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「EUとAppleとサイドローディング」

EUがビッグテック企業のひとつAppleに法律で「サイドローディング」対応を要求しています。対応しなければ5兆円の罰金。

サイドローディングってなんだ。



(1)サイドローディング

本日正式に、Appleがついにサイドローディングを受け入れ、許可すると発表したことがアメリカ、EU圏では報道されています。



サイドローディングという言葉をご存知ですか?
スマホやアプリ業界の人でないと耳にしない言葉なのかなと思います。


カチッとした言葉で説明すると
アプリケーションソフトなどを、正規のアプリケーションストアではなく、別の手段で端末にインストールすること。」です。


iPhoneでいうと、当たり前のようにAppStoreという公式のアプリストアがプリインストールされていてアプリもそこからインストール、ダウンロードするのが当たり前になっていますよね。

これをストアに限らずですが、iPhoneを持っている人が、他のストアでアプリを購入しても、ウェブ上で購入出来ても、Appleじゃなくてもいいじゃん?ということですね。ビジネスの公平性から考えても。



(2)iOSと異なるスタンスAndroid OS


iPhoneが登場して17年、Appleは許可、許容してきませんでした。

競合にあたるAndroid(Google)でも、日本だと約82%の人がプリインストールされている「Google Play」を使っています。

Appleと違うのは、Android OSのタブレット上でAmazonのアプリストアが一部提供されていて、アプリ購入も可能です。
これはAndroidを提供しているGoogleも許可していて公式ストアです。

iPhoneは公式アプリストアはこれまでAppStoreのみで100%でした。
(世界中探せば一部のJailBreak(脱獄スマホ)でApple否認可アプリはある)


そのAppleが、ついにサイドローディング「他のストアや方法でアプリを提供すること」「ユーザーがインストールすること」を許可した。ということがニュースになっています。

今回、全世界でAppleがサイドローディングを認めたわけではなく、EU圏だけです。EU加盟国27カ国が対象です。



(3)次は日本「サイドローディング」


なぜEUだけ?と感じつつも、日本のイチユーザーとしては、米国Appleと遠く離れたヨーロッパの国々のことと軽視しがちです。


今回はEUとAppleの本日に至るまでの大まかな流れを把握しておくこと、今後サイドローディングによって、アプリ事業者や消費者にどういった影響が出るのかをしっかり見ておきたいですね。どんな事業者が代替アプリストア事業にチャレンジするのかも気になります。

なぜならば、
EUと同様の要求を「日本政府がAppleとGoogleに行っているから」です。日本政府も「サイドローディング」を義務付け、かつ代替ストアもiPhoneに公平にプリインストールしなければiPhoneを販売してはいけないとAppleと交渉しています。2024年の国会で法案も提出される見込みです。

これまでのEU、Apple、ビックテック企業の対応を見ておくことで、日本政府が進めようとしていることに対する理解も深まり、日本に置き換えると課題も後々見えてくる可能性もあります。



(4)本件の背景


EUの企業ではないビックテック企業が独占的にビジネスを拡大させEU域内の企業に不利益をもたらしているという考え方です。公平性に欠くような必要以上の顧客の囲い込みや独占的地位に法律もフルに活用し戦っています。

2022年にEUで成立した「デジタル市場法(DMA)」の下、独占的なデジタルプラットフォーム/サービスを運営する(他社の参入を防いでいるというような意味での)企業を「ゲートキーパー」呼称し、対象企業6社を発表しています。

ビックテック企業=ゲートキーパー



(5)ゲートキーパーと指定されたビックテック6社と対象サービス

米Alphabet/米Amazon/米Apple/中国ByteDance/米Meta/米Microsoft
   ↓

ゲートキーパー6社とEU圏で対応を迫られている6社のサービス一覧


おなじみの企業とプロダクト名が並んでいますよね。


「ゲートキーパー各社」が義務を遵守できていないと欧州委員会が判断した場合、DMAはその企業に対し「全世界売上高の最大10%までの罰金を科す」と法で定めています。さらに違反が繰り返される場合は「上限が20%に引き上げられ」企業買収(M&A)が禁じられるなど他の罰則が科される場合もあります。

