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目つきのするどい勝又くんと、わたし6

「あんな…うち、勝又くんに伝えたいことがあんねん」と言ったそのとき…

ブー
玄関のブザーが鳴り、
勝又くんは「はいはーい」と席を立ってしまった。
なんて間の悪い…そう思ってしまった。

「こんにちは!勝又さんをお送りしましたー!
特にお変わりなくお過ごしされてました!
リハビリも頑張っておられましたよー!」と言って、デイサービスだと思われる職員さんは帰って行かれた。

「爺ちゃんおかえりー!」
「お邪魔しています!」
玄関先の暖簾の辺りまで迎えに行く。

お爺さんは、杖を置いたあと
勝又くんの肩を借りヨイショッと言いながら、玄関で器用に靴を脱ぎ
「いらっしゃい、笹原ちゃんやったな!よう来てくれたな!」と陽気に挨拶してくれた。

「笹原ごめん…さっき、何か言いかけたやんな?」と勝又くんは言ってくれたけど、

「いいよっ、良いよ、大丈夫やしっ」と
はぐらかしてしまった。
その後も「爺ちゃんっ、手洗いすんでっ!うがいもやで!」と忙しそうにしていたので

「そろそろ帰るなー!!また学校来れるとききてなー!」と言って勝又くんの家をあとにした。

空は薄暗くなって、星が瞬き始めていた。

「笹原ーー!ありがとなー!気をつけて帰れよー」と勝又くんはベランダを開けて、大声で叫んでくれた。

なんだかその声がとてもくすぐったかった。

その夜、いえでご飯を食べながら
夜勤明けのお母さんに認知症のことについて
尋ねてみた。

「なー、お母さんー」
「なんや?急に…」
「認知症のひとの症状って軽くならへんのかなぁ?」と尋ねると
「アンタが介護のことに興味示すなんて珍しいやん」と言われてしまった。

「いや…あの…知り合いの人にそういうひとがおってな、段々と感情の起伏が激しくなってはんねんて」

「そうなんや…それは大変やなぁ。それで?そのひとはご家族と住んではんの?」

「うん…、けど介護してはるその人も、
どうしてあげたら良いか分からはらへんみたいやった」と言った。

「わたしのお母さんの時もせやったけど、身内になるとやっぱり難しいよねぇ。今まで出来てたことが段々と出来んようになって、それに対しての苛立ちがあるから…ついキツい口調になってしまう。…でもな、声掛けひとつで症状が落ち着くことはあるんやで?」

「それってなになに?!」
わたしは思わず身を乗り出して聞いてしまった。

「それはな、相手の言葉に寄り添うことやな。
たとえ同じことを何度も尋ねられても、相手が尋ねたことに苛立たずに、初めて聞くように答えてあげることや」

「ゔ…それってめっちゃ難しいやん」

「せやで、逆にいえば身内やとそれをするんは難しゅうなるなぁ。仕事やと割り切れるから出来ることもいっぱいあるんやで?」

「そうなんや…」

「家族間だけで何とかしようと思ってても、ずっと見てるわけ行かへんやろうから、無理があると思う。やからこそちゃんと介護サービスを使ってほしいな」とお母さんは言った。

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