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『小川未明童話集』

今私はSNSの更新をお休みしている。今年は3月は奈良県cojicabooksさんで個展、4月は東京・谷中ひるねこBOOKSさんで原画展、5月のGWは三重県BUMBLE BEE BOOKSさんで個展と、我ながらよく生きてるなと思うスケジュールで展示を行った。展示の途中で失速しそうにはなったが、それぞれの本屋さんや楽しみに待っていてくださった方々からの激励を受けて無事に走り切ることができた。本当に感謝である。
反省点は山ほどある。でも結果として「連続で展示を行う」ことを経験してよかったと思った。

展示期間中はSNSの更新を頻繁に行っていて、それ以外の時間は仕事をしていたので、この期間は本が1冊も読めなかった。でも積読の本達は増えていく日々。絵本の原稿も進んでいなかった。
5月の個展が終わったらSNSをお休みして、本の虫になろうと思った。わたしは活字を、本の言葉を欲していた。
こんな言葉を現実に使うのだろうかという難解な言葉や、韻を踏んだ気持ちの良い言葉、そんなにかしこまってどうするんだという風な美しい言葉など、本にはたくさんの言葉が詰まっている。SNSで発信される言葉はシンプル且つスピード感があり、すぐにダイレクトに頭に入ってくる。一方で、本の言葉にはスピード感はない。むしろ頭に入れて一回噛み砕いてから頭に染みてくる。頭に染みたら心に広がる。
最近このような読書感想文をnoteに書き始めたのも(おおよそ感想文にはなっていないが)言葉を整理するためだ。本の言葉を収穫して、絵本の原稿やお手紙を書く際に、言葉を尽くしたいのだ。

わたしは積読の本達を読もうと手を伸ばしたが、急に童話が読みたくなった。そして文庫本棚に舞い戻って、しばらく読んでいなかった本を手に取った。それが今回の『小川未明童話集』(角川春樹事務所)である。

装画は千海博美さん、この本の表紙はとても好きだ。夜風が吹いて木々を揺らしているような穏やかな作品だなと感じる。

子供の頃読んだが、実は小川未明の文章が苦手だった。読む力が備わっていなかったのもあるが、文章が難しいと思った。
大人になって書店員になりたて頃、この本を読んだ。とても感動した。
小川未明の言葉は丁寧で、繊細、そして怖かった。それがとても心地よく頭に染みてくる。この一文、すごく素敵だなというところがあるとそこだけ何度も読んだ。
今回絵本作家になりたてで、この本を読んだ。やっぱり感動した。でも前の感動とは違うような気がする。わたしの中の、お話の語り手のイメージが変わったのかもしれない。前は機械音のようなイメージだったが、今は少ししゃがれたお婆さんの声が聞こえてきた。これもいろんな本を読んだり、映画や何かを体験したために変わったのだと思う。小川未明の言葉はとても静かで、穏やかだった。

今、特に好きな童話は『月夜と眼鏡』だ。最後の最後の一文が読者を安心させる。この最後の言葉がなければこのお話は終わることができない。ほんとうにいい月夜に、この物語をもう一度、読もう。

小川未明の言葉は、はじまりとおわりが優しくて明確だ。わたしももっと言葉を上手く使えるようになりたい。




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