幸せのカタチ
秋が終わりを告げようとしていた。
紅く染まった木の葉が揺れ、ハラハラと地面に舞い落ちる。
そんなとある日の午後。
1匹の猫が、歩道の隅に丸まって眠っていた。
僅かに揺れる光のしたで気持ちよさそうに眠っている。
その横を足早に過ぎる人たち。
通り過ぎてゆくその人たちには、この1匹の猫は見えていないようだった。
もしかするとその人たちには、いつもと変わらない光景だったのかもしれない。
それでも私はその猫が気になり、ふと足を止めた。
首輪もしていない少し痩せたその猫は、きっと野良猫なのだろうと思った。
黒としろのハチワレの猫だったが、よく見ると何かに引っ掻かれた傷があった。
もしかすると、何か縄張り争いに巻き込まれたのかもしれない。
或いはご飯の争奪戦に負けてしまったのかもしれない。
この猫も寒空の下、懸命に生きてるのだと思うとわたしも頑張らなければいけないと思った。
何気ない日常には、楽しみもあるけれど
理不尽なことも多い。なぜこんなことが起きるの?!ということが平気で起こったりする。
そうそんな日には、思わず涙を流したいと願ってしまうものだ。
先ほど訪問した先の人に、「こんなパッケージは頼んでない!一からやり直してくれ」と強くあたられ何とも言えない感情に押しつぶされそうだった。
やってくれと頼まれたものを見せただけなのに、辛辣な対応が帰ってくるのが悔しくて堪らなかった。
なんでこんな事が起きるんだろう…
その度にその気持ちは、理不尽だと思いつつもじぶんの心を宥めるために、自分自身の気持ちの持ちようでプラスにもマイナスにも物事は捉えられるのだと言い聞かせていた。
猫がゆっくりと寝返りを打つ。
気持ちよさそうに眠るその姿は平和そのものだった。
この猫も、もしかしたら大変な中に小さな喜びを見つけ、自分なりにこの日常を楽しんでいるのかもしれない。
そう思うと、なぜか勇気をもらえた。
「よぉし、頑張ろう!」そう1人つぶやいて寒空の下を再び歩きだした。
未来は自分で創るものだから。
日々仕事に向き合えることに感謝しながら、歩きだした。
冬が来る。
今年の冬はどんな冬になるだろうか。
うまく行くと念じればきっと、何か楽しい出来事が起こるに違いない。
まだ見ぬ出逢いに期待しながら、紅く染まる並木道を歩いた。
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