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岡崎から視る「どうする家康」#19国会での「鎖国」関連質問を考える

「どうする家康」はNHKでの放映なので国会の総務委員会でも取り上げられます。片山さつき議員の国会での質問が面白く、いろいろ考える材料でもあるので書いてみたいと思います。

片山さつき参議院議員の総務委員会での質問

「どうする家康」放映前の2022年3月に片山さつき議員が参議院総務委員会で質問しています。地元の観光振興関連は前稿ご参照下さい。

○片山さつき君 次に、NHKの看板でございます、予算にも計上されておりますが、来年の大河ドラマは「どうする家康」なんですね。この家康を描くということは日本の近代の歴史の前提を描くということですから、ほかの武将と意味が違うと思うんですが、何回も今までやられておりますけれどもね。(中略)今の一問目との関係で、どのように描かれるかは非常に機微があると思います。特に、1605年以降1616年まで、事実上、家康が仕切っていた第二代将軍の時代ですけれども、この時代に日本は段階を終えて鎖国し、キリスト教の布教をやめさせるわけですよ。ここの本当の真意ですとか経緯は明らかにはなってないんですけれども、どう描かれるかによっては国際的な影響も非常に大きいですから、その部分も含めまして、会長のこの「どうする家康」にどうするという部分をお伺いしたいと思います。

○参考人(前田晃伸君)(お役所答弁で全く面白くないので略)

○片山さつき君 この日本の鎖国の経緯について、後世、カントがですね、後の平和のためには意義があることだったという評価をしている、まあ余りそれを日本人は知らないわけですけれども。いずれにしても、微妙な問題もありますが、NHKの看板番組としてふさわしい、姿勢の評価されるものとなっていただきたいと期待をしております。

第208回国会参議院総務委員会第6号令和4年3月29日

カントと「鎖国」について

この片山氏のカントや鎖国の話は、カントの『永遠平和のために』で出てくるところです。なかなか興味深いツッコミです。

この本の中でカントは日本の鎖国を「賢明であった」と評価しています。該当する部分を簡単にまとめると以下の通りです。

●我々の大陸の文明化された諸国家、特に商業活動の盛んな諸国家の非友好的な態度をみると、彼らが他の土地や他の民族を訪問する際に(訪問することは彼らにとってそこ征服すると同じ意味するが)示す不正は驚くべき程度に達している。
●米国、黒人地方、香料諸島、喜望峰等は、それらが発見された時、彼らにとっては誰にも属さない地であるかの様であったが、それは彼等が住民を無に等しいとみなしたから。
●東インドでは、彼らは商業支店を設けるだけだという口実の下に、軍隊を導入した。それとともに原住民を圧迫し、その地の諸国家を扇動して、広範な範囲に及ぶ戦争を起こし、餓え、反乱、裏切りその他人類を苦しめるあらゆる災厄を嘆く声が数えたてるような悪事を持ち込んだ。
●それゆえ中国と日本はこれらの来訪者を試した後で、次の措置をとったのは賢明であった(として鎖国について記述)

『永遠平和のために』まとめ

ついでにカントの『永遠平和のために』についてはNHKの「100分de名著」で萱野稔人氏がレクしてます。たまたまですが岡崎市出身美川中OB。

私から言わせればカントの『永遠平和のために』は、頭がお花畑の「九条信者のバイブル」と誤解されても困ります。なお、カントの女性論や人種論は現在絶対に地上波では絶対に放映できない内容であることは付け加えておきます。

さて、カントの日本についての情報は、ケンペルの『日本誌』によってもたらされたものです。ケンペルは元禄年間の1691年~-1692年の2年間日本長崎に滞在し、江戸に来て将軍綱吉にも謁見しています。この経緯は小堀桂一郎先生の『鎖国の思想』に詳しく述べられています。

