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人材の新陳代謝;次の世代を育てること・若い世代とつながること

少子高齢化による生産年齢人口の減少や、働き方の多様化などから、社会の至るところで「人材不足」が指摘されています。多くのスポーツ団体組織も同じです。引き継ぐ人が足りない。

私が長く関わる、栃木の陸上競技界も例外ではありません。前回国体=1980年「栃の葉国体」において大会審判として従事された方々が、42年後となる 2022年「いちご一会」でも多数ご健在であり、大いに活躍されました。裏を返すと後継者が不足しており、固定メンバーが長年にわたり同じ業務を担い続けてきた…という状況にあります。

この記事では「支える立場となる人材を育てて増やすこと」をテーマに、私の身の回りで起きていることと、これからの見通しなどについて記してみます。

古い組織と若い世代のすれ違い

多くの地方スポーツ団体は、基本的にボランティア・ベースで成り立っています。そして長い年月を経て築き上げられた「慣習」「しきたり」に基づき、いわゆる「古い体質」によって活動を展開しています。

これらの組織が従来と同じやり方・考え方で、支える立場の人材を集めようとしても非常に困難です。若い世代は他の世代に比べ「世の中に貢献したい」「役に立ちたい」と願う割合が高いといわれます。一方で、旧態依然とした体質・体制の組織からは、どんどん離れるようになっています。

例えば自治会活動やPTA活動といった任意団体組織は、全国各地でその活動が停滞するようになって久しいところです。地縁や人脈を頼りにした共助の取組は、もはや社会になじまないものになっています。そして古い考え方や慣習を続けようとしている組織に対して、若い世代は近寄りません

栃木県内には、一般財団法人栃木陸上競技協会(以下「栃木陸協」とする)傘下となる地域陸協・クラブが14団体ありますが、若い世代が加入する例は限定的です。意欲ある地域人材の多くは、残念ながらこれらの団体から距離を置き、気が合う仲間うちで活動しようと、新たな任意団体を立ち上げるようになっています。

人材の停滞から組織の衰退へ

本来は、次の人材がいなければ、育てなければならないはず。種を蒔き、水と肥料を与えないところに芽が育つ訳がありません。ところが地方スポーツ団体の多くでは、新たな考え方や手法を用いて人を集めよう・育てようという取組が効果的に展開される様子は、あまりうかがうことができません

スポーツ団体に関わる役員の多くは、学校の教員・元教員や、行政職員・団体職員、あるいはそれらの元職員などで占められています。これらの組織では、経営の善し悪しにかかわらず人材と予算が保障されています。関係者は「組織を豊かにするために人と金をどのように工面するか」という苦労を経験することなく、年月を過ごします。

さらにキャリアや立場、考え方などが似た、同質性の高いメンバー構成である場合が多いため、思考の広がりが持てないことも特徴です。そのため誰もが「このままでは良くない」「変えた方が良い」「変わらなければいけない」と感じつつ、「正常性バイアス」から誰も言い出さず、物事を変えること無く昔ながらの慣習を続けます。

一方で、誰かがこれまでに無い新たな手法で何らかの取組を展開しようにも、組織の自浄作用として「異質な」意見は淘汰されます。前例が無い、経験が無いことに取り組むことは避けられます。

結果として(典型的なパターンの一例として)、「古い組織」に「経営感覚に乏しい」メンバーが集い、いつまでも同じ顔ぶれで運営を続けることとなり、「人材の停滞」から「組織の衰退」へと進むようになります

ところで、栃木陸協傘下となる地域陸協・クラブ14団体の代表は、栃木陸協の理事などとして「栃木の陸上競技界の舵取り役」を担うこととなります。若手世代が仲間うちでつくる任意団体の代表が、栃木陸協の運営に関わることは一切ありません。その結果として、世代間の分断と意識の乖離がどんどん広がっているという状況があり、好ましくないものといえます。

