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瞬間小説​『タヌキの嫁入り』

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俺は、動物専門の詐欺師である。

動物と会話できるという、生まれながらの能力を利用し、動物カウンセラーとして森を渡り歩き、動物たちから金品を騙し取って生計を立てている。
人間社会に愛想をつかせた俺にとっては、うってつけの商売だ。

さて、今日のカモはメスのタヌキだ。
金を持っているかどうか怪しいが、最悪2、3日分の食料にはなりそうだ。

俺「えーと、つまり、こういう事だね? とある人間の男性に恋をしてしまったので、人間の姿になって、その人と結ばれたい……、と。」

タヌキ「はい。あの人に会うためなら、どんな事でも……。」

俺「しかし、キミ、タヌキだろう? 人間の姿に化ける事くらいできるんじゃないのかね?」

タヌキ「それが…、先日やっと石ころに変身できるようになったばかりで、人間に化けれるようになるまで、あと何十年かかるか……。」

俺「なるほど。狐の嫁入りだって結構珍しいのに、狸の嫁入りは相当な難易度だよ? 狐の嫁入りが☆2くらいのレア度だとすると、狸の嫁入りは☆5のスーパーレアだ。分かるかね?」

タヌキ「そういう難しい事は分かりません。でも、私、なんでもやります!」

よしよし、食いついてきたな。動物は単純で純粋だから騙しやすくていい。

俺「よし、 そういう覚悟であれば、人間に変身する方法を教えよう。」

タヌキ「あ、ありがとうございます!」

俺「まずは、星の砂で、体毛が完全に抜けるまで、体中を擦るんだ。」

タヌキ「星の砂って、あのギザギザしたやつですか? 痛そうですね…。」

俺「うん、まあ、相当な痛さだろうね。やめとくかね?」

タヌキ「い、いえ! そのくらい我慢します!」

これは、かなり本気のようだな。もう少し脅しておくか。

俺「その後がちょっと大変だ。今度は人間の絵が描かれた、伸びる枕カバーの中にすっぽり入って、1週間ほど塩水に浸かっていないといけないんだが…、運が悪いと死んでしまうこともある。」

タヌキ「そんな…、死んじゃったら、あの人に会えなくなっちゃう……。」

さて、このくらいでいいか……。

俺「実は、もっと安全で成功率の高い秘薬もあるんだが……。これが、かなり貴重な薬で、オークションでも1億円以上の値が付く代物なのだよ。」

タヌキ「1億円はありません……。100万円なら持ってきてるんですが……。」

なんと! このタヌキ、100万円も持ってるのか! これはチャンスだぞ!

俺「しょうがない。今回は特別に100万円で売ってあげようじゃないか。」

タヌキ「本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」

なんという喜びようだ。そこまで、その男に会いたいというのか。
人間の女でも、ここまで一途な想いというのは見た事が無い…。
いやいや、仕事に情は禁物だ。俺はこいつから金を奪えればそれでいい。

俺は、薬箱からただの胃薬を取り出す。
少し気がひけるが、これが詐欺師の仕事だ。

俺「これがその秘薬だ。ただし、成功率が高いと言っても、100%変身できるとは限らない。万が一変身できなくても返金はできないが、いいかね?」

タヌキ「はい! 構いません!」

タヌキは、布袋からゴソゴソと100万円の札束を取り出し、俺に手渡した。

俺「一応、本物かどうか調べさせてもらうよ? 葉っぱのお金なんて、タヌキの得意技だからね。」

俺は、虫眼鏡で札束の1万円札を拡大して調べてみる。

どうやら、葉っぱでは無いようだ…。

俺は、胃薬をタヌキに手渡す。

俺「この人間の女性の写真を見ながら、変身後の姿をイメージするといい。」

タヌキは薬を飲むと、俺秘蔵の美少女メイド写真集を真剣な眼差しで見つめ、一生懸命に念じ始めた。

俺「まあ、もし変身できなくても、また100万円持ってこれば……」

ポンッ!

タヌキは煙と共に、瞬時にして美少女メイド(少しタヌキ顔)に変身した。

俺「うわ!」

こいつは、たまげた! 本当に変身しやがった! ただの胃薬なのに!
恐るべしプラシーボ効果! いや、こいつの気持ちがそれほど強いのか!?

タヌキ娘「できました! 先生! 本当に変身できました!」

俺「う、うむ。やはり、高価な秘薬だけの事はあるね……。その格好なら、男のところに突然押しかけて行っても設定的にアリだ。まあ、あとはキミの努力次第だね。」

タヌキ娘「はい! 行ってきます! このご恩は一生忘れません!」

少女になったタヌキは、そう言うと、舞うように街へ走って行った。


人間だってなかなか幸せになれない、こんな世の中だ。
ましてや、動物があの人間社会で幸せになるなんて、まず不可能だろう。


しかし、まあ……

「あのタヌキ娘なら、案外、幸せになっちまうかもしれないな……。」

俺は一人、そうつぶやくと、手描きで細部まで丹念に描き込まれた100枚のニセ札をペラペラとめくりながら、久しぶりに口元を緩ませた。


<完>

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※「おまけの後日談」

……というのが、俺と彼女のはじめての出会いだった訳だ。

この後、数年振りに人間社会に戻った俺はタヌキ娘と再会し、周りの人間や動物たちを巻き込んで、アクションあり、心理戦あり、ロマンスありの、アニメにでもなりそうなドタバタストーリーを繰り広げる事になるのだが、元詐欺師の俺としては、当時の事は恥ずかしくてあまり語りたくは無い。

どうしても詳しい話を聞きたきゃ、そこにいるタヌキ顔の嫁に聞いてくれ。

<再完>

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※この作品は、甘井りんごさん(発案)、ならざきむつろさん、角田文人さんとのプチ企画「三題噺」のお題ワード「狸の嫁入り」「伸びる枕カバー」「星の砂」を組み込んだお話です。

他の3人の作品はこちら!(投稿順)(’〜^)b

●三題噺 by 角田文人 さん
 →https://note.mu/jjunb/n/nadfbfa047024

●三題噺を書いてみる。 by ならざきむつろ さん
 →https://note.mu/muturonarasaki/n/n748ce15eb4e6

●風花の夜の祝言 by 甘井りんご さん
 →https://note.mu/ringo3310/n/n09d83b165048 (第1話)


☆表紙絵 by さとねこと さん → https://note.mu/satonekoto

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※有料ノートにコメントが書き込めない仕様変更があったようなので、無料ノートに変更します。投げ銭は「サポート」からしてもらえると、にゃろ族一同とても喜びます!w(’~^)ゝ

サポートしていただいたお金は、カレーや南インド料理などを経て、僕の命に還元されます。w(’〜^)ゞ