友達の友達がね…という少し怖い話③

 怖い話というと、枕詞のように「友達の友達の話なんだけどさ」とつくのが多い。「友達のお兄さんの友達がね」とか、「友達の友達の親戚の話なんだけど」というのもある。要するに、ちょっと遠いところからの伝聞であるということだ。誰なのか、正確にはわからない。しかし、遠いながらも自分とつながっているというところがミソだ。そこに適度なリアリティがある。
 で、大学時代の先輩の友達の話である。
 男ばかり数人で、仲間のひとりの下宿に集まった。今時のワンルームマンションではない。4畳半よりは広かったかもしれないが、小さな和室と押し入れ、流し台にはかろうじて給湯器がついている、というような昭和の下宿である。その狭い部屋に男ばかり五、六人、暑苦しく集まってわいわい酒を飲んでいた。昨今の若者はあまり酒を飲まないらしいが、昭和の学生(とくに都の西北あたり)は実によく飲んだ。しかも飲みっぷりに品がなかった。酒はビールと安い焼酎。まだコンビニも少なかったので、たいしたツマミもない。わずかばかりの乾きものだけを肴にひたすら飲み、歌うわ、怒鳴るわ、暴れるわ、泥酔して寝落ちするまで乱痴気騒ぎは終わらないのである。
 その晩も、おおいに羽目を外して騒いでいたらしい。窓があいていたというから、春か秋の、夜風が心地よい季節だったのだろう。夜更けに響き渡る、野太い男どもの笑い声。とんでもない近所迷惑である。あまりのうるささに、たまりかねた近所の人が怒鳴り込んできたのも当然である。 
開いていた窓から、
「あんたたち、いいかげんにしなさい!」
と、怒号が飛んできた。見ると、赤ん坊を背負った中年の女性が、目を吊り上げてにらんでいたという。赤ん坊を起こしてしまったに違いない。阿呆学生たちもさすがに反省した。
「すみません! すみません! 静かにします」
 平謝りに謝り、電気を消して就寝した。
 翌朝、目を覚ました「先輩の友達」は、窓を見て愕然とした。そこはアパートの3階。窓の外にはベランダも何もなく、人が立てる場所などなかったのである。
 酔ってたんだろう、と言えばそれまでである。しかしその「友達」は、その後誰かの下宿で騒ぐのは控えるようになり、酒を飲むときは居酒屋であっても、ときおり窓の外を確かめるようになったそうだ。


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