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キートス・ガーデン幼稚園・保育園、英語で発信活動Lifelong Englishに向け「よーいドン」“Ready Set Go!”(前編)・・・通常活動と融合し、遊び、コミュニティー、自然を大切に


はじめに

TOEFL Web Magazineの筆者の長期連載コラムFor Lifelong Englishに掲載した記事です。執筆は2022年4月です。少々長いので加筆修正し(前編)(後編)に分けてお届けします。



別稿「TOEFL iBT®テストとプロジェクト発信型英語プログラムの発想」と「TOEFL iBT®テストとTOEIC®テストの違い:社会言語学スタイル論から」で紹介した「プロジェクト発信型英語プログラム:Project-based English Program」は、生涯モデルLifelong Model、生涯続く英語発信活動の「場」を提供するプログラムです。

筆者Keio SFC在任中構築/実践したProject-Based English Program Lifelong Model 

今回は、図のKindergarten/Preschoolに該当する大垣市平野学園キートス[1]幼稚園・保育園での「プロジェクト発信型英語プログラム」Project-based English Programの活動を紹介します。

筆者はいかなる学びも生涯続くものと考えています。何を学ぶか?勿論学校の教科だけではありません。日常生活から仕事に至るまで様々な活動が含まれます。筆者の趣味はスポーツと音楽です。少年時代に興じた自転車、水泳、野球を今でも楽しんでいます。楽しいから続くわけで、健康維持にもつながります。

Noteの筆者のマガジン「アメリカ留学を振り返ってMemorial Teachers」に掲載した全10回の記事で、留学中は大学で日本語を教えて生計を立てていたことをお話ししました。思い出すのはアメリカの大学生が楽しそうに日本語を学ぶ姿です。帰国後大学で英語を教えて真っ先に気づいたのは英語嫌いの学生の多さでした。受験勉強での丸暗記型英語が楽しいわけがありません。どんなに良いことでも楽しくなければ嫌になり頓挫して上達しませんが、楽しければ一生続き上達します。[2]

それにしても10年以上勉強しながら、実際の簡単な日常会話もままならない学生の多さには驚きました。10年野球をしてキャッチボールもできないというのに等しいのでは無いでしょうか。かつては筆者自身がそうでした。1967年初めて受けたTOEFLテストのlisteningでは歯が立たず、また、翌年初めて渡米した時には簡単な英会話もできませんでした。戦争直後の筆者らの幼少時代、爆音を上げて東海道を進む進駐軍を見て怖くなり、憧れながらも常盤新平氏の『遠いアメリカ』状態でしたから致し方ありません。でも、それから何十年も経ち先進国になった日本は世界中の国々を相手に貿易し、英語が第2言語になりつつあります。にもかかわらず、挨拶程度の英会話にしどろもどろする日本人に接して戸惑う外国人が多いようです。[3]1968年当時の筆者とあまり変わりがありません。

「プロジェクト発信型英語プログラム Project-Based English Program」では、受講者各自の関心事をテーマに英語プロジェクトを行います。筆者は楽しそうにプロジェクトに取り組む学生が英語で外国人と交流する様子を見ながら、[4]幼児期から英語を含め外国語・外国文化に触れ、それを楽しむ環境を作ろうと考えました。2000年より2011年までN H K教育テレビ「英語であそぼ」で英語監修し、幼児英語教育用教材作りや関連雑誌の記事を書いておりました。[5]

そんな折2008年7月ごろ、慶応義塾大学を定年退職し立命館大学に移籍していた筆者の手元に1通の手紙が届きました。翌2009年開園予定の大垣市平野学園キートス・ガーデン幼稚園(現幼稚園・保育園)教頭平野宏司先生からです。英語教育のカリキュラム策定に当たり筆者の意見を聞きたいとのことでした。


幼児英語教育関係雑誌記事・ビデオ/平野氏より届いた手紙

当時、日本では「トータル・イマージョン」[6]と称するメソッドによる英語教育が脚光を浴び、多くの幼稚園が導入したと聞いていました。Immersion learningの流れを汲んだものと思われますが、 immersion learningそのものにはtotal、partial、 two-wayの3つがありますが、バイリンガル、マルチリンガル社会であるカナダ(特にケベック州)やアメリカ合衆国などでK-12教育に導入され、What the Research Says About Immersion Pros and Cons of Immersion Language Coursesなどのサイトを見ると賛否両論です。アメリカ合衆国と言えば英語、よって、英語は公用語(official language)であると思うかもしれませんが違います。アメリカには公用語はありません[7]それには建国以来の理由[8]があります。[9]しかし、英語が最も多くの人に話される主要語であることには変わりありません。ちなみに、次に話者が多いのがスペイン語です。全部で少なくとも350語が話されているということです。先住民と世界各国からの移民による文字通りの合衆国ですから当然マルチ・リンガル国家です。

