見出し画像

【 #いい会社帳 no.06】イノセント(B Corp) - 徹底してCO2削減に取り組む!

イノセントのスムージーやジュース、見かけたり飲んだりしたことはありますか?日本だと、「innocent まんま、飲むフルーツ」というキャッチコピーで売られています。昨年あたりから、「なんか、急に新しいの出たなあ!」と思った方もいるのでは。それもそのはず、イノセントの日本上陸は2019年です。

日本のスーパーで売られている100%ジュースはほとんどが濃縮還元果汁を使っている印象ですが、イノセントは濃縮還元じゃない正真正銘100%フルーツ&野菜で、合成着色料や保存料なども使用していません。

そんなヘルシーなフルーツ飲料を生産販売しているイノセント、実はサステナビリティにも大真面目に取り組んでおり、2018年にB Corpとなっています。

それではイノセントのどんなところが「いい会社」なのか、見ていきましょう。

「#いい会社帳」についてはこちら↓


組織概要

組織名 :Innocent Drinks(親会社はコカ・コーラ(90%))

所在地 :ロンドン(日本を含め世界17拠点)

設立  :1999年

事業  :飲料(ヨーロッパのチルド果汁ドリンクカテゴリーにおいてNo.1)

設立経緯:1999年、大学の同級生であるリチャード、アダム、ジョンの三人がロンドンの音楽フェスでスムージー店を出店し、「今の仕事をやめて、スムージー屋をやるべき?」と書いた質問の下にyesとnoのゴミ箱を置いたところ、yesのゴミ箱がいっぱいに。それで起業を決めた。

B Corp認証取得:2018年6月

B Impact Score(※):92.5
(※)B Impact Assessment(社会や環境へのパフォーマンスを測るアセスメント)のスコア。認定B Corpになるためには80以上のスコアが必要。


志と取り組みの概要 - おいしくて、いいこと

イノセントのウェブサイトでは、ミッションやビジョンをはっきりと書いているページはありませんが、以下のようなことがイノセントのコアにあります。

人々を健康にすること、私たちを最も必要とするコミュニティを助けること、そして私たちの地球ももっと健康になるようにすること。

他の表現では、「すべてにおいてgoodであること(to become good all round)」とも書いています。(ジャパンのサイトでは「おいしくて、いいこと」と書いてありました。いいコピー!)

このような志をもとに、

ジュースにはいいものだけを詰め込むこと、利益の10%をチャリティに寄付すること、2030年までにカーボンニュートラルを達成するという目標
などが大まかな取り組みとして挙げられます。


環境への取り組み:カーボンフットプリント

イノセントは2004年からカーボンフットプリントをマッピングし、気候危機に対抗するための改善アクションを取り始めました。以下の図は、2019年のカーボンフットプリント(CO2がどの工程でどのくらい発生しているか)です。

画像1

一番大きな割合を占めているのが、原料の生産と輸送(42%)、次に大きいのがパッケージ資材の生産(34%)です。

その他、小売のためのロジ・店舗(11%)、ジュースの製造・輸送・ボトルへ詰める工程(5%)、完成製品の輸送(5%)、オフィス・車・出張(3%)となっています。

2030年までにカーボンニュートラルを達成するという目標に加えて、2019年から2023年の間にボトルごとにカーボンフットプリントを20%削減することも掲げています。

これらの目標のもと、各工程において温室効果ガス(以下、簡易的にCO2と記します)の削減に取り組んでいます。


100%リサイクルボトルを目指して・・・

カーボンフットプリントの34%を占めているパッケージ生産の工程においてCO2を削減するため、何度も繰り返しリサイクルできる100%リサイクルボトルを目指して試行錯誤を続けています。現在は、一つのボトルの中で50%が再生プラスチック、15%が植物性プラスチック、そして残りがふつうのプラスチックとなっています。

画像2

なぜプラスチックにこだわるのか(ビンではダメなのか?)などと質問をよく受けるそうですが、ビンにすると結局今のボトルの3倍のカーボンフットプリントになってしまう試算だそうです。

そのため、新規に石油由来の素材を使わずにすべて再生プラスチック/植物性プラスチックでまかなうことを目指したいのですが、現状ではクオリティに問題が出てしまうようです。もともと、2022年までにそのような100%リサイクルボトルの完成を目指していましたが、達成は2020年の時点で「現実的ではない」と書いています。

ただ、コカ・コーラが今年から主力商品について100%リサイクルペットボトルに切り替えていくことを発表しています(耐久性は問題がないとのこと)。イノセントはコカ・コーラの傘下企業ですから、その辺りでの連携の可能性もあるのでしょうか。


原料のサステナビリティ

ジュースの原料(フルーツや野菜)の生産工程は環境へのインパクトが大きいだけでなく、人権の問題なども含めて、「サステナブルな調達」が求められています。

イノセントは外部の機関と連携して生産者のサステナブル基準を設け、基準を満たす農家の割合を増やす努力を続けています。具体的には2023年までに100%サステナブルな調達にすること(2019年時点で75%)、2023年までに原料生産にかかるCO2排出量をボトルあたり5%削減すること、また同時に農家の収入を7%増やすことなども掲げています。

