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はじめてスタンプが押された日

忘れたくないことを
忘れてしまいそうで
わたしの代わりに覚えていてくれませんか。

身分証明書として肌身離さず持っておくには
少し不便なサイズの身分証明書を手に入れた。

これがないとドイツに行けないんだって。

ミュンヘンに到着。

おじさんにちゃんと観光でドイツに来ましたって言いたい。

単語帳に書かれたカタカナを読み上げる。

おじさん「?」

通じない・・・急いで本を見せて、スタンプを押してもらう。

周りの人はみんな英語で話してるのに、
なぜかドイツ語で意思疎通を図りたかったが不可能だった7年前。
恥ずかしい・・・マスクしたい。
ドイツでマスクできるかよ・・・やんのか・・・やんねぇよ。

それでもそのスタンプが嬉しくて、
交通手段に乗るたび、ホテルに帰るたび、朝起きるたび、
「パスポートありますか~」と問われるたびに
開いて入国スタンプを見つめてしまう。

スタンプは何歳になっても押してもらえると信じていた。


7年後。オーストラリアにて。

「日本の方なら並ばずに済むんで機械でどうぞ~」

え。スタンプ押してもらえないの。

いずれどの国でも押してもらえないようになるんだろうな。

寂しいな。

はじめてスタンプを押してもらった日のことも忘れるんだろうか。

あんなにもスタンプを押すページがあるのに。

空白が埋まらないパスポートを見つめた。


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