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鮒ずしを食べ尽くす会

兵庫から来た私が初めて鮒寿司を食べたのは、20年ほど前にいた大津の職場でした。

上司がお土産にもらったと差し出してきた鮒ずし。
開封した時に空気中に広がるすっぱい匂いと
一切れ食べたときの衝撃は忘れません。
息を止めてお茶で流し込んだ記憶があります。

「これが滋賀県民のソウルフードなのか。恐るべし。おそらく2度と食べない。」なんて言っていた私でした。

親しみのなかった人にとっては、平均的な反応だと思っていました。


時を経て、嫁いだのは発酵の町・高島市。嫁ぎ先でハレの日に出されていても私は「お刺身は好きだけど、鮒ずしはちょっと…。」と箸を運びませんでした。

しかしある日、全く違った出会い方をしたのが発酵・料理家たやまさこさんのお料理でした。

芳醇さ、奥行き、酸味との調和。組み立てのバランス。

「飯(いい)最高!」
まさか、捨てるところだと思っていた飯の部分がこんなに美味しいとは。

飯をお出汁で溶いたスープはしみじみと美味しく、
引き算の美学も感じて。

ごくごく飲みたいし、じっくり味わいたい「はざま」を楽しみました。

その昔に食べたものとはまるで違っていました。

鮒寿司もピンからキリまでと知るのは、たやさんの料理をいただき、発酵調味料を使ったお料理に興味が湧いてからのこと。

まずひとつは製造者の違いからですが、その味の分かれ道とも言えるのは
どれだけ手間暇惜しまずニゴロブナの下処理をされているかに尽きるそう。
そして熟成を待つ間の保管環境。

味が完成するまでの分岐点はさまざまで、途方もない瞬間の積み重ねのようです。

もうひとつは食材に寄り添う料理「手」なのです。


さてさて、衝撃の出会いと感動の再会からこの度、
たいさんじ風花の丘にて「鮒ずしを食べ尽くす会」に参加したわけです。

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期待値は高く。

自家製から、お店のものまで。
参加者の持ち寄りで、市内にとどまらず、
沖島からも届けられた鮒ずしが一堂に会し。


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塩味(えんみ)が強いものや、酸味が強いもの、ふくよかさのあるもの、
丸い味のもの。

作り手が変わればこんなに違うのかと驚きます。

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この日は、滋賀県農政課長でフードコーディネーターの青田朋恵さんによるおはなしと、発酵・料理家たやまさこさんによる家庭で取り入れやすい楽しみ方を実演があり、より鮒ずしとお近づきになった日となりました。

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里山から琵琶湖まで、動植物と循環していく「琵琶湖システム」の構築要素として欠かせない食文化の琵琶湖八珍。古来よりあるとされる鮒ずしもその一つ。


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鮒ずしの飯を使うと優しい味の酢飯に。

そしてこの日のためにと市内の陶芸家伊東晃氏が制作した器に、それぞれが盛り付けて楽しむ。

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五感をフルに使うお食事には、器も大事です。赤松を使って焼いておられ、その器の表情は力強く、なんとも粋な風合いで。

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りんごのスライスの間に挟まっているのは、クリームチーズと鮒ずしの飯を混ぜたもの。蜂蜜をたらりとお好みで。合う。濃厚かつ爽やかさもあるという感動のお味。飯(いい)がスイーツになるなんて。

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持ち寄りの鮒寿司の余分にあったものたちが集められてサラダで準備されていたニンジンも刻まれてなめろう風に。酢飯に合うの。

お隣の白いものは、クリームチーズと飯。最後の最後に楽しむために置いておきました。手前の鮒ずしは古株牧場さんのチーズを入れて仕込んだもの。

だいぶパンチの効いた酸っぱさ。これも蜂蜜でまろやかにして。これは結構な上級者向けの仕上がりに感じました。


微生物の営みから生み出される芳醇なるひと切れ。咀嚼しては、これはどちらで作られたものだろうかと。神聖で、贅沢で、お皿に盛られるまでのストーリーに馳せながら。

あれだけたくさん食べたのに、お腹が軽い。
発酵食って素晴らしい。




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