ケンペルの『日本誌』は志筑忠雄(宝暦10年(1760年)~ 文化3年(1806年))によって、日本で「鎖国論」として受容されています。

さらに17世紀初の国際環境とキリスト教について。八幡和郎氏はカトリック大名を大河でやりにくい事情を指摘しています。これは同感です。

片山氏が質問で「微妙」としていますが、「17世紀初カトリック禁教、『鎖国』の経緯」のドラマの描き方で外国からどう見られるかという意識がある点は鋭い政治感覚と思います。

実際ドラマの終盤は「どうするNHK」

戦国「西欧の衝撃」の難しさと捉えなおし

ドラマとしては終盤に当たるこの時期の事情は複雑です。「西欧」に日本が初めて直面した時期の世界史と日本史の関係があるからです。

①カトリックとプロテスタントの抗争が東アジアにも波及の側面
日本の戦国時代は西欧ではカトリックとプロテスタントの抗争が主な戦争でした。これだけあります。
シュマルカルデン戦争(1546-1547)神聖ローマ帝国内でカトリック教会を支持する神聖ローマ皇帝カール5世とプロテスタント勢力(シュマルカルデン同盟)の戦争
ユグノー戦争(1562-1598)フランスのカトリックとプロテスタントが休戦を挟んで8回40年近くにわたり戦った内戦
八十年戦争・オランダ独立戦争(1568-1648)ネーデルラント諸州がスペインに対して起こした反乱。これをきっかけに後のオランダが誕生。

大坂の陣でカトリックが豊臣に味方し影響している側面をどうとらえるかはドラマでどう難しいところがあります。「日本史の解説」が「日本しか見ていない解説」だった点から最近は見直しが進んでいます。

②当時の日本でカトリックは何をしたのか
カトリック史の研究は上智大学などカトリック系大学の先生方が主にやってこられました。ただそれですとカトリックに不都合な日本人奴隷を売り飛ばした歴史は余り触れたがらなくなるのは当然です。この日本人奴隷の話をドラマでどう描くのか。これがないと禁教令の説明できませんがドラマでの放映ができるかどうか、微妙な感じもします。

さらに、黒人侍「弥助」もいました。映画「レジェンド&バタフライ」では登場し、手拭いで肌を拭かせる「きわどい」シーンもありました(歴史書には出てくるので創作とも言えない)。

日本が鉄砲保有世界一の軍事大国だった事情
スペインポルトガルオランダともに日本に攻め込めなかった事情は日本が軍事大国でもあった事情があります。

ただ、軍事に関しての研究には戦後の「軍事タブー」による障害も少なからず影響しています。「軍事革命」をどうとらえるか重要なポイントです。

④東アジア動乱(朝鮮出兵など)との関連
朝鮮出兵の動機は今も論争になります。韓国が絡んでいるとすぐに「侵略」だのバカバカしい本を見ますが本質的ではありません。朝鮮出兵は東アジアの全体から、西欧の影響まで大きく見る必要があります。ただ、これがNHKとしてはドラマでやりにくい事情は理解はできます。

NHKスペシャルでもこれらについてまとめられています。ドラマでどう反映させるのか注目です。

西尾幹二先生『戦争史観の転換』

なお、私としてはあくまで「日本から見た」観点を強調したい点もあります。西尾幹二先生の著作が参考になります。西欧とどう向き合うのか、というテーマに初めて直面したのが戦国時代です。

また、宗教が昨今の「騒ぎ」で触りにくくなっています。

今回の「どうする家康」でも私は宗教と言うことで三河一向一揆の扱いが難しい、と放映前に指摘しましたが、想定内の「流し打ち」です。

パワーポリティックスの現実と向き合った戦国日本

特に宗教やアジア諸国が絡むとNHKでは非常に放映しにくい事情があるのが問題なところです。片山氏の質問はこれらも踏まえた上での質問の趣旨と思います。

「日本が世界との対決」が16世紀以来歴史として連続してあったのに、江戸時代の「徳川の平和」が中間に入っていたことで、「世界で冷厳なパワーポリティックスが継続してた事実を考えなかった日本人の盲点」と言えるのではないでしょうか。

「徳川の平和(Pax Tokugawana)」の原点の岡崎から視ても、それを考える契機になればと思います。


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