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大河ドラマ『光る君へ』の源氏物語オマージュを解説する(第1~3話)

見てますか、大河ドラマ!!!! 『光る君へ』!!!!

私はもう第一話を見ただけでこのドラマと共に今年は生きていこう……と決意を固めるくらい好みのドラマで、見ていない方はいますぐ見てくれと肩を揺さぶりたい所存であります。面白いよ今年の大河は!!!!!!

さて、『光る君へ』は紫式部の人生を描いたドラマです。で、紫式部といえば『源氏物語』の作者。そして『光る君へ』においては、『源氏物語』をオマージュした場面が、(たぶん)一話につき一エピソード出てくるのです……!!!!

紫式部の人生と、『源氏物語』のエピソードがオーバーラップしながら進んでいく……という構成になっています。というわけで古典オタクとしては『源氏物語』解説をしたくなるのです!! そういうものなんですよオタクっていうのは!!! 



第一話 若紫

紫式部もとい「まひろ」ちゃんの幼少期が描かれた第一話。まひろちゃんは雀を飼っていたのですが、その雀が逃げてしまった、という場面が描かれます。そして逃げた雀を探しているときに――幼い藤原道長と出会うのでした。

そう!!! 逃げた雀が、まひろと道長と出会いのきっかけ!!! これはそのまま、紫の上と光源氏の出会いのきっかけのエピソードなのです!!!

「小鳥を犬君(いぬき)が逃がしちゃったの。伏籠のなかで飼っていたのに……」

と、少女が口惜しそうしている。女房は、

「まーたあのクソガキの仕業か! なんであの犬君は叱られることをやるのかね! 小鳥はどこに行っちゃったのかねえ、やっと可愛くなったとこだったのに……鳥に見つかったら食べられちゃうわ」

と言って、立って探し始めた。彼女は髪の長い素敵な感じの女性だった。
「少納言の乳母ってこの人のことか」と光源氏は思った。どうやら少女を世話しているらしい。


〈原文〉
「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠ふせごのうちに籠めたりつるものを」
とて、いと口惜しと思へり。このゐたる大人、「例の、心なしの、かかるわざをして、さいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へかまかりぬる。いとをかしう、やうやうなりつるものを。烏などもこそ見つくれ」とて、立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。少納言の乳母とこそ人言ふめるは、この子の後見うしろみなるべし。
(「若紫」『新編 日本古典文学全集20・源氏物語(1)』小学館、現代語訳は筆者による。以下同じ)

ここでは若紫よりも乳母に目を奪われてそうな光源氏……おい……。

しかし小鳥が逃げて悲しむ様子を出会いのはじまりにする、ってかなりハイセンスですよね。現代の少女漫画にもありそうな感性だ。ちなみにこの後光源氏は、幼い若紫にちゃんと(?)目を奪われているので安心してください。

若紫の顔は美少女だったが、眉はまだぼさぼさで、まだ伸びきっていない前髪はあどけない。
「可愛いなあ、でも大人になるにつれてもっと美しくなるタイプだろうな」と、光源氏は彼女の成人した姿を想像する。
すると、分かった。なぜ私がこの子に惹かれているのか。
愛する藤壺様によく似ているからだ。
――その瞬間、光源氏の頬に涙が伝った。
紫の上の世話をしている尼君は、彼女の髪を撫でながら

「髪をとくのが嫌なのですか? こんなに美しい髪なのに。それにしても、私はあなたが子供っぽすぎて、心配ですよ。あなたくらいの年齢になればもっと大人っぽいものですよ。亡くなったあなたのお母様は、12歳で父親と別れていたけれど既に物分かりのいい大人でした。私がいなくなった時、あなたはどうするのかと心配で心配で」

と泣いている。光源氏はその風景を覗き見しながら、切なくなった。
紫の上も、幼いながらも、さすがにじっと尼君の顔を眺めていた。そして俯いた。
そのとき横顔にさらりとこぼれた髪が、光源氏にはとても美しく見えた。

