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侵略するライト文芸と嘘の庭

大阪大学感傷マゾ研究会のペシミ氏が提唱する「ブルーライト文芸」が話題になっている。
ブルーライト文芸とは、スターツ出版文庫に代表されるキラキラしたエモいイラスト表紙の、「難病」「田舎」「恋愛」などを題材としたライト文芸のことと定義されている。
記事内で阪大感傷マゾ研究会のペシミ氏は「今のライトノベルは、中高生に売ることを諦めているように感じます。タイトルもセンシティブで、学校では読めないものも多い。(中略)ライトノベルが吸収できない層をライト文芸が吸収している側面はあって、中高生が自分に共感できるものを求めていった結果、ライト文芸が盛り上がりつつあるのではないかと思います。」と語っているが、実際のところライト文芸/ブルーライト文芸的作品のライトノベルレーベルからの発売は精力的になりつつある。
代表的な例としてはガガガ文庫がある。
アニメが海外では高い評価を得た『夏のトンネル、さよならの出口』の大ヒットを機に、『わたしはあなたの涙になりたい』『サマータイム・アイスバーグ』など(公言されていないが)新人賞にブルーライト文芸的作品を入れる枠が設立され、『冬にそむく』『ミモザの告白』などライト文芸色の強い青春恋愛ものがだいたい隔月ペースで出ている。
中でも『わたしはあなたの涙になりたい』は、アンチライト文芸とも取れる作風で書き手・読み手に衝撃を与えた。
新人賞においては、ガガガ文庫やライト文芸との合同である電撃大賞以外でも、GA文庫の『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』『嘘つきリップは恋で崩れる』やオーバーラップ文庫の『これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。』、スニーカー文庫の『僕らは『読み』を間違える』、MF文庫Jの『青を欺く』といったブルーライト文芸的な青春恋愛ものが同時多発的に受賞している。
ただ、このような作品群が新人賞に多く集中する一方、それ以外になるとガックリ減ってしまう現状もあり、読者の高齢化が進むラノベ業界において中高生の再獲得に向けた戦略的なものとして捉えるべきかもしれない。

こうした作品群が「ライト文芸レーベルのブルーライト文芸からの影響」というライト文芸からの「侵略」によってもたらされたものだとは言えない。
そもそも「田舎」「難病」「恋愛」といった青春恋愛ものの命脈はライトノベル内にゼロ年代から存在(もっと言えばその前にKeyのギャルゲーや少女小説や、サナトリウム文学があるが)しているからだ。
ゼロ年代においては『半分の月がのぼる空』『荒野』『侵略する少女と嘘の庭』といったまさにそういった青春恋愛ものが頭角を表し、桜庭一樹や橋本紡といった書き手が一般文芸へと「越境」する契機ともなった。
ライト文芸というジャンルが勃興した10年代においては、こうした流れはファミ通文庫ネクスト、MFアペンドライン、講談社ラノベ文庫の白背枠などに受け継がれ、本流ラノベレーベルとは「隔離」されてしまうが、一方で江波光則や石川博品らの書く青春恋愛作品はマニア層からカルト的支持を集めるようになった。
また、ガガガ文庫の『やはり俺の青春ラブコメは間違っている(以下『俺ガイル』)』に代表されるビターな作風のラブコメディや米澤穂信の古典部シリーズなどの日常の謎学園ミステリの影響がライトノベル/ライト文芸の書き手に浸透しだしたのもこの頃であろう。
たとえば、『夏のトンネル、さよならの出口』の八目迷は『俺ガイル』の作者である渡航からの影響を公言している。

こうしてみるとブルーライト文芸の成立と発展はケータイ小説のライト文芸への影響のみでは語れず、元々ライトノベルにあった青春恋愛もの/学園ものの下地も強いことが窺える。
そもそもライト文芸というジャンル自体が、ケータイ小説や少女小説、BLのみならず、ライトノベルや児童書ともかなり密接な関係性を持っているのであり、『恋空』『deep love』といったケータイ小説の文脈だけで語ろうとすると片手落ちになってしまうのだ。

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