農家のサステナブル基準

イノセントでは2007年より原料調達における独自のサステナブル基準を作っていましたが、企業間で統一的な基準がないことが農家の負担になっていたことから、第三者機関であるサステナブル・アグリカルチャー・イニシアチブ(SAI)と連携し、他の多数のブランドとともにファーム・サステナビリティ・アセスメント(FSA)基準を採用することにしました。

インドのマンゴー農家がFSA基準を満たすようサポートを行った例では、48%収量が向上し、薬剤コストは80%削減することができたそうです。サステナブルな農業を推進することで収益にもプラスであることを示しています。

その他にも原料のサステナビリティを実現するため、農業イノベーションファンドを通じて、原料の生産現場における生物多様性や農家の生計の改善、CO2の回収プロジェクトに資金を投じるなどしています。


ヒーロー・サプライヤー・プログラム

イノセントが調達先にどうあってほしいのか。どんな価値観を共有したいのか。それを言語化し、農家だけでなくすべての調達先のサステナビリティ・レベルを上げるための指標となっているのが「ヒーロー・サプライヤー・プログラム」です。

このプログラムには大きく分けて5つの項目があります。

サステナビリティ・マネジメント
・環境マネジメントシステムを取り入れているか
・目標を達成しているか
・環境目標の達成と、幹部の報酬が連動しているか

エネルギーと温室効果ガス

・エネルギー効率の目標を定めているか
・再生可能電力を使っているか
・科学的根拠に基づいた目標を設定しているか


・水利用削減の目標を定めているか
・それらの目標をどう達成するかについてスタッフはトレーニングを受けているか

ゴミと資源

・ゴミの廃棄場(埋立地)に何かしらを出しているか
・リサイクルに関する目標を定めているか
・サーキュラーエコノミーの考えを採用しているか

人権と社会的責任

・人権や倫理的取引についてのポリシーを定めているか
・事業における雇用や人権に対して責任を持っている人はいるか
・ジェンダーまたは他の賃金格差についてのレポートを出しているか

サプライヤーのタイプによって、2020年末または2021年までに上記の2/3を満たしてもらうことを目標にしています。


飛行機をやめる - 輸送のCO2排出量を減らす

イノセントでは、原料を運ぶ際に飛行機を使わないようにしています。飛行機の代わりに船を使うことで、CO2排出量を1/86にすることができるそうです。

2019年のレポートでは、ジュースの原料であるココナッツウォーターが大幅に不足し、飛行機を使わざるをえなかったエピソードを紹介しています。この時には、森林破壊の問題に取り組むブラジルのプロジェクトに13,000ポンドを投資することで*カーボンオフセット(相殺)を行ったそうです。

また完成品を運ぶ際にも可能な限りCO2排出量の少ない交通手段(あれば電車や船)を使うようにしており、電気や天然ガスで走るトラックのトライアルも始めているとのことです。

*カーボンオフセット…「市民、企業等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方」

カーボンニュートラルでサステナブルな工場

イノセントの工場「The blender」は、ローカルの材料を調達して作り、ソーラーパネルと風力発電用のタービンを兼ね揃えた、世界でも類を見ないカーボンニュートラルを達成している工場です。港に隣接しているため、道路を使った輸送も最小限に済むとのこと。

この工場のおかげで、2019年末までにイノセントの飲料の80%は、再生可能エネルギーの工場で生産されることになっており(2023年までに100%を目指す)、全体のカーボンフットプリントを10%は削減できる見込みだということです。

また、雨水を水洗トイレに利用したり、使用済みの水も工場の処理場を通って再利用、もしくは地域でリサイクルされるようにすることで、水の使用量も大幅に削減するシステムを組み込んでいます。


オフィスもカーボンニュートラル

オフィスもカーボンニュートラルを既に達成しているといいます。自社ビルでは再生可能エネルギーやバイオガスを使い(本社「フルーツタワー」には、その他にもユニークな仕掛けがたくさん!)、自社ビルではない場合はスタッフが使ったエネルギー分についてオフセットを行なっています。また、自社所有の車や農地バンなども数年以内に電力で走るものに切り替える計画とのこと。


***


ここまで主に環境面の取り組みについて紹介してきましたが、ここから先は社会面にも目を向けていきます。

地域社会や飢餓削減への貢献

イノセントは利益の10%をチャリティに寄付しており、これまで累計で1,600万ポンド(約24億円)を寄付してきました。

創業者のアダムを中心に2004年にイノセント基金を設立しており、以来世界の飢餓問題にアプローチするために様々なプロジェクトに寄付を行っています。SDGsの「2030年までに飢餓をゼロに」という目標を基金のビジョンとしても掲げています。

その他、イノセントの拠点がある場所では、その地域ごとの課題をサポートするために各地域のチャリティ活動に資金提供を行なったり、社員がボランティア活動に参加するなどしています。


インクルージョン&ダイバーシティ

イノセントでは「サンデー・ナイト・ブルー(日曜夜の憂鬱)」がないような職場環境を作っているといいます。

インクルージョン&ダイバーシティ(多様性に関する取り組み)については、2019年にイノセントを多様性のある職場にするにはどうすべきかを考えるために従業員に対し調査を実施しました。そこで得た学びをもとに、5つの原則を導き出しました。

