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作品『未来のためのピアノ曲集(2020)』 - 解説

この作品は9月23日から10月1日にかけてYoutubeで"初演"されました。ピアノ演奏は深貝理紗子さんです。深貝さんとは、長い間新曲初演でお世話になっているピアニストの友人でして、今回も素晴らしい演奏をしてくださいました。


きっかけとなる『船出』

この作品を作る以前、東京都の補助金企画である『アートにエールを!』で応募した『船出』という映像作品がありました。成田為三の『浜辺の歌』をもとに僕が作曲した『浜辺の歌幻想曲』とドビュッシーの『喜びの島』の2曲からなる10分ほどの演奏映像作品です。
『アートにエールを!』の応募条件としてコロナウイルスの感染対策である『3密を避けた』方法で制作すること、とかかれていたため、これに応答する形で、『部屋の中の(ステイホームの)コンサート』のコンセプトで制作しました。当時は特に、演奏の機会が制限されていたため、やがて外に開けていく希望を込めて、『船出』のタイトルをつけたのでした。

『浜辺の歌幻想曲』の作曲、映像編集及び、カメラ設置場所のディレクションは僕が行いました。撮影とピアノは深貝理紗子さんが行ってくださいました。全体的に夕陽が似合う曲だと感じたので、赤橙色の色彩を全体的に添えました。思えばこれほどの編集は初めての試みと言えます。



そして『未来のためのピアノ曲集』へ

『船出』と言う作品を通じて僕は、オンラインの音楽作品発表に可能性を感じ、この映像の試みをよりクリエイティブに進めたい、と思いました。その結果がこの、『未来のためのピアノ曲集』となります。

この『未来』という言葉には先述の『船出』のような、アフターコロナに信じる未来、というニュアンスも当然感じられることでしょうが、僕としてはこの未来と言う言葉は、コロナ禍以降であっても永遠に「未来のための」であって欲しい、という気持ちもあります。

未来という言葉には二つの意味を見出すことができます。前に進むというポジティブなニュアンスと、そして、今ではない、というニュアンスです。

この作品はどの時代にも属さない音楽、というコンセプトが裏にあります。クラシック音楽ではあるのですが、古典的な"風格"をもたない時間を持たない5曲の作品集、これがこの作品における「未来のための」でもあったりします。

つまり自由への希求でもあり、この作品から広がるであろう悠々とした雰囲気を大いに楽しんでいただけたら、と作曲者の私は願っております。これからいろいろと語りますが、これも一つの感想に過ぎないわけです。

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映像について

僕自身は作曲を専門に勉強した者であり、映像についてはまだまだ発展途上とは思っています。ただ、現代という時代を考えると、変な話多少なりともインディーズ的に見えてもかまわない、むしろ挑戦することに意義がある時代だとも考えており、自分のできる範囲で、自分のセンスの信じる範囲で制作しました。

撮影は前回の『船出』同様、僕から指定した視点で3カメラを用いています。最近のスマートフォンの性能には驚くばかりで、多少拡大しても、演奏姿を綺麗に捉えるのに十分な画質を提供してくれます。

使用ソフトはAdobe PremiereとAdobe After Effectとなります。不自然じゃないながら彩色していくような色合い、カットの切り替わり、音楽のニュアンスに矛盾が生じないことに気をつけながら編集作業を進めてまいりました。

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この作品では演奏シーン以外にも抽象的な図形が多く現れます。『船出』がオーソドックスな演奏映像だったため、演奏に抽象的な図形を挿入するのは正直勇気がいりました。それでもやってみると、思いの外面白いサブリミナル効果が得られ、「演奏映像」にも多様な可能性を感じているおります。

ちなみに、この作品は23.976fps、つまり1秒あたり23.976枚のフレームでコマ送りするよう作られています。これは一般的な映画と同じフレームレートであり、ある種「記録」のような、そしてくつろいで楽しんでいただきたい作品だからこそと考えてこのフレームレートを選びました。

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各曲解説

こどもたちの行進

テーマカラーは緑。
マーチ調にすすむこの音楽は、調性音楽の理論で考えれば落ち着かない和声を意図的に選んで展開されます。調性の和音は「美しい」とされますが、この曲はその美しい装いを借用しながらも、その内実は何とも捉えられない存在を描きます。
フレーズの最後に内声に登場するメロディが、中間でさながらケルトの音楽のように繰り返しながら発展していきます。飛び跳ねる玉の映像とともにお楽しみください。



