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看護師が撮って出しエンドロール〜カメラの基本〜

スローモーションという武器を手に入れた私達は翌日に控えた結婚式のために各種機器の充電をし、眠りについた。

大きなスクリーンにスローモーションで流れる妹の笑顔と両親の涙。それをみて涙を流す会場の皆様。それを見て感慨にふける兄の私。そんな夢を見るほどではなかったが緊張でなかなか眠れなかった。と言うことも無くハッと気づいたら朝だった。

スーツに袖を通す。「次にこんな白いネクタイを締めるのは自分の子供の結婚式の時かな。」そんなことを考えるようなことは無く、ちゃんとムービーを完成させて流すことが出来るかなぁ位のことを考えて出発した。

会場までは車で50分程。私は従兄弟を車に乗せ今日の打ち合わせをしながら会場に向かった。だが、打ち合わせは全くしなかった。絵コンテは完璧に頭に出来上がっている。と言うことは無く他のことに気を取られていたのだ。

結婚式で兄がスピーチをするのを見たことがあるだろうか。私は無い。兄のスピーチなんてずいぶん出しゃばりな話だ。絶対やりたくない。だが、私は一つスピーチをすることになっている。妹へのサプライズだ。

幼い頃母親が用意してくれたシュークリームを

「おまえは本当はこの家の子じゃ無いから、このシュークリームを食べる権利は無いんだよ。」

泣き叫ぶ妹を尻目に本当に二つのシュークリームを食べるという鬼の所行を成し遂げた私は、20年以上経った今もその事を妹に責められ続けていた。妹は本当にしつこい。父親が黒猫を誤って車で引いてしまった時もそうだっ・・・話が逸れたようだ。とにかく、その日の汚名を晴らすべく、私は出席者全員分のシュークリームを用意しサプライズでプレゼントすることにしたのだ。その際に一言、エピソードの紹介と謝罪のスピーチをすることになっている。人前で話すのは不得手では無いが、なにしろ兄という立場で妹の結婚式でスピーチなど恥ずかしい事この上ない。そのスピーチの内容を従兄弟と練り上げていた。練りに練り上げてもうこれ以上良いスピーチは無い!と確信した頃会場に着いた。そして気がついた。


カメラの電池を忘れてきた!!!


カメラの基本①

出発前に一枚撮りましょう。電池やカードを忘れたりして目的地に着いたら悲惨です。


こんな基本中の基本を忘れるほど私は緊張していたのだ!!

家に戻るには時間がギリギリだ。市内の電機屋に電話をかけまくる。

「妹の結婚式なんです!お願いします。在庫確認してください!」

なんて迷惑な事を言うことも無く淡々と型番を知らせて確認してもらう。無い。次の電機屋へ電話をかける。無い。次の・・・


カメラの基本②

充電器は売ってるけど予備バッテリーは意外と在庫が無い。


家に戻ることにした。本当は妹のメイクシーンや新郎の緊張の面持ち、親族のざわめき、国民のいらだち。色々な絵を撮ろうと思っていたのに計画がパーだ。パー。これなんで「パー」って言うんだろう。後で調べよう。そんなことを考えながら法定速度を確実に守りながら帰路についた。



今日の結婚式は荒れそうだ。漁師の叔父がそんなことを口にしたとかしないとか。いや、していない。「時間よ戻れ」私はそんなことを呟いた。

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