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米国経済アップデート

大手4行決算でも信用収縮の気配濃厚

米銀大手4行の決算に見る融資の絞り込み

 4月中旬に米銀大手4行の決算が出そろったが、その中身を見てみると、融資の伸び悩み(絞り込み)が明らかになっている。企業及び個人への与信について、慎重な姿勢になっていることが伺える。
 米銀大手4行とは、JPモルガンチェース、バンクオブアメリカ、シティグループ、ウェルズファーゴの4行を指す。いずれも、巨大銀行であり、Global Systematically Important Banks (G-SIBs)と呼ばれる、世界の主要30行にも名を連ねている。いわゆるToo Big to Failの対象にもなる金融システムの要を形成するような金融機関と位置付けられる。
 これら4行の2023年1-3月期決算において、合計融資残高が、2年振りに減少している。4行合算では3兆7752億ドルということで、2022年末(前四半期末)から191億ドル(0.5%)減り、個別行でもほぼ横ばいだったバンクオブアメリカを除く3行で減っている。4行合計で商業向け、消費者向けがそれぞれ1%強減った。
 4行合計の融資残高が減るのは、2021年3月末以来2年振りのことである。2年前というのは、2020年春以降のコロナのパンデミックによって、経済活動が停滞していた時にあたる。FRBがゼロ金利政策のようなかなり極端な緩和策を採っていたのにも関わらず、4四半期(1年間)にわたって減少が続いていた。その後は、景気回復からむしろ過熱気味になる過程で、融資残高も増加傾向をたどってきた。それが、久し振りに減少に転じたことの意味は、それなりに大きいと考えられる。


金融不安が背景にある

 その背景として、Silicon Valley BankとSignature Bankの破綻に端を発する世界的な金融不安の下、これらの主要4行も融資判断を慎重にしたことがあったのは、想像に難くない。さらに、個人、企業ともに、融資が減少しているということも注目される。
 個人に関して言えば、住宅ローン金利が6%台に達している現在、住宅取得のハードルは相当上がっている。昨年から金融引き締めが始まったが、それ以前の住宅ローン金利は、3%そこそこの水準であったため、借主の負担は、大幅に増大している。住宅取得時には、同時に耐久消費財などを中心に、大きな買い物をするのが通例となっているが、その購入にはローンを使うことも多い。住宅取得減に伴い、個人のローンへのニーズは、抑制されているものと推定される。
 企業側の資金ニーズについては、もちろん常に存在はしているが、やはり、先行きの不透明感が強いため、積極的な投資や先行的な費用支出を抑制し、借入を増大させないように努めているものと推察される。景気に対する確信が持てれば、先行投資を拡大させることもあり得るが、現在のアメリカ経済並びに世界経済は、視界不良に陥っている。

金融引き締め策の経済に対する影響度

 アメリカ経済だが、金融引き締めを強めているにも関わらず、インフレ圧力が目に見えて減退しない状況が続いている。とりわけ、サービス業においては、労働市場の逼迫が続き、賃金上昇がなかなかペースダウンしない。サービス価格は、基本的に高い上昇率を維持しており、価格転嫁は進んでいるが、一旦需要が減退すれば、急激な景況感の悪化も想定される。まだ、その気配は見えていないが、警戒をすべき状況ではある。
 金融引き締めの効果は、決してないわけではないが、目に見えて影響が顕在化するのは、時間を要するものと考えられる。とはいえ、既に急激かつ大幅な引き締め策を導入してから1年以上が経過しており、遅くとも2023年後半には、はっきりとした影響が見えてくるものと予想される。
 現時点においては、FRBとしても、政策転換を行う理由付けに乏しい状況で、結果的には金融引き締め政策が、少なくとも当面は、継続する可能性高いものと見られる。CME FedWatchによれば、5月のFOMCにおいて、0.25%の利上げが実施される可能性が約8割、据え置きとなる可能性が2割と見られているという。そして、さらに長期間にわたって、高水準の政策金利が維持されるような可能性も高まっている。
 懸念されるのは、経済の実態が低迷しているのに、金融政策が引き締め的なまま維持されることである。この点に関しては、FRBの姿勢次第ということになろう。

