 無保険の相手方

 ここまでの文章は、相手方が任意保険に加入している場合を想定して作成ました。
 しかしながら、現実に任意保険に加入しているのは全体の約8~9割程度です(2021年3月末時点だと88.4% 損害保険料算出機構「自動車保険の概況」参照)

https://www.giroj.or.jp/publication/outline_j/j_2021.pdf#view=fitV

任意保険が間に入ってくれないと、相手方との交渉は、相手方本人と直接似進めなければなりません。語弊を恐れずに言えば、任意保険に加入していない相手方は往々にして、お金がないから任意保険に加入していない、更新するのを忘れていたなどと理由を述べることが多いです。そのような相手方と交渉する中で、十分な支払がなされるか、あるいは誠実に対応を速やかにしてもらえるかというのは、容易に「問題ないです」「大丈夫です」と言うことは出来ません。

更に言えば、自賠責保険は、車の修理代などの物損については対象外ですし、お怪我の賠償として払われる金額は最低限度のもので(前述の通り慰謝料は自賠責基準で算定されるので、判決で認められる金額とは差額が生じることが多いです)、傷害部分の上限は120万円までとされています。

相手方の車が任意保険に加入していない場合は、本当に厳しく長期にわたる戦いを強いられることが多いですが、弁護士特約があるならば、弁護士にご依頼していただいて、積極的に連絡を試みたり、財産調査を進めたりして回収を試みることが大事です。是非とも検討をしてみて下さい。

(※ただ、誠心誠意やらせて頂いても、どうしても回収ができないというケースが有るのは事実です。個人的には、そのような事故に巻き込まれるかも知れないからこそ、ご自身の加入している保険はしっかりとした内容にして、必要に応じて、ご自身の車両保険を利用したり人身傷害保険を利用したりすることをご検討下さい。保険は、何かあったときに利用するものです。後生大事にもっておくものではありません。)

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