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博士課程、博士研究員(”ポスドク”)ポストへの出願について・・②

先日、「応募要項をよく読んでその理解を示してほしい」という期待を軸に、カバーレター(志願の意を表明する手紙)によくあるネガティブな印象を与え得る記載について述べました(Link)。今回、記したいのは、その先日の内容とも関係する次の三点の二点目です。

1. 応募要項をよく読んでその理解を示してほしい
2. 自身の欠けている点、克服したい点を書いてほしい
3. 私らがどういう研究をしているのか理解とその環境でどういう仕事をしたいのかを示してほしい

先日、書いた内容とはどちらかというと「応募要件を満たしているときにきちっとそれを書いてほしい」という事についてでした。今回は応募要件を満たしていないときの内容です。

応募要件を満たさずに応募していいの?と思われる方もいるかもしれません。基本的に問題ありません。下にも記しましたように、全ての応募要件を満たすのは不可能です。

また先日のNoteからも推察できると思いますが、要件を満たしているかどうか自己判断によるところもあります。志願者本人が要件を満たしていると思っていても、私たちが論外と断することもあるかもしれません。そんな擦違いがあるよりは、どんな要件についても「満たしていないかもしれない」という可能性を前提としてもよいくらいでしょう。

繰り返しになりますが、応募する条件を満たす満たさないはわりとシステマティックに判断するプロセスを私たちはとっています。それについては先日の内容の一部をご覧ください。

今回、記載したいのは次の三点にしてみました。

弱点に触れない事例・・基本的にNG

前回述べたように、栄養疫学領域のポストを得たいと希望するということは、栄養学、疫学、生物統計学、関連するデータベースや解析方法を扱う知識、経験が求められます。栄養疫学に限らず、疫学研究のグループへの志願となると、何かしら特定の研究領域とそれに関する特異的な知識と経験が必要とされることでしょう。そして必要とされるというのは、客観的に判断できる実績が伴っていることが必要ということです。

そうした枠に対して、よくある志願者の例の文書を2例挙げます。

1)Aさんは環境疫学領域の経験が豊富とします(栄養学的知識は怪しい)。こうした方からは次のような文章が頻出します。

「生活習慣病の疫学的な素養については、私は○○や□□という研究を行い論文を発表し期待に沿えるものと考えています。栄養疫学領域に対して△△というような応用ができたらと考えています。」

2)Bさんは栄養学科を卒業して、栄養疫学領域で仕事したいと望む方とします(系統的に疫学の教育は受けていない)。次のような文章によく出会います。

「私は複数の食事の介入研究に携わり、○○や□□という研究をし、さらにそれに関する調査結果の記述疫学分析を行って◇◇に関する論文を発表しました。」

極端に判り易くしているつもりなのですが、程度の差はあっても似たようなケースが多いです。つまりAさんの場合は栄養学領域に関して知識・経験に乏しい様子なのですがそれに全く触れません。Bさんは疫学や生物統計学について系統的に学んでいないことについて全く触れません。ともに満たしていない要件には触れずに、自己アピールできる点だけアピールするという様子です。

読み手の私からすると、

・Aさんは栄養学の重要性を理解できていないのでは?
・Bさんは疫学や生物統計学を系統的に学ぶ重要性を認識できていないのでは?

という疑問に至ります。あるいは重要性を認識しつつも、自分がその要件を満たしていないので自己アピールできる点で覆い隠そうとするように認められます。(極端な解釈のようですが)どちらも嫌ですよね。

何かと自己アピールできることを優先して書いてしまいがちになるかと思いますが、「要件」として用意されている事柄があるからには、真摯にそれぞれに向かい合うことが求められます。うっかりでも無視しないようにしましょう。

理解度の指標になり得る?

前回のNote、および上記の件と要点は一緒です。前回は、要件をどれだけ満たしているか自己判断で、誇張するように表現してしまう例を挙げました。逆に要件を満たしていない事について、「触れなくても問題ない」と自己判断してしまうのは負の材料となるということです。

要件を満たす満たさないの判断について、「疫学の学修・実績を求める」ということについて特に認識のずれをよく感じます。上記の例、Bさんのように「記述疫学の論文を書いた」という業績があったとしましょう。それはそれでもちろんよいのですが、それで「私は疫学の知識・経験は十分豊富です」とは当然いえません。ですが、多くの志願書類で、あたかもそれで十分とみなすかのようなアピールが多いのです。

