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スパイ業界の掟破り、トランプ大統領の痛恨のミス

トランプ大統領の情報漏洩は、スパイ業界の掟「サード・パーティー・ルール」に違反する行為だった。

■トランプは口が滑ったのか?

トランプ大統領は口を滑らせたのだろうか、それとも確信犯だったのか。トランプ大統領誕生に大きな役割を果たしたとの疑惑を持たれているロシアに、機密情報を漏らしたというのだ。

ワシントンポストやこれを後追いしたニューヨークタイムズなどによると、トランプ大統領は先週、ホワイトハウスを訪問したラブロフ外相とキスリャク駐米ロシア大使に対して、機内持ち込みパソコンを使ったIS・イスラム国の航空機テロ計画に関する情報を語り始めたという。大統領は機密指定を解除する権限を持っており、この漏洩自体が罪に問われることはない。しかし国家への損害は甚大だという。

■スパイ業界の掟破り

最大の問題は、大統領の口から漏洩された機密情報が、イスラム国掃討のパートナーとも言える同盟国からアメリカに提供されたものだったことだ。提供主はイスラエルともされている。

ある国のスパイ機関が独自の情報を同盟国に提供するとき、通常その文書のヘッダーにはこう書かれている。

<NOT TO BE DICUSSED WITH THIRD COUNTRIES>

「第三国に話すべからず」という意味である。これは「情報提供国の同意を得ずに、第三国に情報を伝えてはならない」というインテリジェンス界では万国共通の掟で、「サード・パーティ・ルール」と呼ばれる。

日本政府のテロ対策担当者はこう語る。

「日本ではこうした情報は特定秘密に指定される。米国でもトップシークレット扱いだろう。サード・パーティ・ルールを守らぬ国は信用されず、重要なインテリジェンスは貰うことはできない。だからこそ日本は特定秘密保護法を作らざるを得なかった。トランプ大統領が本当に喋ったのなら、恐ろしいミスだ」

漏洩先のロシアは元KGBのプーチン大統領が率いる諜報大国だ。ロシアのスパイ機関が、トランプが喋った内容を分析して情報源や情報獲得技術を把握する恐れがあるとの指摘も出ている。

こうなれば、イスラム国掃討作戦には甚大な影響が出る。

■駐米ロシア大使スパイ疑惑

もう一つの問題は漏らした相手である。ラブロフ外相は豪腕職業外交官だが、キスリャク駐米ロシア大使(66歳)については諸説ある。

CNNは今年三月、こう報じている。

<現職と元職の諜報当局者によると、キスリャク大使はトップスパイであり、スパイの勧誘員(リクルーター)である>

キスリャク大使はトランプ政権のフリン安全保障担当補佐官やセッションズ司法長官らと秘密接触をしていたという渦中の人物なのだ。

キスリヤクは、1977年にロシア外務省に入省、在米大使館や国連代表部など米国畑が長く、NATO代表や外務次官も務めている。このためロシア外務省の女性報道官はCNNのぶら下がり取材に「彼は著名な、国際レベルの外交官です。スパイとか、勧誘員とか?オーマイゴッド!嘘や誤報を垂れ流さないで!」と撥ね付けた。

だが、ロシアのスパイが身分を偽装するのは、珍しいことではない。したがって、「キスリャク大使スパイ説」は依然、くすぶり続けている。

今回の報道について、国務長官や大統領補佐官は漏洩の否定に躍起だ。だが、当のトランプ大統領はツイッターで「私はロシアと情報共有したかった。私はそうする権限がある」と開き直った。しかしトランプ大統領は、ロシアの大統領選挙干渉疑惑を指揮していたFBI長官を解任したばかり。ロシアとのただならぬ関係がより一層疑われることになるだろう。

今後、米国に機密情報を提供する国は、文書のヘッダーに、こう書くようになるかもしれない。

<NOT TO BE DISCUSSED WITH YOUR PRESIDENT(この情報を大統領に提供してはならない)>