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うたった歌の話を~番外編その2~

30歳ではじめて、ボーカルとしてライブをすることになった会社員の話です。(この企画の過去の記事はこちらです)

友人が紹介してくれたそのお店は、繁華街の雑居ビルの2階にあるバーだった。青白い蛍光灯が照らす階段の踊り場からそのドアを開けると、正面にドラムセットとピアノ、そしてマイクスタンドがあり、オレンジ色の灯りにぼんやりと照らされている。右手に6~7人が座れるカウンター席、左手に15人くらいが座れるソファー席。カウンターの後ろには、お酒の瓶やCDがずらりと並んでいる。

入口近くの壁には、ギタリストのジャンゴ・ラインハルトのポスター。ソファー席の一角の壁には、大きな三日月があしらわれた木製のパネル。広すぎず狭すぎず、ほどよく閉じられた空間といった感じ。

おもに週末の夜、お店ではプロアマさまざまなミュージシャンがライブをし、お客さんはチャージを払い、お酒を飲みツマミを食べながら、音楽を楽しむ。ギタリストであるマスターは、わたしの親より少し下の世代で、大学生のアルバイトさんが時々いたものの、基本は一人でお店を切り盛りしていた。

一日に2~3組が演奏するなかで、アマチュアのボーカルと一緒にマスター自らもギターを弾くことがあった。わたしはそのボーカルに、志願したのだった。

とはいっても、わたしはライブの経験がなかった。ジャズやボサノバといったお洒落な曲も、うたえない。それでもなぜか、営業時間外の店内でマスターとはじめて歌とギターを少し合わせてみた結果、ライブに向けて練習しようということになった。

まずは、何を演奏するかを決めなければいけない。はじめての練習には、CDなどの音源と歌詞をもってくればよいとのことで、わたしは自分がうたってみたいポップスの曲を数曲もっていった。楽譜は、たしかそのときにはもっていなかったと思う。

マスターは、知らない曲でも楽譜があれば音源を聞きながらすぐに弾きはじめる。楽譜がなければ音源を聞きながら、歌詞が書かれた紙にそのコードを書き込んでいき、ギターを弾いてみて修正していく。耳で音を取ることができるって、本当にすごい。

そしてわたしが、そのギターに合わせてうたってみる。キーが高すぎたり低すぎたりすれば、その場でほどよいキーに変更して試してみて、いけそうだねというキーの譜面を、次の練習までに起こしてきてくれたのだった。

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