邂逅のワルツ

テーマカラーは青。
マーチに続きワルツ。こちらは前曲に比べてクラシックな落ち着きのある音楽です。
最初はメジャーに始まる囁きかけるようなメロディですが、徐々にマイナーなトーンに落ちていきます。タイトルは『邂逅』ですが、明るいとも暗いとも限らない。僕にとってそのどちらでもない有様は透明さを感じます。人生とは透明さそのものだと思っています。



真夏の夢

テーマカラーは白。
シェイクスピアの「真夏の夜の夢」のようなタイトル。夏という季節は、その日光の圧倒的なエネルギーで生き物を直接翻弄します。シェイクスピアのそれも、夏の夜の強さがロマンチックな喧騒のイメージを懐かせるのでしょう。
この曲はどちらかというと昼かもしれません。僕は暑い日の昼にうたた寝をすると恐ろしい夢を見る傾向があります。おそらく活動的な時間に眠ることと暑さで、違和感を感じた身体の訴えが、無意識に悪夢として顕在化している証なのでしょう。
勿論この作品は悪夢的なニュアンスはないと思いますが、「身体の限界を超えた強い光で当てられている」ことを多少なりとも意識した音楽とは言えます。音はほぼ高音で少ないですが、しかしその音の裏側、聞こえない音が強い存在感を放っているのです。
ところで音楽における「聞こえない」音って何でしょう。演奏をせずとも間違いなく空気が揺らいでるから、楽音の他に様々な音が鳴っているはずなのです。ノイズ、非ノイズとは何か。これはジョンケージの4:33から始まる音楽の一つの問いのように思えます。



ユーモレスク

テーマカラーはマゼンタ。
ユーモレスクとはユーモアの音楽。
僕は自分の人生においてユーモアを非常に大事にしています。ものを主張する時も、辛いことを考える時も、ユーモアなしには正しく伝えられないし、需要できないと思っています。どんな恐ろしい複雑な真実も、ユーモアでおもしろおかしく捉えることで、それを柔らかく受け取ることさえできるのです。逆説的に、感情を強制的に理性に戻す装置として、ユーモアは最適なのです。

この『ユーモレスク』はそんな僕自身の哲学的なユーモア観を反映しています。ドヴォルザークの同名の曲のような力を抜いた感じではなく、もっと攻撃的で、ときに真剣だったりもします。
形式もロンド形式のなり損ないのような形であり、後半から出鱈目な展開となって正しく再現されなくなります。このため何が主題だったのかわからないまま終止形に導かれるのです。



未来よ

テーマカラーは黄金。直球で問いかけるような下降音形が、次々と溢れていくような形で音楽が展開されます。

この曲は知に問いかける音楽と考えており、この曲自身が様々な感情を取り扱っており、そのため特別一つに絞って語ることばが思いつきません。喜びも悲しみもこの曲の中では等しく扱っていると思います。ある意味でこれまでの4曲の全ての感情を表しているかもしれません。
僕は前に進むのに無理に喜ぶ必要も、もしくは激しい怒りを持つ必要もないと思い、そして願っています。ただ前に、進めば良いのだと。



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ピアニスト - 深貝理紗子さんについて

深貝理紗子さんとは、僕が音楽高校在学時代の同期で、高校時代に作品を演奏して頂いて以来であり、ここ最近は前述の『浜辺の歌幻想曲』や、そしてピアノ組曲『Shine』を演奏させて頂いております。
フランス音楽をレパートリーとし、ダイナミックな演奏が印象的で、これまではそういったイメージを汲み取った作品を作曲しておりましたが、今回はあえて方向性を変え、クラシックとは少し違う作品にしたく相談してみたところ、快くOKを頂きました。
芸術に対し真摯であり、それゆえに懐深い知的な視点を持つ素敵なピアニストであります。

そんな深貝理紗子さんからの視点のコメントも実はブログ記事にしていただいております。演奏者が曲を自分の言葉として表現してくれることは、私にとっての作曲家という職人としての目標でもあり、このように一人の人間なりの言葉として表現していただくのはとても嬉しいことです。
ぜひお読みいただければと思います。


楽譜について

本作品はPiascoreで楽譜販売しております。
ぜひ弾いてみたい!という方、演奏映像も大歓迎でございます。
全曲版と活曲のスコアを販売しております。各曲版のは各曲解説にリンクを貼りますので是非用途に応じてお買い求めくださいませ。

全曲版


各曲版




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