American Picture Book Review #2 『シェイズ・オブ・ブラック』

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/6/2号

SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children
著:Sandra L. Pinkney
写真:Myles C. Pinkney

 先日、日本では都立高校の『地毛証明書』が物議を醸したが、アメリカには存在し得ないものだ。ありとあらゆる人種民族の混合国家ゆえに髪も文字どおり十人十色。よって全校生徒の外観を一律に揃えるという概念は無い。

 しかし髪について、アメリカは多人種国家ならではの問題を抱えている。女性の美を象徴するのは今もブロンドだ。実際には白人にも様々な出自があり、アメリカでは生まれつきの金髪はそれほど多くないにもかかわらず。ハリウッド女優やCNNのキャスターから一般人まで含め、アメリカの金髪女性の大半は実は染めているのである。

 それでも白人であれば髪を染めれば「美の象徴」を象ることができる。より深刻な問題を抱えているのは黒人だ。奴隷時代から永年にわたって濃い肌の色、縮れた髪という外観をも蔑みの対象とされ、強い自己嫌悪、自尊心の欠如を抱えてしまった。それを覆すために生まれたのが、有名な「ブラック・イズ・ビューティフル」というフレーズだ。黒人生来の美を認め、強烈な自己肯定を意識的に促したのだった。

 ところが黒人の肌と髪には驚くほどのバラエティがあり、中には白人と見紛うほどに色が薄く、直毛に近いことすらある。理由は、奴隷制時代に多くの黒人女性が白人男性にレイプされたことだ。この残酷な歴史により、現在アメリカに暮らす黒人はヨーロッパのDNAを持つ。黒人の子供たちは白人との外観の違いにコンプレックスを持つだけでなく、黒人社会内部においても「白人により近い肌の色、縮れのゆるい髪のほうが美しい」という概念に捉われてしまう。そのスティグマを防ぎ、黒人の外観の多様性を子供たちに伝えるための写真集が『シェイズ・オブ・ブラック~私たちの子供のセレブレーション』である。

 モデルとなった黒人の子供たちの肌の色、髪の質は見事にバラバラだ。それぞれの肌の色とマッチした「バニラ・アイスクリーム」「クッキー」「チョコレート」を手にして写っている。フワフワしたアフロヘアの子は「コットンボール」、直毛の少年は「真っすぐでシャープな葉っぱ」、ドレッドロックの子は「羊さんのウール」だ。そして「どの髪もぜんぶグッド」「わたしは黒人・ボクはユニーク」「自分でいることを誇りに思う」と記されている。個の違いを尊重して子供のプライドとする、まさに『地毛証明書』の対極をなす写真集なのである。

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