※Apple社で罰金10%計算してみた:2023年9月通期売上「3832億ドル≒56兆7800億円」の10%、約5兆7000億円が想定罰金



ゲートキーパー6社のビジネス基盤である「プラットフォームサービス/プロダクト」に対して、詳細に渡りEUは厳しい義務を課していて、対応期限が2024年3月に迫っています。

(対象プラットフォーム/サービス)は以下の通り

①SNS:TikTok、Facebook、Instagram、LinkedIn
②メッセージングサービス:WhatsApp、メッセンジャー
③仲介サービス:Googleマップ、Google Playストア、Googleショッピング、Amazonマーケット・プレイス、Apple App Store、Metaのマーケットプレイス
④ビデオ共有:YouTube
⑤広告サービス:Google、Amazon、Meta
⑥Webブラウザ:Chrome、Safari
⑦検索サービス:Google 検索
⑧OS:Android、iOS、Windows


詳細については、以下EUのDMA専用サイトに整理して公開されています。
 ↓


(6)「サイドローディング」が日本で開始したら


※前提:Apple以外の事業者で「代替アプリストア」を提供したいという事業者が存在している

  1. AppStore以外の代替ストアも一緒にプリインした状態で、AppleがiPhoneやiPadを発売することを義務付ける

  2. 代替ストアは、Apple以外の決済システムを利用可能

  3. セキュリティ面の安全性を消費者に担保するため、アプリの事前審査は代替ストア分もAppleが担当

  4. 日本国内だと「通信キャリア」「Microsoft」あたりが代替ストア事業に参入すると想定

  5. 代替ストアのアプリはAppStoreの手数料より安く設定することから消費者はアプリを安く購入出来る

EUと同じアクションを日本が選択すれば、EU域内のアプリ事業者とユーザーに起きる問題/課題は、日本でもカルチャライズして発生する可能性がある。


(7)EUで想定されている課題

「EUとそれ以外」でAppStoreのプラットフォームが分割された場合、グローバルでアプリ提供している事業者は、同一アプリを提供する場合でも、2種各々のストアプラットフォームへの登録周辺作業が必要となり工数増となる

  1. Appleの「ファミリー共有」機能が使えないため、アプリを共有利用できる機能は提供できなくなる

  2. 世界最高水準のAppleのセキュリティレベルにユーザーは守られてきたが、Apple以外の脆弱なストアとアプリが入り込めば、マルウェア感染と感染後の被害拡大リスクにユーザーを晒すことになりかねない

  3. ユーザー負荷が発生する相応分の価格割引をアプリ事業者に求められる場合、リスクと増収がバランスせず撤退が想定される



(8)EUがAppStore事業に対してその他義務として求めていること


①iOSアプリをApp Store以外で配布することを許可すること(ウェブ上での販売などを指していると思われます)

②アプリ内購入時にサードパーティの支払いプラットフォームの使用を許可すること


EUは、2022年デジタル市場法(DMA)の法整備し、非常に強い要求と緻密なオペレーションを準備してAppleに迫っているわけですが、
実は、このEUの措置はAppleに対してだけではなくAlphabet社やMeta社などビックテック計6社に対しても同様に、そして同時に、EU域内でビジネス/顧客をもうこれ以上自社だけに囲い込むことは許さない。という強い姿勢でした。


それぐらいのEUの確固たる強い姿勢を感じ取っていましたが、今日Appleが「サイドローディング許可の条件として提示したルール」は強気な内容で、EUがこれをあっさり受け止め、受け入れたのかと少し驚きました。GDPRを世界に先駆けて取り組んできたEUですし、セキュリティ課題をそれだけ重要視しているということでしょうか。


