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漫画『BANANA FISH』感想・考察 ユニコーンと処女


今まで読んだ漫画の中で間違いなく最も鮮烈に残っている。
そう思うのはこの漫画のキャラクターが抱えるものとそのキャラクターたちを取り巻く闇によるものが大きいからなんだろう。
LEON好きな人は好きそうだなと個人的に思った


ちなみにバナナフィッシュとは、アメリカのJ•D•サリンジャーによる『バナナフィッシュにうってつけの日』という短編小説に出てくる、見ると死にたくなる魚から名前をとっています。
この漫画はヘミングウェイとかサリンジャーとか出てくるから文学の知識があるとより楽しめそう。
アニメの各話のサブタイトルは文学作品のタイトル。「バナナ・フィッシュにうってつけの日」「ライ麦畑でつかまえて」「キリマンジャロの雪」など。

私は原作派です。でもアニメは作画が綺麗。さすがMAPPA。

あらすじ



主人公アッシュにはIQ200越え、狙撃の名手、不良をまとめあげるカリスマ性、圧倒的な美貌、暗い過去ありと設定がわりと盛り盛りなんだけどそれが嫌な感じにならずうまくストーリーが進んでいる。
舞台はアメリカで、時によって場所はマンハッタンだったりNYだったりロスだったりケープコッドだったりとかなり変わる。


ひらたく言うと街の不良少年アッシュが「バナナフィッシュ」に関わるようになってから追われる身となり、ずば抜けた頭脳と戦闘能力を生かしながら「バナナフィッシュ」の謎を解いていく話。
その間にある日本人英二との出会いがあり、心の動きがあって成長していく。
さまざまな人物と関わることでさまざまな人物の複雑な感情が交錯する物語。

ネタバレ無し感想

様々な愛の形に突き動かされる登場人物達


この作品の一つのテーマは愛だと私は思う。
恋だの愛だのを超越さえする崇高な関係もあれば、歪んだ愛から来る執着もあり、愛を知らない人もいれば嫉妬や憎悪もある。
私は嫉妬や憎悪もある意味愛の形の一つだと思っている。嫉妬や憎悪から派生した強い憧れに心酔してしまい、偶像崇拝みたいになっている人もいた。
愛しているから殺さないといけなかった、愛しているから離れないといけなかった、愛しているから助けたかったなど、様々な愛の形が各々を突き動かしていた。愛の形ってこんなにたくさんあるんだと心が少し軽くなった。

グローバルな舞台設定と現実味のあるストーリー  世の中そんなに甘くない。


イタリアンマフィアも出ればソ連のKBGも出るしFBIも出るしNY市議会の人間もホワイトハウスも出る。
ただ全部腐りきっていて正直胸糞。
それに立ち向かうIQ200越えのアッシュの勧善懲悪を期待するけど世の中そんなに甘くない、ところどころスカッとする展開はあれど基本的に胸糞。
でも物語に一貫して落ちる影の濃さが登場人物たちをより引き立てている。
あとベトナム戦争とかニカラグアとか、アメリカの陰謀が働いている世界史上の事件の知識があると読みやすいかも。国家間のイデオロギーの対立や不良少年たちのルーツとなる民族間の対立などたくさん対立要素が絡んできてそれもまた面白いしその民族性が描かれる部分もあってキャラクターの個性が際立っていた。
全てはバナナフィッシュをめぐり起こっているというところに落ち着くからたくさん要素があってごちゃごちゃになりがちだけど理解できないほどではない。

ラストは号泣だしこれぞ不朽の名作なのでみてほしい。漫画でもアニメでも。とりあえず皆さんネトフリのマイリストに追加しておきましょう。



⚠️以下ネタバレ有り-ラスト考察-








衝撃だった、本当に。受け入れられなくて、考察することで自分が救われようとしています。

アッシュの刺し傷は急所を外れていた。(「光の庭」参照)あそこで助けを求めれば助かったかもしれないのに1人図書館で死ぬことを選んだ、、、
なぜ死を選んだんだろう?

ユニコーンと処女

「Virgin and Unicorn」Domenico Zampieri

ユニコーンと処女の話。
ユニコーンは非常に獰猛で、「悪魔」「憤怒」の象徴でもある。一方で、処女の懐に抱かれておとなしくなるという性質もあり、処女だけがユニコーンを捕獲できると言われている。
作者の吉田先生もアッシュがユニコーン、英二が処女だと言及していた。

アッシュはずっと「娼夫」や「ゴルツィネの駒」、「不良少年のボス」など、たくさん肩書きや立場があってそれから逃れることはできず、それが運命であると思いながらも心のどこかでは逃れたくて苦しみもがいていた。

 
小さい頃生き延びるために人の殺し方を学び、ゴルツィネから特別な訓練を受けさせられ常に気が抜けない状態だったアッシュが、英二といるときだけはただの17歳の子どもに戻れていた。
英二といるときには唯一隙を見せると作中で言われていた通り、英二からの手紙を読んでいるときも立場も何もないただの子どもに戻り隙ができてしまった。だから刺された。

立場からの解放



そこでアッシュが死ぬ選択をしたのは、立場もなにもないまま運命にあらがって解放されたかったからだと思う。
英二により解放され、死によってそれが永遠となる。だからアッシュはじわじわ苦しみながら死んだに違いないのに幸せそうな顔をしていた。
1人になりたいときには決まって図書館に行っていたアッシュだったから、死に場所には立場からの解放という意味を込めて図書館を選んだのだろうと思う。
もしアッシュが死んでいなくても、彼は立場を抱え込んだまままた同じようにゴルツィネのような人間に利用されてしまうだろうし、
英二と日本に行ったとしても、彼の性格上亡き親友や失った数々の仲間のことを思うとのうのうと生きている自分が許せないだろうし、
一生人を殺すときに何も感じない自分との二面性に苦しむことになるだろう。
だから、死はアッシュの解放という意味ではとても重要でありなくてはならなかったと思う、、、

(持論)美について考えたこと



これは持論なのですが、、、美しいものは散るときが最も美しいと思っている。
だから圧倒的な美貌のアッシュの死というのは鮮烈な印象を私たちの心に残す。
死によって文字通り彼は永遠に生き続ける。美しいものは儚く脆いもの。
美しいものの一過性に魅力を見出すのであり、危ういところが一層美しさを引き立てる、まさにそれがアッシュであり、アッシュの死でバナナフィッシュをめぐる騒動は完結する。
綺麗な構造だなと思った。

アッシュの死は汚い大人たちの死をある意味浄化する作用を持つから、アッシュはその闇を全て引き受けて散ったように私には感じた。
上で述べたように本来は瞬間性、刹那的なものに美しさを見出すけれど、アッシュの場合は死によってその美しさでさえ永遠のものにしたとも思った。
だからアッシュは死ななければならなかった。

とこうでもして考察しないと、、耐えられない、、

余談 リヴァー・フェニックスとアッシュ・リンクス

アッシュのモデルはリヴァー・フェニックスだとかなんとか。
リヴァー・フェニックスもかなり壮絶な人生、、、

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