ボランティアを公募すること

若い世代による「世の中に貢献したい」「役に立ちたい」と願う気持ちを、地方スポーツ団体を豊かにするエネルギーとして取り込めないものでしょうか。その導入として容易に思いつくものとしては、大会運営ボランティアを公募するなどといった方法があると思います。

ボランティアの公募については、プロスポーツチームの取組として常識的・恒常的に展開しています。また、任意団体により定期開催されるトラックレースやロードレースなどでも、ボランティアを公募している様子がうかがえます。

栃木の陸上競技界では、一般のボランティア募集については否定的な傾向があります。知らない人に関わってもらうと、かえって気を遣うことになりかねないため、「扱いやすいから」と、高校生補助員の動員で諸業務をまかないがちです。

教育活動・慈善活動としての名目のもと、高校生や大学生を大会等の補助員として動員することは、一時的な利便を得る上では有効でしょう。しかし生徒・学生は卒業すると一律に競技から離れてしまい、定着することがありません。今後も少子化が進み、生徒の数は減り続けます。そうした状況を踏まえると、学生補助員に代わる、意欲ある地域人材を新たに発掘・育成し、将来的には諸部門の主力として活動してもらえるよう、一定の時間とお金をかけて組織を膨らませていくことが望ましいといえるでしょう。

仕掛け方は、いろいろあるはずです… 思いつくまま、以下に陸上競技協会・クラブ等におけるサポートメンバー公募の例を示してみます。

  1. HP・SNS・キャンペーン動画を活用した広報「年間サポートメンバー(仮称)の募集」を行う

  2. 募集の際には、具体的な業務内容、募集人数を明示

  3. 対象メンバーはxx歳未満とし、元競技者・保護者・競技愛好者などを想定

  4. Googleフォーム等で公募・募集;紙媒体は使わない(紙媒体しか使えないという方はメンバーとして有用ではないため)

  5. 希望するメンバーには年間要項集・記録集・広報誌を提供

  6. 大会ボランティア参加に際して、審判手当に準ずる交通費手当を支給

  7. 大会リザルトに(任意で)、参加したサポートメンバーの氏名・所属をクレジットする(大会役員・審判もクレジットする)

  8. メンバーは、1年あたり5日間以上のサポート・ボランティアを行うと、翌年度の審判講習会を無料で受けることができる(ほかにも多数の特典を用意) …など。

いつまでも学校の先生と補助員生徒で、スポーツ団体の組織経営・事業運営を続けていこうとするのは限界があります。昔に比べ、選手の登録料・参加料は大幅に高額になっており、運営組織の収益は大きなものとなっています。その収入の一部を、将来の人材確保に向けた投資に利用するのは、非常に理にかなうものであるはず…と思います。

「世の中に貢献したい」「役に立ちたい」「選手生活を終えたけれど陸上競技に関わり続けたい」と願う若い世代と上手にコンタクトをとることと、そうした方々がモチベーションを高める工夫を講じることで、陸上競技の振興に関してより良い未来を導けるようになることを期待しています。

結びに

学連登録をして、陸上競技に取り組む大学生の多くが、審判資格を取得します。しかし卒業後も資格を継続し、栃木で審判を続けてくださる方は(教員を除き)非常に限定的…というより皆無です。それを「仕方が無いこと」と諦めるのでは無く、ひと工夫を凝らし流れを変えるだけでも、未来はまったく変わるはずです。

例えば、高校卒業直後すぐに審判資格をとった方や、大学卒業後に審判資格を継続する方については、その後に毎年審判業務に従事してくださる場合に限り、30歳まで審判登録料を無料とする(あるいはキャッシュバック)。審判継続3年ごとに、何らかのボーナスを授与する… など、仕掛けはいろいろあると思います。そうしたアイデアを採用できる組織が、先細りしがちな地方のスポーツ団体の中で、生きながらえることができるのではないかと考えます。