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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が令和のムラ社会コンテンツとして傑作である理由

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が傑作だった。鬼太郎の父(=目玉親父)の過去を描いたスピンオフである。

私は『ゲゲゲの鬼太郎』はほぼ見たことがないし(すいません……)、水木しげるのことは『ゲゲゲの女房』ではじめてちゃんと知ったくらいで(ほんとすいません……)、今回もやたら評判がいいので見に行くか~と公開から一か月経って見に行ったくらいの「ゲゲゲ」習得度である。が、そんな私でもとても面白かった。ぜひみなさん前情報なしに見に行ってください。とくに基本情報なくても面白いはず。

さてそんな『鬼太郎誕生』、何が面白いのかといえば、「ムラ社会コンテンツの更新」を果たしていたところだ。


1.ムラ社会コンテンツとは何か

そもそもムラ社会コンテンツというものがこの国にはある。

「ムラ社会コンテンツ」とは何か。それは「島国である日本のムラ社会がもつ閉塞感を描き出すことで、”本当に日本の田舎って閉鎖的で排他的で嫌だよね、怖いよね!!”と確認する」作品である。よくあるやつだ。

こういうムラ社会コンテンツは、基本的には「ムラVS都会」あるいは「日本組織の閉鎖性VS西洋近代社会の自由」に対比されることが多い。つまり「田舎は閉鎖的で自由がない」のに対し、「都会は近代的で自由がある」という対比だ。

最近だと、鳥トマトさんの『破戒!令和因習村』『東京最低最悪最高!』がムラ社会コンテンツとしてSNSで話題になっていた。

『犬神家の一族』やら『TRICK』やら『砂時計』やら、日本のムラ社会コンテンツは永遠に生み出され続けている。

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解説もたくさんある。

こういう話のポイントは「都会は自由で、ムラは不自由」という対比にある。


2.『鬼太郎誕生』が果たした、ムラ社会コンテンツの更新

実際、『鬼太郎誕生』は途中までこのフォーマットに沿って進む。

都会から来た垢ぬけた主人公こと水木は、村人たちが住む田舎の閉塞感に驚く。血縁ですべてが決まり、因習がルールとなる社会。日本のムラ社会コンテンツのセオリー通り、都会の自由にあこがれる少女・沙代は「こんなムラ、もう出たい」と水木に伝える。

しかし『鬼太郎誕生』の面白いところは、「ムラ社会の閉塞感って怖いね!」で終わらないところにある。

~注:ここから先ネタバレです!~

舞台となる哭倉村は、実はある麻薬「M」によって潤っていたことが判明する。「M」とは、第二次世界大戦から高度経済成長期にかけて、戦い働く男性たちの疲れを麻痺させる薬だった。哭倉村を支配する龍賀製薬は、「M」を売ることによって財を築いたのだ。

第二次世界大戦の日本軍も、高度経済成長期の日本企業も、「M」によって、男性たちに無限の労働を課した。そして「M」によって稼いだお金で、哭倉村を龍賀製薬は支配し、その閉鎖性を保つことができていたのだ。

要は「ムラ社会を作り上げたのは、都会の近代的な商売でした」というオチなのである。

つまりムラ社会の閉鎖性は、田舎の人々がつくりあげたものではなく、都会の近代的な資本主義がつくりあげた結果でしかなかった。「どんどん働け」「どんどん成長しろ」「人材を大切にせずにどんどん企業は成長しろ」「どんどん特攻させて使えないやつは自爆させておけばいいんだ」という日本の近代的な欲望こそが、哭倉村の正体だった。――その欲望が最終的には妖怪となって現れていたのだ。

ムラ社会コンテンツといえば、これまで「都会に出れば自由になれる」ことを前提としてつくられていた。しかし『鬼太郎誕生』の場合、沙代は言う。「自由なんてどこにもないことを知っていた」と。つまり『鬼太郎誕生』は「私たちは都会も田舎も等しく同じ呪いのなかにある、日本社会が人を大切にしないで成長しようとする限り、妖怪は生まれ続けるのだ」というテーマを私たちに突き付ける。日本軍も日本企業も、都会も田舎も、本質はそう変わらない。田舎だからムラ社会的で閉鎖的だなんてことはない。

一見ムラ社会コンテンツに見せて、「実は都会に住むあなたたちも同じなんですよ」というオチを展開する。そこに私は「おお、ムラ社会コンテンツの更新だ……」と感動したのだった。

実際、水木しげる先生は資本主義的な欲望を嫌う人だったらしい。だからこそこのテーマは「水木しげるの生誕100周年記念作品」としてよくできた物語だなあ、と思ったのだった。


3.10年後、ムラ社会コンテンツは残っているのだろうか?

しかし個人的には、『鬼太郎誕生』は皮肉な作品だなあ、と思っている。

現代の日本も哭倉村と同じ構造にある。

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