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白子の至福

寒い時においしいのが、北の海にいる魚。魚卵も白子も大変美味。ご存じだとは思いますが、白子というのは魚の精巣ですから、雄にしかありません。鯵をさばいていると白子がある時があります。これもそれなりに、白子として楽しめますが、一口もないです。一瞬の出来事でなくなってしまいます。

鱈の白子は他の魚の白子と違って、何故かプリーツを寄せたような姿です。そのせいなのか実家のある宮城では、鱈の白子をキクと言っていました。このキクと長ネギ、豆腐をいれたお吸い物が、大好物でした。冬になると母にねだって作ってもらったものです。口の中に広がる濃厚なねっとりした食感と風味、合間に食べる豆腐で口直し、長ネギが生臭さを消す、というどの具材もいい仕事をしている逸品です。

白子ポン酢も大好きですが、ぷりぷりした白子でないと作る氣にはなりません。ラップの下で潰れているように見えるのは、使いたくないので。

白子は蛋白質なので、加熱すると固くなります。白子のねっとりとした食感を楽しむためには、火の通し過ぎは禁物です。生でも口に入れた時に氣持ちがよくないので、火の通し加減が大切です。今思い出しても母の作ってくれたキクのお吸い物は、いつも火加減が見事でした。

結婚してから「好きなら食べたら。俺は嫌いだから、食べないけど」と言われたので、なかなか白子を買えませんでした。こちらの好みを尊重しているように見えるけど、別に何か作らなくてはいけない訳ですし、実は「えー、そんなの買うんだ。俺は嫌いと言ったよね」というプレッシャーを感じますし。

相手が単身赴任中の今、我慢は不要です!!まず、白子ポン酢。翌日はお吸い物か、麻婆豆腐。この麻婆豆腐、美味しいのですよ。以前赤坂四川飯店で食べたのですが、豆腐の代わりに、白子を使うという贅沢なものです。作り方は、普通の麻婆豆腐とほぼ同じです。ただ、加熱しすぎてはいけません。ご飯のお供にもいいけれど、ビールの方が合うように思います。

肉食の伝統のある欧米の人々が、牛や豚を内蔵のはて迄使い切るように、魚を食べ続けてきた日本は、魚を使い切る伝統があります。スーパーに並ぶ切り身の魚しか食べないのでは、そういう伝統に触れる機会がありません。子供の頃に食べたことがないものを、大人になって食べても受け入れられなくなってしまう人もいます。食歴と言うのですが、今までどういう物を食べてきたか、がその人のその後の人生の嗜好をつくるのだそうです。

カニ味噌は、茹でたカニを割った時に食べるものが最高です。缶詰になったいるカニ味噌は、茹でたカニの中のものとは味が違います。塩引き鮭の頭の軟骨を薄切りにした氷頭を加えた、氷頭なますも酒のあてにはぴったりです。鮭の頭や骨から出汁がでた三平汁は、冬に体を温めてくれる汁物です。

今、短時間で手間いらずに作れる料理ばかり脚光を浴びていますが、すべての素材を大切にした伝統料理を、絶やすことなく伝えてゆくことも大切だと思います。時間のある時は、ひと手間かけた料理をするというのも、楽しいものではないですか。


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