統計やプログラミングに強い志願者にも多い傾向のように思います。色々な解析方法を知っており万能選手かのように「栄養疫学に応用可能!」という様です。実際に強みにはなるとは思いますが具体性が無いと残念ながら虚勢にしか写りません(註1…最下部)。

「(系統的に学んだこともなく、実績も無いが)私は役に立つ!」と主張しながら、その志願者の学問に対する認識が明白でないと、志願者は意図せずとも特定の学問領域(e.g. 疫学・栄養学)を非常に浅いものと認識しているという印象を与えてしまうことがよくあります。そうした印象を与えることは避けたいですよね。

「疫学の知識・経験を要する」とあるならば幅広い疫学領域に、実績をもって通じていなくてはならないことを意味します(栄養学や生物統計学とは別に独立したもの)。疫学研究には国勢調査から種々の観察研究、介入研究、系統的レビュー、その他政策提言につながるような研究など、多くの種類があります。そしてそれぞれにおいてバイアスや解析方法、応用領域の理解が伴います。また研究の倫理審査を通したり、データを集めたり、データクリーニングしたり、複数のデータベースを扱ったりと(必要とされる)経験も多種多様です。疫学に通ずるというのはこういった経験を積み、客観的な業績をもっていることでしょう。

「実績を含めるとそんなパーフェクトな人いるわけない」と思うかもしれません。実際そのとおりです。言うなれば私たちは非現実的であってもパーフェクトな人材を考えます。そして志願者がそうした人材にどれほど近いかを判断します。そうした方がシステマティックに公正に人材を選抜し易いからです。志願する方にもそんなプロセスに役立つ情報を提供して頂きたいなと思っています。(どんな実績があろうと)志願者がそうした情報を提供できないと、私たちが求める人材を理解していないという判断に至ります。

またこれについてネガティブに考える必要はありません。

けっきょくパーフェクトな人材はいないのですから、志願者が「私は要件を満たしていない」という理解を明示することは、その行為自体が評価に悪影響をもたらすことはありません。どれほどの人材を私たちが求めているか理解した上でそれでも志願してくださっているというのはむしろ好印象です。そうした効果を狙うとよいのではと思っています。

特定の学問領域への精通などについて募集要項を理解する際には、一歩引いてどこまで基準が求められうるのか考えるのがよいでしょう。どんな専門領域でも共通するように分厚いテキスト何冊分かの理解が求められ、博士号取得時でも特定のテーマで論文三報ほどを期待されているものと考え、そこから自身の知識・経験・実績がどれほどなのか客観的に評価してみるのがよいのかと思います。

私たちが一緒に働きたい人とは!

割とドライな印象を与える文章を書いてしまったかと思いますが・・けっきょくのところ私たちは一緒に働きたいと思える人を選びたいのです。

複数の満たして欲しい要件があったとして、

γさん:満たしている要件だけ主張し、その強みを武器に活躍せんと主張する人
θさん:満たしている要件とその可能性について述べ、それに加えて満たしていない要件とその足りていない弱点を把握している人

の2人の志願者がいたとして、どちらと一緒に仕事したいと思うでしょうか。誰でも後者のθさんと仕事したいと思うのではないでしょうか。

学生やポスドクのポジションを求めるということは、まだキャリアとしては何かしらを学ぶ段階です。選ぶ側の人たちはそれを理解しています。未熟な点を把握し、それを前向きな姿勢・意欲の宣言につなげる書き方がよいだろうなと思います。

あからさまであってもそうした文章を構成する技術も評価の対象になるように思います。疫学においても弱点(Limitation)を考慮・明記した上で、自虐的にならずに有意義なエビデンスを紹介する論文を仕上げるわけですから。

今回は以上です。長い文章となりましたがここまで読んでくださって有難うございました。参考にしてもらえれば嬉しいです。

註1)
統計学者に限らず、類稀で私の想像もつかないような経験を持ってして応募してくる方も多くいます。テクニカルな論文などたくさん書いて業績も凄まじいのですが、お断りすることになります。というのは、そういった人は自己アピールは華やかなのですが、私らの研究領域や現行の研究にどう貢献するか明白でなく、想像がつかないからです。私らのグループに所属しても、どう考えても相互にとってハッピーではなさそうなので、「もっとあなたにとってよい環境があると思うのでそちらで頑張ってください。」という意で断ることになります。あるいは、稀に他のグループに報せたりします。ゴリゴリの統計学の志願者であれば、統計学部の教授や特定のグループに「こんな人いるんだけどどう?」というように投げたりします。

トップの画像は https://www.wallpaperflare.com/ より

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