中国は世界経済の牽引車としては期待できない

 世界経済については、世界第二位の経済大国中国の経済活動が、政府の公式見解や公式統計データとは裏腹に、落ち込みを隠し切れないとの情報も漏れ伝わっている。あくまでも公式データを信じるということであれば、別であるが、独自に聞き取った情報や貿易関連の統計等から判断する限り、中国経済は、成長しているようには見えない。また、中期的にも中国経済は衰退していくフェーズに移行したものと見られ、世界経済を牽引するとは考え難い状態である。

ヨーロッパ経済も当面は期待薄

 そして、巨大な経済圏を構築しているEU始め、ヨーロッパの経済状況だが、こちらも、ウクライナ戦争の影響などが深刻で、高成長を実現するのは、難しいものと考えられる。むしろ、エネルギー問題が再燃する可能性もあって、さらに下振れしかねない状況と言えよう。

第三極の成長は続く

 インド、中東、ASEAN諸国などは、長期的には成長路線を継続するであろうが、アメリカ、ヨーロッパ、中国が不振であれば、当面は、相応の影響を被る可能性が高い。

日本にとっては対岸の火事ではない

日本についても、同様のことが言える。現在は、コロナ禍からの回復過程にあるが、世界経済が低迷すれば、再び不況に陥ることもあり得る。特にアメリカ経済の影響度は大きいため、今後、アメリカで景気の深刻な落ち込みがあれば、日本も対岸の火事ではなくなるであろう。
 そうした観点からも、アメリカにおける信用収縮の可能性が見えてきたことは、非常に大きな問題としてとらえるべきである。

今後も楽観視は禁物

 今後の見通しだが、決して楽観視はできない。大手4行の決算では、金利上昇に伴う、利ザヤ拡大等が貢献して、高水準の利益を計上しているが、リスクの火種は、ないわけではない。表のように、各行とも、有価証券残高に満期保有目的のものが占める比率が、前四半期末に比べて拡大している。バンカメに至っては、78%が満期保有目的となっている。これは、会計処理上、含み損益をそのままにしておけるものを増やしているということであり、リスクが隠れているとの指摘もある。4行合計で、有価証券の保有残高は、2.3兆ドルに達しており、その68%が満期保有目的とされている。
 もちろん、大手4行が、満期保有目的の有価証券を、満期前に売却せざるを得ないような状況に追い込まれる可能性は、ほとんどないと考えられる。大手4行に関しては、高水準のALMを実行しており、リスク管理についても万全だと考えられるからである。
 しかし、可能性は小さいものの、万が一、そのような事態に至った場合は、非常に厳しい状況に至るとも考えられる。いわゆる取り付け騒ぎとまではいかないものの、預金の流出が急増するようなことが、本当に起こってしまえば、満期保有目的としている有価証券の一部を売却する可能性は、ゼロではないからだ。
 非常に小さな可能性ではあるものの、そういった最悪の事態を未然に防ぐ目的からも、融資などのリスク管理に対する姿勢は、厳しさを増していくだろうと考えられる。
 不動産向けの融資としては、住宅ローンだけでなく、商業用不動産についても、警戒を強めているとの報道もある。商業用不動産の一部は、価格が急速に低下している地域もあり、今後も大きなリスクを抱えているとされる。アメリカ経済が本格的な不況に陥った場合、商業用不動産価格は、最も大きな影響を受けるものと考えられる。そうしたハイリスクの分野から、融資の絞り込みが始まっており、徐々に広がりを見せつつあると言えよう。
 現状は、前述のように、金融引き締めによる金利上昇が、貸出金利と預金などの調達金利の差分、すなわち利ザヤを拡大させているため、4行の利益水準は膨らんでいる。この利ザヤ拡大もこのまま続くという保証はない。また、貸し倒れが増加すれば、その処理費用も拡大する。従って、現時点における高収益が継続するとは断言できない。むしろ、リスクが伴っていることを認識すべきであろう。

信用収縮が広がる可能性

 経済全体として信用収縮の動きが本格化すれば、景気の落ち込み方は、想定以上のものとなる可能性がある。そういった意味で、アメリカ経済に対する、過度な楽観視は、禁物だと言える。さらに言えば、アメリカ経済が想定外の落ち込みとなれば、世界経済全体にも多大なる影響があることを認識しておくべきである。

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