(9)本日のApple発表内容


Appleは1月25日(現地時間)、EUが3月6日に発効させるデジタル市場法(DMA)を順守するために、EU圏内でiOSアプリをリリースする開発者に対するルールを変更する計画を発表しました。

この変更で、EU圏内では公式アプリストアApp Store以外でのiOSアプリ提供(いわゆるサイドローディング)を認める。この変更は、3月配信のiOS 17.4で適用される予定です。

EU圏内のiOS 17.4搭載端末ユーザーは、Appleが「alternative app marketplaces(代替アプリストア)」と呼ぶApp Store以外の代替ストア アプリをインストールし、ここからiOSアプリをダウンロードできるようになる。


サイドローディングを許可したAppleが提示した条件がいくつもあります。


①代替ストアで販売するアプリ事業者は、AppStoreと同様にAppleの承認プロセスを通らなければならない。

ユーザーが代替ストアアプリをダウンロードしようとすると、警告画面が表示される。それでもユーザーが代替ストアをインストールすると、App Storeにはないアプリでもダウンロードできるようになる。ユーザーは、代替ストアを端末のデフォルトアプリストアに設定することもできる。


②マーケットプレイスで提供するアプリでも「Notarization」(公証)は必要とする。


アプリは必ずAppleによる「Notarization」(日本では「公証」)を受ける必要がある(AppleはmacOSアプリで公証を義務付けている)。公証は、プラットフォームの整合性とユーザーの保護(マルウェアなどの検出など)に重点が置かれていて、自動チェックと人間によるレビューが組み合わされています。



③開発者がマーケットプレイスを選択する場合のビジネス条件。


開発者が有料アプリ提供場所として代替ストアを選択する場合、売上の(30%ではなく)17%をAppleに支払う
Appleの中小企業向け割引率の対象となるアプリの場合は17%ではなく10%に下がる。
Appleの支払い処理システムを使う場合は、別途3%の手数料もかかる。


④人気アプリに新たな「Core Technology Fee」が発生する。


EU圏内で年間100万回以上インストールされる人気アプリについては、App Storeからか代替ストアからかに関わらず、年間インストールごとに0.50ユーロ(約80円)を徴収する「Core Technology Fee」を設けるとのこと。

Appleは、開発者の99%以上が新しい条件により「Appleに支払うべき料金を減額または維持」するとしています。


(10)日本でサイドローディングは実現するのか


①Apple/Googleを規制する法案
2024年に国会に提出される予定の法案は、アプリストアと決済、検索、ブラウザ、OSの4つの分野に焦点が当てられています。AppleやGoogleなどのプラットフォーム事業者が、ユーザーを独自のエコシステムの中に囲い込むことを防ぐ狙いです。

違反者には公正取引委員会によって罰金が科されることとなります。現行の独禁法に従えば、罰金額は問題のある行為で得た収益の6%程度となります。


②新しいアプリストアの誕生
サイドローディングによって競合のアプリストアを利用しやすい環境が整ったとしても、現在のGoogle PlayやApp Storeと同じ規模でセキュリティーを担保したり、開発者を支援したりできる代替ストアがいくつも出てくるとは考えにくい。

Apple/Googleと同様にあらゆるカテゴリのアプリを提供出来る可能性と資本を兼ね備えている企業であれば
・国内大手通信キャリア
・Microsoft、Amazon、Bytedanceのようなグローバルビックテック企業

Apple/Googleと一線を画した戦略で特定ドメインに特化した「バーティカルアプリストア」を提供する事業者にもチャンスがあるかも知れない。
・キッズ向けのアプリ/コンテンツに特化
・高齢者向けのアプリ/コンテンツに特化


万が一、通信キャリアやMicrosoft、楽天が代替アプリストア事業を開始した場合、我々にはどんなビジネスチャンスがあるのか、どんな事業を作ることが出来るのか。そのアプリストアの成長にどんな貢献が出来るのか。

そんなことを考えてみたり、必要なことを調べてみて仲間と議論を交わすことは非常に重要だ。

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