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後宮異修羅、開幕す『後宮の百花輪』

 
 ライト文芸を中心に大ブームとなっている後宮もの中華ファンタジー。
 後宮ものの中心と言えばやはり皇帝との恋愛ですが、恋愛劇はちょっと苦手……という読者もいることでしょう。

 中華後宮や恋愛ファンタジーに苦手意識のある方にこそ読んでもらいたいライト文芸が、『後宮の百花輪』です。
 
 最初に言っておくと、これは恋愛ものではなく、『異修羅』や『嘘喰い』に近いバトルものです。

 嘘だろ!?と思う人はこれからあらすじを紹介するので読んでください。

 兄嫁に虐げられる毎日を送る少女・明羽は、ものの声が聞こえる不思議な力を使って侍女として憧れていた後宮に入る。
 ところが、煌びやかな後宮で行われていたのは侍女を殺し合わせ最後まで生き残った侍女の主を皇帝の正室とするデスゲーム「百花輪の儀」であった。
 権力と富を求める各地域の有力者が擁立した妃と侍女によって後宮で繰り広げられる権謀術数と暴力の戦い。
 しかし明羽の仕える妃はなんの知識も教養もないポンコツだった。
 どうやってこの殺し合いを切り抜け主を正室に出来るのか!?

 ……というのがあらすじです。
 あらすじからわかる通り、後宮恋愛ものというより後宮版『異修羅』といったほうがよく、『異修羅』の陰謀バトルが好きな人間は絶対好きになれると思います。
 後宮小説なのでほぼほぼ後宮だけで話が進むのですが、その裏では各地域の思惑や陰謀が見え隠れしており、重層的で厚みのある世界観を感じられます。
 「地域の権力者が妃を擁立して戦わせる」という設定も、異修羅っぽいですよね。
 その敵の地域から擁立された妃も、オレっ娘っぽいやつ、一見おとなしそうなのに腹黒いやつ、生意気なガキんちょ、主人公と同格の力を持つやつとバラエティ豊かかつ譲れない信念を持っていて魅力的。
 そんな敵から仕掛けられる種々の陰謀を解き明かしていく後宮ものとしては定番の要素に加え、主人公が拳法の使い手なので、暴パートもちゃんとあります!
 ヴィランとしてアサシンババアとかも出てくるよ!

 妃同士が足を引っ張り合うストーリーは意外とレディコミ的……に見えて実は少年ジャンプっぽいです。
 主人公が拳法の使い手だったりその相棒がかつて最強の武侠と共にいたとかいう設定もそうなんですが、優秀な先輩格が退場してヘタレキャラが覚醒したり、命を取り合う非情な世界の中にあっても貫き通す仁義や友情が見えたり、すごく少年漫画的なストーリー展開が盛り込まれていて、女性向けライト文芸に苦手意識を持つラノベ読みでも楽しめるのではないかと思います。

 あと、びっくりしたのは作中で後宮ものライト文芸やナマモノBL小説が普及しているという設定があるということです。
 突出したトンチキ要素なのですが、こういうライト文芸がゴリゴリのメタ要素を入れてくるのは本当に驚きでした。

 すごく『異修羅』や少年誌に通じるような内容なのに、出版社の宣伝文句は薬屋のひとりごととかあのあたりを意識したラブコメディっぽくてちょっと損しているかもな……とも感じました。

 なので、『異修羅』や『呪術廻戦』や『嘘喰い』が好きなオタクは間違いなく適性があると思われるので、これを読んで気になったひとは是非手に取っていただきたいライト文芸です。
 


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