〈原文〉
つらつきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。ねびゆかむさま ゆかしき人かなと、目とまりたまふ。さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけりと、思ふにも涙ぞ落つる。
尼君、髪をかき撫でつつ、「梳けづることをうるさがりたまへど、をかしの御髪や。いとはかなうものしたまふこそ、あはれにうしろめたけれ。かばかりになれば、いとかからぬ人もあるものを。故姫君は、十ばかりにて殿に後れたまひしほど、いみじうものは思ひ知りたまへりしぞかし。ただ今、おのれ見捨てたてまつらば、いかで世におはせむとすらむ」とて、いみじく泣くを見たまふも、すずろに悲し。幼心地にもさすがにうちまもりて、伏目になりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪、つやつやとめでたう見ゆ。(「若紫」)

若紫の描写には紫式部も力をいれまくりですが、今となっては完全に落井美結子さんで脳内実写化されます!!!! あの子役さん本当に本当に上手でしたね……! 

https://www.nhk.jp/p/hikarukimie/ts/1YM111N6KW/blog/bl/p8na9PYYwM/bp/p5rro8eQp5/

ひい、美人。


第二話 夕顔

成長したまひろちゃんは、恋文の代筆業に熱中していました。で、彼女が詠んでいたのが、「夕顔を一緒に見た」というエピソードから考え付いた、こんな歌。

「寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔」

これもまた、『源氏物語』の「夕顔」の帖に出てくる和歌です。

夕顔は階級も低く、ふつうなら光源氏と出会わないような低い身分の女性なのですが、「光源氏がたまたま通った道で、一軒だけ白い夕顔がきれいに咲いている家があり、その家に近寄ってみたら美しい女性がいた」という出会いから、ふたりの恋が始まります。

「間違ってるかもしれませんが、あなたは花の名を知りたいのではありませんか? この花は、夕顔という名です。いまは、あなたに見られて露が光っていますけれど」

その和歌は、楚々とした雰囲気の筆跡で綴られていて、上品で、そしてなにより教養が透けて見えた。光源氏は「なんだか想像よりセンスのいい女性じゃないか」とときめいた。

(中略)

いつもの通り、光源氏は女性のこととなると急にフットワークがが軽くなる。彼は、わざと自分からの手紙であることが分からないような筆跡で、懐紙に和歌を綴った。

「近く寄って、私と会ってみませんか? 黄昏時にぼうっと見えた夕顔の花を確かめるように……」

と書き、いつもの部下に手紙を持って行ってもらった。



「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」
そこはかとなく書き紛らはしたるも、あてはかにゆゑづきたれば、いと思ひのほかにをかしうおぼえたまふ。
(中略)
例の、この方には重からぬ御心なめるかし。御畳紙にいたうあらぬさまに書き変へたまひて、
「寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔」
ありつる御随身して遣はす。
(「夕顔」)

そう、「寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔」はだいぶ恋愛上手な男の歌……。ねえまひろちゃん、あのラブレター依頼してきた男性の雰囲気に、全然あわないんじゃない……?

というわけでこの時代はまだ和歌上手ではなかったであろうまひろちゃん。彼は和歌ではなく自分の言葉で恋を実らせていましたね! よかったね! 晴れてまひろちゃんは『源氏物語』のネタにもできたわけですし、双方winwinですね。

ちなみにどうでもいいですが私は文学部にいた頃、国文学科の先輩が「すずらんの花を添えた和歌をラブレターでもらった」という話を聞きました。……先輩、雅すぎませんか……? しかし詩や歌をラブレターでもらうのは文学部あるあるです。まわりではしばしば聞きました。や、和歌はあんまり聞いたことないけど。歌詞やラップならよくある。


第三話 帚木

まだ放送されていないですが、予告を見る限り、きっと、これがある……!

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