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私はなぜYoutuberになるのか(1)

Youtuberになる、というのはやや大袈裟なんですけど、ともあれはじめることにしたので、その理由を説明します。


「大きな出版業界」がうごきはじめた一年

いまから4年半前の、2019年3月。

これからの本屋読本』と、共著の『本の未来を探す旅 ソウル』『本の未来を探す旅 台北』とを立て続けに上梓したくらいのころです。

ふと「大きな出版業界」と「小さな出版界隈」ということばが、思い浮かびました。

それを同5月、『ユリイカ』誌に寄稿した「不便な本屋はあなたをハックしない」という小論に書きました。

「来年(2020年)あたりが、その分断が訪れる節目かもしれない」と書いている通り、なにか大きな予感のようなものがある年でした。

ところがそのあとコロナがやってきました。

その予感から3年ほど遅れて、2023年。今年になっていよいよ「大きな出版業界」が動き出した感じがしています。

この数年ずっと言われてきた「マーケットイン型出版流通」という掛け声に続くように、AIを活用した需要予測、それによる返品の削減、無人書店の開店、などに関連するニュースが、今年はより具体的な取り組みになってきたと思いませんか?

動き出したな、という感じがしているのです。

試行錯誤の末に

このたび「本チャンネル」というYoutubeとPodcastと、書店ではたらくみなさん向けのニュースレターをはじめることにしました。

ニュースレターには、既に150人以上の書店主・書店員の方が登録してくださいました。ありがたいことです。

なぜこんなことをはじめたのか。ひとことでいうと、自分にできることで、もっとも本の世界に貢献できそうなことに、ちゃんと時間を割きたかったからです。

それは何なのかとしばらく考えた末、出した結論が、自分がハブになること、そのために発信をすることでした。それでこの1年半くらい、 #今日発売の気になる新刊 とか #内沼晋太郎質問箱 とかいったハッシュタグで、ずっと試行錯誤してきました。

そこからもう一歩踏み出して、本格的に時間を割いて、取り組んでみようというのが、いまです。

ハブになること、発信すること

前述のとおり、2023年は「大きな出版業界」の新しいニュースが、例年よりも多く聞こえてきた年だったと感じています。

マーケットが求めている本をつくる、返品を最小化するべく需要を予測して書店に配本する、無人の書店を増やしていく――いずれも効率化に向けて、大きな書店や取次や出版社とテクノロジー企業がタッグを組み、あらたな事業体をつくったりしながら行われている取り組みです。力が入っているな、と感じます。

自分はそれらの動きに否定的ではありません。むしろ、とても期待しています。これからも本が出版され、売買される環境を維持していくために欠かせない取り組みだと思っており、力になれることがあれば協力していきたいと考えています。

とはいえ一方で、まず自分が世に出すべきと思える本をつくる、それを意志を持って売ろうとしてくれる書店に届ける、人を介して本が手に取られるような場を増やしていく――といったことも同様に大切で、必要なものだと思っています。

けれど前者と後者は、文字通り、正反対のことを言っています。そして、少なくとも後者は、プロダクトアウトからマーケットインへ、という掛け声のもとで効率化をすすめている「大きな出版業界」には、なかなかケアしきれる領域ではないように感じます。

かといって、それを大切に思うひとりひとりの力は、けして大きくありません。それぞれ独立してやっている人も多いので、徒党を組んで大きな事業体をつくる、といったこともそぐわないでしょう。

なので、まずは自分がハブとなって、弱くともつながることができる場をつくりたいと思いました。

それがこの「本チャンネル」です。

自分でデザインしました。時が来たらプロにリニューアルをお願いしようと思っています

細い線を引き、いずれは面ができ、少しでもそれぞれがやりやすい環境をつくることにつながればと思っています。

もちろん、そんな大きなことが、自分一人でやれるとは思っていません。共感してくださった方には、ぜひ発信する側に回っていただければと思っています。

最初にはじめること

具体的には、まずは平日ほぼ毎日、著者や訳者や編集者をゲストに招き、新刊を紹介する #今日発売の気になる新刊 という番組からスタートします。

これは今年の6月に3週間だけ、Ginza Sony Park Mini という場所でポップアップの書店をやらないかというお誘いがあり、そこで考え、実施したことが元になっています。

このときは音声だけでしたが、やはり動画もあったほうがよいと考え、準備してきました。

そのときの経験上、再生数を伸ばすのはたいへんそうです。最初のうちは、大した影響力は出せないかもしれません。

けれどいずれは〈この番組で紹介されると本が売れる〉という状態を、おこがましくも目指しています。そういうメディアが少なすぎると感じるからです。

なので、書店員のみなさんに事前にお知らせして、仕入の参考にしてもらえるように、紹介する本を3週間前にお知らせしていきたいというのが、このニュースレターをはじめたひとつの大きな動機です。

かといって、もちろん紹介する本は、あくまで自分が選んだもので、自分の好みに偏っています。当然のことですが、書店員のみなさんに押し売りするつもりはまったくありません。仕入れたいと思った本だけを、仕入れてもらえればと思っています。

自分を昔からご存じの方の中には、ひょっとしたら違和感を感じる向きもあるかもしれません。「自分が特定の本を紹介することで、その本が売れるような力は、できるだけ持ちたくない」というようなことを公言していたからです。そのあたりの変化について語ると長くなるので今回は割愛しますが、ひとことでいえば「そんなことを言っている場合ではない」という気持ちです。

とはいえ、自分だけではなく、いろんな人があらゆる形で本を紹介する場を持って、様々な本がいろんな角度から話題になっていく流れが、もっと何倍も生まれていくといいなと思っています。自分はあくまで、その一端を担っていくつもりです。いずれ軌道に乗ってきたら、自分だけではなく、何人もの選び手・聞き手がいるようなチャンネルにできたら面白いなと思っています。

そのような前提のうえで、まずは自分が一定の影響力を出せないと、次につながっていかないとも感じています。もし共感してくださったら、それぞれに可能な範囲で、番組を応援していただく、気に入った回があればSNSなどで紹介いただく、気になる本があれば仕入れて店頭で販売していただく、といった形で、書店のみなさんに力を貸していただければ、本当にうれしく思います。

書店の方は、ぜひ、まずはこのニュースレターに登録してください。既に登録いただいている方は、ほかの書店仲間の方に登録を薦めてくださったりしたら、望外の喜びです。書店以外の方は、ぜひチャンネル登録をしてお待ちいただければうれしいです。

とはいえ、自分がこのチャンネルやニュースレターを通じてやりたいことは、本が話題になって売れていく状態をつくること、だけではありません。

並行して、話し合うべきことをさまざまに話し続けていくような番組もつくっていくのですが、長くなってきたので、その話はまた次回にしたいと思います。

※上記の文章は「本チャンネル 書店向けニュースレターvol.1」に掲載した文章と、ほぼ同じ内容です。一週間遅れで公開しています。


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