1. 誰にでもドアをオープンにすること
イノセントで働きたいと思っている人/働いている人には誰であっても平等にチャンスを与える。

2. 誰もが声を上げられるようにすること
すべての人の意見や疑問や問題に耳を傾けるとともに、互いの理解を促進するトレーニングを受けられるようにする。

3. リーダーは優れたインクルーシブな姿勢を持っていること
上位レイヤーの決定に対して誰もが意見することができ、決定がインクルーシブなものであるかをチェックする役割を置いている。

4. 誰もが必要なツールにアクセスできること
育児休暇、フレックス制度、メンタルヘルスサポート、アフィニティ・グループへの参加の機会などが誰にでも開かれているようにする。

5. 計測し、学び、共有すること
インクルージョンとダイバーシティがどれだけ実現できているかをトラッキングし、進捗について共有していく。


ジェンダー賃金格差

イノセントでは2017年よりジェンダー賃金格差に関するレポートを出しています。

2019年のレポートでは、イギリスの平均賃金格差が17.3%であるのに対し、イノセントイギリス本社での賃金格差は6.6%(前年は9.8%)、イノセントのヨーロッパ全体で見た場合には3.3%とあります。

理由としては、イギリス本社においてはシニアポジションに女性の割合が増えていることを挙げています。

各ポジションで候補者リストのバランスに配慮していくこと、構造化された面談を行うこと、すべてのマネージャーに対しアンコンシャスバイアスに関するトレーニングを行うことなどを通じて賃金格差是正に取り組んでいくとのことです。


人権ポリシーとモダン・スレイブリー・ステートメント

イノセントでは、調達先で労働者の尊厳が守られるよう、人権ポリシーモダン・スレイブリー・ステートメント(直訳だと現代的な奴隷に関する宣言?)を公開ししています。

人権ポリシーでは、「多様性の尊重」「職場の安全性」「児童労働」「強制労働」「労働時間/賃金」など10の項目についてポリシーを説明しており、同意した調達先とのみ取引を行っているといいます。


まとめと所感

B Corpのゼミでイノセントの話題が出たとき「(イノセントの飲料は)なぜペットボトルなのだろう」というコメントが出ていました。その時「たしかに」と思いましたが、調べてみてその答えがわかりました。

すべてのビジネス、というより、人間の活動において、負のインパクトはつきものです。じゃあ、事業をやらなければいいのか(人間が滅びればいいのか)と言ったらそうはならないわけで、可能な限り負のインパクトを減らす努力をし、一方正のインパクトに投資をすることで全体としてのインパクトをプラスに持っていくことが求められています。

イノセントは、その点においてとても誠実に、透明性を持って取り組んでいる会社と言えます。とりわけ、カーボンニュートラルをめがけた振る舞いについては、すべての資料からその本気度が伝わってきます。サステナビリティの面において「これくらいでいいや」ではなく、「もっとできることはないか」と突き詰めていることが伺えます。

また失敗も含めて公開するなど、目標、トライしたことと結果、進捗、これからの改善がわかるような資料になっています。一方で、目標と進捗がひと目でわかるようにはなっていないので、読み込んでいかないと状況を把握しづらいというのが読んでいる側としては大変なところですが、なかなか一言で説明できるものでもない、という事情もわかる気はします。

最後にファイナンス面を少し紹介したいと思いますが、2019年の収益は3,400万ポンド(約51億円、前年比8.6%プラス)、ヨーロッパのチルドジュースカテゴリにおけるマーケットシェアは21%となっています。

また、この2年でビジネスとして大きくスケールしたにもかかわらず2019年のカーボンフットプリントは2017年とほぼ同じであることは誇れることだと述べています。

レポートの中に、以下のようなコメントがありました。

物事をより良いやり方で進めることがワークするということを証明したいなら、ビジネスとしてのスケールも同時に実現しなければならない
大きなビジネスであっても、すべてにおいてgoodであることは、ステークホルダーに報いることになる。もっと多くのビジネスが、人々・地球・収益のバランスを取れるようなモデルを採用するようインスパイアしていきたい

これはすべてのgoodでありたいビジネスにとってお手本となる姿勢かもしれません。

※おことわり※
上記以外にも多数の「いい会社」に関連するトピックがありましたが、長くなりすぎるので割愛しました。
「good all round report 2019」を参考にしています。2020年版が出たらまたアップデートしなきゃ・・・!


アナウンス

#いい会社帳を書いている人↓ サステナビリティとか食とかいい会社についてつぶやいています。この連載についてのフィードバックもお待ちしております。「#いい会社帳」で!

#いい会社帳 の更新を受け取りたいと思ってくださった方は、マガジン「#いい会社帳」およびぬのいのフォローをお願いします。

ここまでお読みいただきありがとうございました!参考になったよっていう方は「スキ」を押していただけると励みになります!

過去回では、ダノン、Aesop、TOMS、illy、ガーディアンなどを取り上げています。興味のある方は上のマガジンからチェックしてください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?