教育を含む公的場面で圧倒的に使用される主要言語は英語で、K-12教育では非英語圏からの生徒の英語力向上のためにこの方法が試されてきたようです。

筆者は1998年頃Los Angelesの公立小学校を訪問したことがありますが、生徒はヒスパニック系、東南アジア系、中国系の移民などで、ままならない英語で、母語でさえ難しい算数、理科などはついていくのが大変そうでした。中国系の児童には最初は中国語で、徐々に、英語に変えていくというシステムをとっている学校があったようです。英語は公用語でないにしろ、高等教育、社会で活躍するには必要不可欠であり、英語でのimmersion教育は策の一つとして導入されたのでしょう。[10]

確かに英語はグローバルの第2言語として使われていますが、国々によって事情が違います。日本の児童、生徒、学生は日本語でK-12から大学、大学院の教育を受けられます。英語ができなければ授業についていけない訳ではありません。ここが大きく違うところです。

平野先生はフィンランドに留学してハンメル先生[11]の下で幼児教育について学び、最近の著書『フィンランド式「遊んで学ぶ」』(2021年セルバ出版)のタイトルにあるモットーを掲げカリキュラムを策定中とのことでした。筆者の英語のプログラムのキーワードは受講者の関心事、幼児にとって遊びは最大の関心事です。「遊んで学ぶ」を言い換えれば「関心事から学ぶ」になります。遊びながら絵、数え方、歌、スポーツ、日本語、英語、食べ物、自然、コミュニケーション、などなど沢山学ぶ、楽しいことは一生続きます。詰め込みは一切ありません。

Kiitos創立10年記念 幼児教育専門家ハンメル博士と対談後(2019)

さてimmersionとは「没入、没頭すること」です。子供は放っておいても遊びに没頭します。筆者も幼い頃、冬は野山、夏は海川に出かけ遊びに没頭し、多くを学びました。留学しようと思ったのも夏の波止場で釣りをしながら会った外国貨物船の船員達に接した体験が原点にあります。関心を持つとはimmerseすることです。その場合のimmerseはimmerse oneself in~(例:“John immersed himself in singing.”)であり、immerse someone or something in~ (例:Her father immersed her foot in iced water to reduce the swelling.) ではありません。前者は自分で何かに没頭すると言う意味で、後者は人為的に没頭させるという意味です。

前者は自主的、後者は強制的です。没頭するのは誰かが仕向けるのではなく、自発的な行為で、子供の遊びはまさにそれに当てはまります。遊びとは自分の関心事に没頭していることで、敢えてimmersionという言葉を使わなくとも、遊びを中心にすれば当然のことなのです。特にtotal immersionの内実を聞くと、それは、どちらかというと誰かが子供を何かにimmerseする、という感覚で、それが例えば、英語学習であるとしたら非道です。子供達の日常の遊びは日本語によるものです。その日本語を禁じて英語をしいたら子供にとって苦痛でしかあり得ません。日本語の通常カリキュラムと合体させるのが一番です。

それで、あくまでも子供達の遊びの一部に英語を入れることにしました。(後編)に続きます。具体的なカリキュラム、筆者の英語到達度分析を記してあります。


[1] フィンランド語“kiitos”は「ありがとう」という意味です。
[2]スポーツも同じです。筆者も1956年に中学校で野球部に入部したのですが、練習が厳しく、水分補給も禁止、時にはゲンコツ、すぐ辞めました。今では考えられません。でも野球への興味は持ち続け、40才頃からバッテイング・センターに通い始め、60代で現在のチームに所属し今日に至っています。70才から85才以上の高齢者が集まり毎週楽しく興じています。
[3] 非英語圏の旅行者もそう思っているようです
[4] 授業には外国人のビジターが参加したり、オンラインで外国の大学と繋げたりしました。
[5] (幼児)言語習得は言語学、心理学、神経学、認知科学でも重要課題です。J. Piageをはじめ世紀の大論争とも言えるSkinner-Chomsky論争、G. Lakoffanimal language acquisition等々現在も続く興味深いテーマです。
[6] 現在“total immersion”で検索すると大部分はswimming 関連のサイトです。
[7] What Is The Official Language Of The United States?
[8] Why Doesn’t the United States Have an Official Language?
[9] FY1:English isn’t an official language of the United Statesと称する記事のように「ここはアメリカだから英語を話せ!」と言うのは違法になります。
[10] 筆者のnoteマガジン「アメリカ留学を振り返って:Memorable Teachers」シリーズでも述べましたが、アメリカ人の多くは先祖の言語(ancestral language)を学びたいと思っており、K-12や大学の外国語の授業にこの方法がよく使われているようです。
[11] Hannele Karikoski (previously Kess) Ph.D., Lecturer Emerita, Department of Education, University of Oulu, 90014 Oulun yliopisto, Oulu, Finland. 幼児教育の専門家です。何度か来日し、ハンメル先生の名で親しまれています。筆者も何度かお逢いし、対談しました。


上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。


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